第四十八話 薄暗い車内での邂逅
とある魔道車の運転手は、これから始まる大仕事の緊張を和らげるためにスキットルの蓋を開けた。
城下町から前線基地まで人を運ぶ。それがこの男、テオドア・シンプソンの仕事だ。しかし二ヶ月に一度ラッツバーグまで車を走らせるのもまた、彼の仕事の一つなのだ。
テオドアは今、前線基地で合流する予定のキャラバン隊と、稀に現れるラッツバーグまでの客を待っている。
運転席の後ろから物音がした。何事かと振り返ると、いつもここで降りる顔見知りの客が装備の点検をしていた。
「おい坊主、とっくに着いてるぞ」
薄気味悪く笑いながらガントレットと剣が合わさった様な変わった武器を眺めている少年は、テオドアの声が聞こえていない様子だった。テオドアは舌打ちしてポケットから煙草を取り出すと、今度はもっと乱暴に言った。
「こら坊主!ニヤニヤ笑ってんじゃねぇ!」
少年はキョトンとした顔でテオドアを見上げると、辺りをキョロキョロ見回した。
「あれ、もう着きました?」
「だからそう言ってんだろがよ、まったく……」
テオドアは運転席に深く座り込んだ。
「着いてないじゃんテオドアさん」
「あ?何言ってやがんだ」
「ラッツバーグまで行くんでしょ?この車」
「なっ……」
テオドアはまさかコイツが今回の客かと驚いた。しかし、彼が初めて顔を覚えた時よりも少年の背は伸びたし、筋肉質になった。相変わらず女みたいな顔をしているが、コイツも成長したんだなと時の流れを実感したテオドアだった。
「坊主、いくつになった?」
「十二です」
「そぉか……やるよ」
テオドアは煙草が入った小さな袋を少年に放り投げた。
「やった!サンキュー」
「学校行くんだろ?」
少年は早速煙草に火を付け、心の内に秘めた高揚感を両目に宿らせて言った。
「はい。冒険者になってきます」
「もうお前はギルドに登録してるだろうが」
「えー、野暮なこと言わないで下さいよ!」
生意気言うようになりやがってよ、と少年に言う代わりに煙草の灰を落とした。テオドアの脳裏には彼がまだ駆け出しの冒険者をしていた頃に見た、ある男の眼差しが浮かび上がっていた。
コイツは本当の意味で冒険者になる男だと、その時そう思った。
「ねぇテオドアさん、もしかして学校って禁煙だったりする……?」
少年はさっきまでの意気揚々とした顔つきとは打って変わって深刻な様子だ。テオドアは俺の思い違いかなと少し肩透かしされた気分になった。
「あのなぁ!学校が薬品工場かなんかだと思ってんのか?」
「そう、ですよね。良かったぁ」
「しかし禁煙なんて言葉良く知ってるな」
「…まぁ、俺も丸薬作ったりしますから」
魔道車の扉が強くノックされた。テオドアは待っていたキャラバンが到着したのだと思い、意識を切り替えて扉を開けた。
「よぉ、調子はどうだよドン」
「なんとか食いつないでるよ」
ドンはかつてテオドアと同じ冒険者ギルドに所属していた。冒険者として活動を続ける最中、商人としての才能に気付き自分のキャラバンを持つに至った賢い男だ。
「テオドアよ、お前の荷台空いてるよな?」
「当たり前だ。一人小僧が乗ってるがな」
「そりゃ丁度良かった。実は教会からの推薦で学校に行くことになった少年を連れててね。そっちに乗っけちゃくれないか?」
「構わねぇけどもよ、俺の客はちっとばかし変わったヤツでね。トラブルは起こさんでくれよ」
「ま、大丈夫だろ。おーい!こっちに乗ってくれ!」
大きなリュックサックを背負った少年が駆け寄って来た。テオドアは、俺の客とは違った意味で生意気そうだなと思った。適当に挨拶を交わすと少年を荷台に乗せて、前線都市ラッツバーグまでの短い旅が始まった。
少しばかり揺れる座席に腰かけたもう一人の少年は、短く刈り込まれた金髪の頭を掻いた。なぜなら、先客の挙動がこの少年にとって初めてのものだったからだ。
物々しい武器を眺めていたかと思えば、バッグの中から経典が如く分厚い本を取り出し読み耽っている。どこか偉い貴族の子供なのかな、だから立派な本や装備を持っているんだろうと推測し緊張した。しかし、それは少年の思い違いだった。
しばらくすると、先客は慣れた手つきで煙草を吸い始めたからだ。その動作があまりにも俗っぽいので、一目で貴族なんかじゃないと判った。
「……あっ!どうも」
「う、うん」
少年が思ったより先客の腰は低かった。少年はまさか先客の方から挨拶してくるとは思っていなかった。
「もしかして、君も学校に?」
「おう、俺はダミアン・マクシーン」
ダミアンは少しばかり躊躇して右手を差し出した。
「ジェット・アルバーンです、よろしく」
もし興味があれば私の活動報告をご一読ください。




