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神と一緒に落ちたなら  作者: 猿ヶ瀬 黄桃
第一章 もう一つの世界
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第七話 さぁ、ショータイムだ

「アルバーン様!お久しぶりです」

 母さんが挨拶と共に頭を下げる。爺の白い髪と髭は、二か月前より少し伸びただろうか。一体、二ヶ月間も部屋に籠って何をしていたのだろう?

 爺は片手を適当に上げ挨拶を返す。しかし、彼の視線は俺に向けられている。何か用だろうか。

「容姿は、やはり母親似だな」

 まだ舌足らずな俺は、その言葉に対して会釈で答える。金色の瞳は未だに俺をじっと捉え続けている。

な、なんだろう、失礼だったかな。でも怒っている風ではなく、思案しているような感がある。

「待っておれ」

 爺はつい先ほどまで開かずの間だった、階段右の部屋に戻った。状況が良くわからない俺は、つい母さんの顔を見上げてしまう。

「なんなの?」

「さぁな・・・」

 母さんも良くわかっていない様子だ。しょうがないので、ガサゴソと音のする部屋の前で待ち続ける。彼の言葉には、こちらを自然と従う気持ちにさせる独特の雰囲気がある。本当に校長先生みたいだ。


 ニ、三分は経っただろうか、彼は2冊の本を抱えて部屋から出てきた。どちらも辞書ほどの分厚さで、装丁は真っ黒のハードカバーに金色の文字が書かれている様だ。何と読むのだろうか。

「赤子よ、貴様ならば造作もなく読めるようになるだろう」

 彼はしゃがんで目線を合わせることなく、少し背を丸めて俺に本を手渡してきた。俺は上から襲来する鈍器めいた本達をなんとか抱え込んだ。気を遣ってくれよ爺さん、こちとら生後一年ちょっとだぜ?

「この子はまだ字を知りません、それに辞書と魔法理論初級編では・・・」

 ほんとに辞書かよ。俺はてっきりグリム童話全集的なものかと・・・。しかし、魔法理論に関しては大いに興味があるぞ。これぞファンタジーだ。

「眼差しだけは両親どちらにも似ておらん。薄暗いが多少の知性は宿っておる、直ぐにでも読了するだろう」

 この爺、まさか俺に前世の記憶があることを見抜いているのか?いや、流石に考えすぎだろう、眼差しだけで判断できる訳がない。俺はなるべく焦りを表情に出さない様に努める。

「それに、だ。この城にそれら以上簡単な本は無い。励めよ」

 一応の励ましをくれたと思えば、もう城の正面玄関に向かって歩き出している。

腕一杯に本を抱えた俺は母さんを見上げた。腕を組み片眉を上げ、やれやれと言った表情をしている。

「まぁ、あの人の言うことだ。読んでみようか?ジェット」

「うん」


(さぁーてと、まずどっから取りかかろうかねぇ・・・)

 自室に戻った俺は、ベッドに二冊の本を並べ、それらの前で胡坐を組んでいる。

「左が辞書だよ」

 左手にマグカップを持ち、ベッドに腰かけた母さんが指をさして教えてくれた。どうやら、俺がどう出るかをじっくり観察する腹積もりらしい。なんだその微笑ましい物を見る目は、やめてくれ。

 まずどうにかして日本語で言ういろは、英語で言うアルファベットに当たるものを見つけたいが、そうだ、辞書の背表紙を下にしてみよう。広辞苑なら背表紙の反対側に平仮名が書いてある、きっとこっちの辞書もそうだろう。

(ビンゴだ)

 39文字か、日本語やハングル語と同じような読み方が出来れば楽だったんだが、どうやら無理らしい。平仮名の「あ」は、そのままの発音しかないが、「A」はエイ、ア、オなど、単語によって発音が変わる。ということは、書いてあることをそのまま読み上げることができないのだ。残念ながらこの世界の言語は発音が変わる方らしい。発音の仕方、その他文法に例外が多い言語でないこと願うが、さしあたっては、母上に異世界アルファベットの音読をお願いせねば。

「これ、上から言って」

「良く気付いたなぁ、賢い子だ。偉いぞぉ」

 ワシワシと俺の頭をなでてくる。母さん、俺は今そういう状況じゃねぇんだ。早く魔法を唱えたいんだ!

「はやく」

「ん、あ、あぁ・・・これはだな」

 催促のトーンが本気過ぎただろうか。いや、今はそんなこと言ってられん。覚えてたら謝ろう。あそうだ、紙とペン貰えっかな、後で爺に聞くか。

 ふっふっふ、暇人の面目躍如だぜ、ビビらせて爺の寿命を縮めてやろう。


お待たせしました、魔法です。

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