私の悩み 12
泣き出した宝石だらけの令嬢を見て、私はため息をついた。
「ダン。フィリップをとめてきてくれ。なんなら、変わりに見合いをしてくれてもいい」
私の言葉にダンがくるっと振り返った。
「私には、愛する妻ララがいますが?」
と、冷ややかに言うダン。
「知っている。冗談だ」
「冗談でもやめてください」
ダンの目が怖い。そうだった。隠すように大事にしているララ夫人のことは地雷だった。
「悪い……。すまない……。二度と言わない……」
「わかればいいです」
なんだろうな……。
ララ夫人のことを持ちだしたとたん、ダンの中にルイスやフィリップと似たものを見た気がする。
こういう感じ、私のまわりに多すぎないか?
と、そこへノックの音がした。
すぐに、ダンが確認に向かった。
扉が開いて入って来たのは、ウルスだった。
「え? なんで王様がここに……?」
私を見て、驚いた顔をするウルス。
が、開いた窓の向こうの景色に気づき、納得したようだ。
「どうした、ウルス?」
ダンが聞いた。
「ダンさんに確認したいことがあったのですが、王様とご一緒なら後にします。失礼しました」
そう言って、立ち去ろうとしたウルス。
「待て、ウルス!」
私は、あわてて呼び止めた。なんて、いいタイミングなんだ。
「フィリップの見合いを終わらせてきてくれ。令嬢が泣き出した」
「泣き出した? やっぱり……」
ウルスは苦々しい顔でつぶやいた。
「やっぱりとはどういうことだ?」
「見合い相手はゴルラン公爵家の令嬢とアイスバーク侯爵家の令嬢ですよね。フィリップ……いえ、王太子様は張り切っていましたから」
「張り切る? フィリップはこの見合いに乗り気だったのか?」
一連の行動を見ていると、全く、辻褄があわないが……。
すると、ウルスが渋い顔をした。
「いえ、正確に言うと、将来の王太子妃を見つける『見合い』に張り切っていたのではなくて、ルイス殿下に下心を持ちそうな令嬢を早々に見つけて、つぶす機会を得たことに張り切っていました」
「……はああ!?」
「ゴルラン公爵家とアイスバーク侯爵家は、早く王太子に婚約者を! と騒ぐ貴族たちの筆頭で、その心は、自分たちの娘を王家にねじこもうという野心まるだしです。しかも、この家の令嬢たちは、年齢的にも、王太子様とルイス殿下の間ぐらいです。王太子様がダメならルイス殿下、いや、それは家の狙いで、令嬢たちにとったら逆か……? ルイスのほうが圧倒的に人気があるし……」
ぶつぶつ言いながら、考えているウルス。
「ウルス。主である王太子様に失礼すぎる言葉がもれてるぞ」
と、ダンが淡々と注意した。
「あ、失礼しました。つまり、今日の見合いの相手は、王族との結婚を狙っている家の筆頭の令嬢たちです。王太子様は、『まず、頭をつぶせば、さすがに、あとの取り巻きたちはルイスに近づこうなんて思わないよね? 手間が省けていいね』と黒々した笑みを浮かべていましたので、面倒そうな家の令嬢たちを最初の見合い相手に選んだんだと思います」
「フィリップは、もともと自分のための見合いをする気はなかったということか……」
「はい。王太子様は、『父上に言われるまで、見合いって考えもしなかったけど、敵をおびき寄せる、いいえさになるよね? だって、向こうから飛び込んでくるんだよ。久しぶりにこの服の出番だ。フフ』とか、笑ってましたから。それに、あの目が痛いほどまぶしい衣装を、数日前から部屋に飾って、モーラさんに指示して、キラキラしたものを更に追加していましたし……。今日のため、やる気は十分だったかと……」
ウルスが説明した。
それは、やる気の出しかたが違うだろう……。
と、ここで、魔石から聞こえてくる宝石だらけの令嬢の泣き声が一層大きくなった。
眉間にしわを寄せたウルスが言った。
「では、早速、見合いを終わらせてきます」
「頼んだぞ、ウルス。今更だが、できるだけ穏便にな……」
「いや、それは、さすがに手遅れかと」
ウルスは疲労のにじんだ顔で答えると、ものすごい勢いで、出て行った。




