私の悩み 11
「じゃあ、これをどうぞ! これも、ものすごく高価ですから!」
やけになったように叫ぶと、宝石だらけの令嬢は宝石がついた指輪をはずして、箱にいれた。
もはや、見合いどころか、フィリップ対宝石だらけの令嬢のよくわからない戦いになっている。
フィリップが意味ありげに微笑んだ。
「あ、これ、イミテーションだね?」
「え? なんで、わかったの……。じゃなくて、これはイミテーションじゃないわ! 私は本物しか持ってません!」
と、焦ったように言う宝石だらけの令嬢。
なるほど、イミテーションか。というか、なぜ、それを隠す?
14歳なら、本物の宝石をじゃらじゃらつけているほうが変だと思うがな。
しかし、ほんと、フィリップは無駄に能力が高い。
宝石だけじゃなく美術品や骨董品にも目がきく。
ふと、フィリップが8歳だった頃のことを思いだした。
あれは、急な賓客があり、慌てて土産を用意することになった時だった。
なんでも、その賓客は骨董品が好きで、特にカップを集めているとか。
とはいえ、王宮で骨董品を買うことはない。急遽、馴染みではない骨董品の商人が呼ばれた。
やけに口の上手い商人で、言っていることがまるで信用ならない。
すすめられる物はどれも高価なものばかりだ。
が、時間がない。この中から、できるだけいい物を選ばないと。
しかし、私は骨董品の良し悪しがまるでわからない。
ということで、野生の勘が働く王妃に、「ミラベルはどれがいいと思う?」と、聞いてみた。
「わざわざ、がらくたを高額な金で買う意味がわからん。カップは飲めればいい。強いて言えば、古い物だから、せめて、頑丈な物がいいだろう」
と、言いきった王妃。
そう、王妃は私以上に骨董品を見極める目はない。
というより、その意志もない。まあ、物欲すらないしな。
骨董品選びに同席してもらっても、まるで頼りにならない存在だと身に染みた。
王妃はすぐに騎士団の訓練に戻っていった。
すると、今まで黙っていたフィリップが商品のそばまで歩いていき、ひとつのカップを選んだ。
「このカップがいいですよ、父上」
ものすごく目立たないカップ。
商人は思わず笑った。
「王太子様。これは、たいした物じゃないですよ。見た目も地味ですし。それより、こっちのカップは、100年前……」
と、説明をはじめたのを、ぶったぎるように、フィリップが言った。
「他のはいらない。これを買う!」
ものすごい目力で商人を見据えるフィリップ。
商人の顔色が変わった。
王太子といえど、子どもだと高をくくっていたのだろう。
「え、あの……」
動揺しまくっている商人。
「いくらだ」
と、フィリップ。
「2000……ラベルです」
商人がすすめていたカップとは桁が違う。安い……。
「じゃあ、倍の4000払いましょう、父上」
え? なんで、倍払う? しかも、なんで、フィリップが仕切ってるんだ?
と、混乱している間に、フィリップと商人との間で話しはすすみ、結局、そのカップを土産にした。
結果、その賓客はものすごい喜んだ。
なんでも、とても珍しいカップで手に入らない逸品なんだそう。
それ以来、美術品など、王宮で買う必要がある場合は、必ず、フィリップに助言をもらうようになった。
などと、つらつら過去に思いをはせていると、フィリップの煽るような声が聞こえてきた。
はっとして、過去から現実に意識を戻す。
「へえ、君って、そんなに宝石をつけてるのに見る目がないんだね? しかもこれは品質がよくないイミテーションだから、とても換金はできない。いらないから返すね」
そう言って、箱から指輪をとりだして、令嬢の前に置いた。
だから、言い方を考えろ、フィリップ!
そう思った瞬間、宝石だらけの令嬢が声をあげて泣き出した。
お久しぶりです! 長らく更新していませんでしたが、また再開したいと思います。
どうぞよろしくお願いします!




