閑話 お茶会のあとで
今回は、アリス視点です。
ルイス殿下と婚約者になり、５年がたった。
が、二人の関係に変化はない。会話もない。
そんな状態なのに、月一回の修行のようなお茶会は続いている。そして、今日がそのお茶会だった。
何故だか、だされるお菓子だけが、どんどん増えていっている。
しかも、どれも美味しい…。
こんな修行のようなお茶会ではなく、楽しく食べられれば、どれだけ嬉しいか…。
帰り際、王宮の廊下を歩いていると、
「こんにちは。アリスちゃん」
と、いきなり声をかけられた。
見ると、騎士服を着た、すらりと背の高い、とても美しい女性だった。
でも、なんで私の名前を知ってるの？
不審に思いながらも、
「こんにちは。ええと、どなたでしょうか？」
と、聞いてみる。
「私は王妃で辺境伯だ」
そう言って、にっこり微笑んだ。
…えええ？！ 王妃様？！
思わず、卒倒しそうになった。
私はあわてて、
「王妃様！ ご無礼を…。本当に申し訳ござい…」
と、謝っていると、即座に遮られた。
「ああ、気にするな。王宮で働いている者でも、私の顔を知らない者はいるからな。
ほら、辺境の方に長くいるから、こっちにあまり帰ってこれないんだ。
顔を知られてない王妃って、便利だぞ？ こんな風に、一人でふらふらできるしな。ハハハ！」
と、豪快に笑った。
さっぱりして、気持ちが良さそうな方だなあと、少し緊張がほぐれた。
「で、アリスちゃ…、言いなれないと言いにくいな。悪い、アリスと呼んでもいいかな？」
と、王妃様。
「もちろんです。王妃様」
そう答えると、王妃様は、嬉しそうにうなずいた。
「アリス、少し時間はあるか？」
もう帰るだけだしね。
「はい、大丈夫です」
私が言うや否や、私の手をとって、
「じゃあ、こっちへ来てくれ！」
と、楽しそうに歩き出した。そして、部屋に招き入れられた。
机と椅子だけが置いてある、飾り気のない、なんともシンプルな部屋だ。
「王妃の部屋がこんな殺風景でびっくりしたか？ 物にこだわりがなくてね。使えたらいいんだよ」
うん、色々、びっくりしてしまうわね…。
そこで、待機していた、メイドさんに王妃様がなにか指示をだした。
すぐにお茶とお茶菓子が運ばれてきた。
ええと、今、ルイス殿下とのお茶会の直後で、おなかはいっぱいなんですが…。
すると、王妃様は、なんだか目をきらきらさせて、
「アリス、これ食べてみないか？」
と、いきなり、マカロンを指さした。
ふと、ルイス殿下を思い出す。
言い方は違うし、なにより表情も違うけど、言ってることは同じだ。
さすが親子ね…。
「ええと、ルイス殿下とのお茶会のあとで、今、おなかいっぱいで…」
「あ、そうだよな。ダメだよな。食べてるところを、すこーしだけでも見たかったんだけどな…」
…ええと、王妃様は何を言ってるのかしら？
でも、あまりにがっくりした王妃様の顔を見ると、
「じゃあ、少しだけいただきます」
そう言って、一口食べた。
大好きなマカロンだし、少しならいけるはず。
あれ？ マカロンって、こんな味だったっけ？
おかしいな。もっと美味しかった気がするんだけど…。
だって、さっきルイス殿下のお茶会だされたマカロンは、すごく美味しかったのに。
…あ！ 私、ルイス殿下とのお茶会でだされたマカロンの味と、比べてしまってる。
そういえば、最近も、好きだったお店のケーキを食べた時、あれ？と思ったことがあった。
今にして思えば、あの時も、私、比べてたんだわ！
確かに、ルイス殿下のお茶会でだされるお菓子は、どれもすごーく美味しいもんね。
つまり、舌があの味を覚えてしまい、他のお菓子が、それほど美味しく感じなくなったのね…。
なんて、色々考えながら、食べていると、
「やっぱり、かわいいな。欲しいな…。連れて帰るかな…」
と、つぶやく声がした。
はっとして、顔をあげると、王妃様が目を輝かせて、じーっと私の顔を見ていた。
びっくりしたー！
私、何か変なことをしたっけ？と、不安になったところで、
「アリスは、自然は好きか？」
と、王妃様が聞いてきた。
え？ いきなり、なんだろう、この質問。
「…ええ、好きです。お花とかも好きだから」
私が答えると、王妃様は満面の笑みをうかべた。
「私の領地はな、季節おりおりの自然の花がいっぱい見られるんだ。すごいきれいだぞ」
と、王妃様。
「それは、うらやましいです」
私が答えると、
「アリスは、動物は好きか？」
と、更に、王妃様が聞いてきた。
えっ、ほんとに、なんだろう、この質問。
「…ええ、好きです。特に、小さな動物が好きです」
不審に思いながらも、そう答える。
「そうだろうとも。仲間だもんな」
王妃様は、そう言いながら、うんうんと、力強くうなずいた。
仲間？ 訳がわからないんだけど…。
「私の領地にはね、沢山の小動物がいるから寂しくないぞ。城にも遊びに来るしな」
…は？ ますます、よくわからないんだけど…。
でも、王妃様がにこにこされて嬉しそうだから、まあいいか…。
「アリス、一度、私の領地に遊びに来てくれ。いいところが山ほどあるから、絶対気に入ってもらえると思う」
王妃様が自信満々に言った。
ちょっと行ってみたい気もするけど、ルイス殿下と行くのは無理だなあ…。
「ああ、もちろん、ルイスと一緒に来なくていいからな！ ルイスはどうでもいい。
それよりもアリスだ。アリスさえ来てくれたら、いいからな。是非、来てくれ！」
王妃様は、そう言って、またもや豪快に笑った。
結局、一度、辺境の領地に遊びに行くことを約束させられて、私は解放となった。
王妃様…。さっぱりしていい方そうなんだけど、不思議な方だったわね…。
それと、私は、今日、はっきり気づいたことがある。
お菓子に関して、私の口がおごってきたということだ。
これも全て、ルイス殿下のお茶会ででてくるお菓子が美味しすぎるせいだわ。
まさか、こんな弊害がでてくるなんて…。
私が、ルイス殿下のお茶会でのお菓子以外食べられなくなったら、どうしてくれるの！
今回は一回だけのアリス視点の閑話でした。読みづらい点も多いかと思いますが、読んでくださっているかた、ありがとうございます。
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