挿話 王太子の受難 13
王太子視点のお話です。
ぼくは、盛り上がっている王妃と騎士団長、脳筋二人の間をつっきって、ルイスの前にすべりこんだ。
「こっから先は、ルイスは来たらダメ！ ルイスの目と耳が汚れるからね？！
淋しいけど、ほら、ユーターンして！」
「なに、言ってんだ、兄上？」
そう言って、ぼくの横を通り過ぎようとするルイス。
思わず、ルイスの腕をぎゅーっとつかむ。
「こら、離せ」
眉間にしわを寄せるルイス。
わかるよ、恥ずかしがるお年頃だもんね。
でも、ごめん。この先は行かせられない。
ルイスに害を及ぼす奴がいるからね。
だから、兄様は、力尽くでルイスを止めるよ。
…と思ったら、あっという間に、腕を振りはらわれた。
「…え？! ルイス、いつの間にそんなに強くなったの…？」
ぼくが、驚いていると、
「あらゆる敵からアリスを守れるよう、訓練してるからな」
ルイスが、あたり前のように言う。
そう言えば、細身ながら、庭師の作業着を着ていても、筋肉がついているのがわかる。
ルイス、本当になんてすごいんだ！
…って、感動してる場合じゃない！
ぼくを振り切り、歩いていくルイスの先にあの女がいる！
あわてて、ルイスを追いかける。
ルイスは、騎士に押さえつけられている女の前で立ち止まった。
「なんだ、これ？」
ルイスの言葉に、今まで、うつろな顔をしていた女が、はっとしたように、ルイスを見た。
「…ルイス殿下。私をどうかお助けください…。先日、庭で、ルイス殿下に道を教えていただいた者です…。私、無実なんです！ お助けください…。ルイス殿下」
と、涙を流しながら訴えかける。
すごいな。まだ、そんな演技する気力が残ってたなんてね。
が、ルイスは、
「庭？ 全く、覚えてないな。それに、なぜ、俺に助けを頼む？ 無関係だろ？」
と、冷え冷えとした目で女を見た。
とたんに、女の顔がごろりと変わった。
「なんなのこの王子？！ いくら綺麗でも、こんなに表情がなかったら、気味が悪い…」
そこまで言ったところで、ぼくは、自分のジャケットをぬいで、女の頭からずぼっとかぶせた。
今、ぼくは、猛烈にはらわたが煮えくり返っている…。
「ごめん、ルイス！ 耳を汚すようなことを聞かせてしまって…。でも、兄様が責任もって、この女を始末するから！」
と、ぼくが言うと、
「フィリップ！ おまえは、まだ、そんなことを言うか！ 法にのっとって、裁きを受けさせるため、この女は、ロンダ国へ渡すんだ！ たかが、ルイスの悪口を言われたくらいで、処刑なんかしてどうする？！ おまえは原始人かー！」
と、王妃が、腹の底から叫んだ。
窓ガラスが震えるほど、ばかでかいその声を、きらきらした目で聞いているロンダ国の騎士団長。
やっぱり、脳筋に、ぼくがルイスを守りたい気持ちは伝わらない…。
「母上！ たかが、ではありません！ ルイスのことを悪く言う奴は、ぼくは絶対に許しません！ 兄として、この手で罰を与えてやります！ 死ぬほど、いや、死んでからも後悔させてやります！」
と、ぼくは言い返した。
いつの間にか、ウルスが隣にやって来て、女にかぶせたぼくのジャケットを素早く布と交換し、動けないように、しっかりと縛りながら、
「いくらなんでも、それは、まずいだろ…」
と、つぶやいている。
「なにが、まずいんだ？！ なにも、まずくない！ ルイスを守ることは、ぼくにとって正義だー！！」
と、叫んだぼくに、
「やめろ、兄上」
と、ルイスが言った。
「でも…」
ぼくが言いかけたのを、ルイスがさえぎって言った。
「そもそも、俺は、アリス以外に何を言われようが、なんとも思わない。兄上も気にすることはない」
「ルイスー！ なんて、大人なんだ…。兄様は感動して泣いちゃうよ」
「おまえが、子どもなだけだろ」
と、口をはさむ王妃。
脳筋には言われたくない。
「そんなことより、この女、ロンダ国で裁かれるべきなら、とっとと渡せばいい」
と、ルイス。
「でも、兄様が、直々に処罰を…」
「そんなことをしてくれなくてもいい。というか、するな！」
ルイスが鋭い目でぼくを見た。
ルイスに言われ、思わず、しょぼんとするぼく。
すると、ルイスが、
「兄上の手を、こんなことで汚してほしくない」
ぼそっと、そう言うと、部屋を立ち去った。
「…ウルス、今の聞いた？ ルイスの言葉、聞いた？」
「…ああ、聞いた」
「あれ、ぼくを気づかってたよね？ ぼくのためを思っての言葉だよね？！」
「…ああ、そうだな、良かったな…」
「…ルイスー！！ 兄様は嬉しい！ 兄様は感動してる！」
ということで、ぼくは、滂沱の涙を流した後、女をさっさとロンダ国に引き渡した。
挿話ですが、長くなってしまいました。今回で王太子視点の挿話が終わりです。次回は、また、別のお話に移ります。
読みづらい点も多々あるかと思いますが、読んでくださった方、ありがとうございます！
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