閑話 ウルスの休日 1
ウルス視点のお話となります。
「あ、ウルス。明日から、特別休暇三日間を進呈します！ ロンダ国であの女の正体を調べるのに、無理させたからね～。ぼくから、ウルスへのサプライズプレゼント！」
と、俺の主である王太子が、うさんくさい笑顔で言った。
は？ また、突然すぎるだろ…。
「休みのサプライズプレゼントって、嬉しくないんだが。仕事の予定もあるし、前もって言って欲しい」
俺がそう言うと、王太子は、
「じゃあ、いらない？ だったら、ぼくが代わりに休みをもらって、…そうだ、ルイスと一緒にピクニックに…」
と、目を輝かせ始めた。
俺は、あわてて、
「なんで、フィリップが俺の代わりに休みをとるんだ？！ それに、いらないとは言ってない！ 休みはもらう！」
と言いきった。
そして、その日は、いつも以上に仕事をこなし、残業をして、俺のいない時の仕事の割り振りと引き継ぎをして、ようやく帰路についた。
俺の実家は子爵家だ。王都に屋敷があり、王宮まで通える範囲ではあるが、多忙な仕事なので王宮に近い方が便利だ。だから、王宮で働く独身男性のための宿舎に入っている。
ちなみに、その宿舎にいるのは騎士が多い。しかも、脳筋比率が極めて高い。
くたくたで自分の部屋に入ろうとしたところ、前の部屋に住んでいる同じ年の近衛騎士、ローアンにばったりあった。
言わずと知れた脳筋一号だ。やたらと元気でうるさいので、疲れてる時は避けたかった…。
「おお、ウルス！ 今、帰りかー。いつにもまして、よれよれだなあ？！」
と、でかい声で言うなり、俺の背中をバンッと勢いよくたたいた。
頭脳専門で、筋力が乏しい俺。脳筋の力に、ふらりとバランスを崩す。
危うく転びそうになったところを、脳筋ローアンのたくましい腕で抱きとめられた。
「おい、大丈夫か！ ごめん！ まさか、これくらいの力でよろけるとは思わなった」
と、ローアンにがっしり抱きとめられながら言われた。
よれよれな上に、こんな夜遅く、脳筋の腕の中にいる俺…。
疲れが倍増して、心がどっと削られる。
なんとか、残った力を振りしぼり、ローアンから離れて、部屋へ入ろうとした時、
「ああ、そうだ。ウルスの今度の休みいつ？」
と、聞かれた。
「明日から３日間」
ぼんやりしたまま答える。
「おお、ちょうど良かった！ あさっての午後、暇じゃないか？」
「…なんでだ？」
そこで、ローアンが嬉しそうに言った。
「俺、今度結婚するんだ」
「…はああ？！ おまえが？！」
と、俺は思わず叫んだ。
ローアンは、恥ずかしそうにして、
「ほら、俺、もうじき、騎士を辞めて、実家の男爵家を継がないといけないだろ。だから、婚約者と結婚することになった」
と、言った。
そう言えば、ローアンは男爵家の一人息子。どうしても騎士になりたくて、親を説得して、期間限定で騎士になったんだったな。
「それにしても、ローアン、婚約者いたのか？」
「そりゃ、郊外の小さい男爵家だが、一応、一人息子で跡継ぎだからな。近所の男爵家の娘で、幼い時からの婚約者がいる。まあ、幼馴染で一緒にいて楽だしな」
そう言うと、照れたように笑った。
はあー、更に疲れが増した。疲れすぎて、人の幸せが全く喜べないんだが…。
とりあえず、
「おめでとう。俺の分まで、しあわせになってくれ」
と、棒読みで言って、部屋へ入ろうとしたら、
「待て待て待て！ それでな、あさっての午後、婚約者が王都にでてくるので、カフェで会う約束をしてるんだが、友達が一緒について来るんだって。その子には婚約者がいないので、だれか俺の友達でいい人がいたら連れてきてって言われてる。
ウルス、一緒にいかないか？ ウルスも婚約者はいないだろ？」
「…まあな。でもな…おまえの婚約者の友達…？」
疲れ切った頭で考えてみる。が、仕事で使いきった頭は止まったままだ…。
「いいじゃないか？ どうせ、暇なんだろ？ それに、かわいい子かもしれないし。
仕事ばっかりのウルスに運命の出会いがあるかもしれないぞ！」
ローアンが、夜なのに、すごいテンションの高さで誘ってくる。
立っているのも限界になってきた俺は、どうでもよくなって、
「わかったよ」
そう答えると、喜ぶローアンを振り切って、やっと部屋に入り、泥のように眠った。
今回から、しばらくウルス編となります。色々不憫なウルスですが、よろしくお願いします。
