挿話 王太子の受難 12
王太子視点が続きます。
「王妃と王太子が、申し訳ない。二人とも、熱くなる気質でね。お恥ずかしい」
王が、ロンダ国の騎士団長に謝る。が、騎士団長は茫然としている。
「騎士団長のブリート殿、どうされた?」
王が声をかける。
ロンダ国の騎士団長は、はっとしたように、
「申し訳ありません…! 王太子様と王妃様の、自分の思いをまげない、真っ向勝負の、迫力あるぶつかりあいを間近で見て、心を持っていかれておりました!」
と、王に言った。
「いや、そんな良いものでは、全くないと思うが…?!」
とまどった顔で、王が聞き返す。
「いえ、他国の者である私を前にしても、自分を偽ることもなく、飾ることもなく、自分の信念に基づいて、ぶつかりあうお二人に、騎士として目が覚める思いです!」
「は? そ、…そうなのか?」
王が、あいまいなあいづちをうつ。完全に扱いに困っている様子だ。
が、ロンダ国の騎士団長の目は、もはや、王を見てはいない。
きらきらした目で、王妃を見ている。
なんだか、怖いんだけど…?
この人も脳筋? もしや、今、あちこちで、脳筋って繁殖してるの?
ロンダ国の騎士団長は姿勢を正し、王妃に向かって言った。
「先程の、耳が痛くなるほどの王妃様の声量に、心が震えました! 失礼ながら、女性では到底だせないような声量。さすが、長年、王妃様と辺境伯様とを兼任され、生粋の騎士としてご活躍されてきたお方だと、感銘を受けました!」
…この人、なに、言ってんの?
声の大きさに感銘を受けるって…、なんだ、それ?!
ロンダ国の騎士って、大丈夫なの?
と、思ったら、王妃が、にこにこしながら、
「騎士に認められるのが、一番うれしいな。貴殿は、ロンダ国の第二騎士団長のブリート殿だったな」
と、騎士団長に声をかける。
「はっ、そうであります!」
「見どころがある。どうだ、私の元に来ないか?! 辺境伯の騎士団で働いてみないか? 私が、鍛えるぞ」
…は?! なに、勧誘してんの? しかも、他国の騎士団長だよね?
辺境伯の騎士団に来るわけないよね?
「本当ですか? 光栄であります! 是非、是非、王妃様、いえ、辺境伯様の下で働かせてください!
今の職は、すぐに辞めてまいります!」
…え、来るの?!
ほんとに、ロンダ国って、大丈夫なの?
盛り上がる二人。
よくわからない展開に、茫然としている王とウルス。
そこへ、
「なんの騒ぎだ」
と、澄み渡った声が聞こえてきた。
ルイスだー!!
ルイスが部屋に入ってきただけで、汚れてたものが一掃されて、すがすがしい空気にかわる。
疲れた心が、癒される!
…って、喜んでる場合じゃない!
ルイスの目に入れてはいけない、汚れたものが、まだ、ここにいたわ。
騎士に取り押さえられ、今は、うつろな目をしているこの女。
さっきみたいに、あんなおぞましいことを、万が一にもルイスに聞かせてはならない。
隣のウルスに、すぐに指示をだす。
「この女に、しゃべれないよう布をかませろ。そして、頭から何かをかぶせて、ルイスの目に入らないようにしろ。瞬間的に、どっかへ消してもいい。急げ!」
「そんな、無茶なことを言われてもな…。とりあえず、布は用意するが、ルイス、もう、そこにいるし…」
と、ウルス。
あ、ほんとだ。
庭にいたのか、庭師の作業着を着たルイスが、すぐそこまで、歩いてきてる。
後光がすごい!
…じゃなくて、ルイス、こっちへ来てはダメだー!
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