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神と一緒に落ちたなら  作者: 猿ヶ瀬 黄桃
第一章 もう一つの世界
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第四十四話 やっぱり君は(4)

 ガーディアン・センチピードはその頭よりはるかに大きな両顎をガパッと広げて、空中にいる俺達を捕食しようと迫ってきた。

「投げるぞ」

「え、あっ!!」

 ひときわ高い木目掛けてルルにぶん投げられた。後ろからガキンと、ギロチンが落ちた様な音が聞こえた。

 恐怖と混乱で視野が狭まり、心音がやけに大きく聞こえる。身体強化を上手く発動できない。激突までコンマ数秒といったところか。

「間に合え間に合え間に合え……よし!!!」

 落下の衝撃を逃がすため木の枝や幹を何度か蹴飛ばし、地面を転がった。無傷で着地できたが、もう一度やれと言われたら出来る気がしない。

 

 戦闘音のする方を振り返ると、ルルは大ムカデの突進をひらりと躱し、奴を翻弄するかのように駆け回っていた。奴の外骨格は赤黒く、ぬらぬらと日の光を照り返している。虫の殻というより金属に近い印象だ。

 目に魔力を集めて限界まで強化すると、彼女が不敵に笑っているのが見えた。俺なんかもう死ぬほど怖いって言うのに、どうしてあんなに余裕なんだ。これが冒険者と言う生き物なのか?


 ルルが大ムカデの槍の様な脚達を潜り抜けると、あっという間に地面がグズグズのぬかるみに変わった。大ムカデは体が沈むの避けるために動き回るが、どうやらルルは辺り一帯を沼に変えたようで奴は困惑したように辺りを見渡した。

「やっべ!」

 俺は急いで木の陰に隠れた。目が合ったらこっちに向かって突撃してきそうだ。


「ジェットォ!!!無事!?」

 大声で叫んだルルの右腕には、大きな布が覆いかぶさっていた。いつの間にか空間魔法を使ったようだ。

「は、はい!!!」

「よぉし!!」

 ルルが布を投げ飛ばしてあらわになったのは、彼女の拳から肩までの長さの、巨大な鉄の塊だった。

 鉄塊の手の甲部分からは尖った金属製の杭の先端が飛び出していて、上腕部分はそれを覆う形になっている。肘から肩にかけては、まるでバイクのエンジンがくっついているかのようだ。彼女がそこから生えているレバーを前に倒すと、飛び出ていた杭が半ばまで砲身の中に収納された。


「あれって、パイルバンカーかよ!」

 おおよそ人間が扱いきれる代物ではないそれを物ともせず、ルルは手近にあった木のてっぺんまで跳び上がった。地面がぬかるんでいるから、木を蹴って大ムカデまで近づこうとしてるんだろう。

「ジェット、良く見ときなよ!!!」

 ルルは大声を出すと、先ほどまでとは比べ物にならない量の魔力を放出した。

 そして跳んだ。木の幹が粉砕され宙に舞った。大ムカデは弾丸が如く突撃する彼女を、その凶悪な牙で真っ向から迎える。


「これが冒険者だ!!!」

 

 ゴキィン。重機で鉄杭を打ち込む様な音が一度しただけ。それで全ての決着が着いた。

 大ムカデの頭から打ち込まれた杭は奴の体半分を貫通し、背中から飛び出た。そしてルルは倒れ行くムカデのひび割れた頭部に着地した。

「ふぅ……」

 ルルがパイルバンカーのレバーを元の場所に戻すと、小さい魔鉱石の欠片が薬莢のように排出された。


「ジェット!」

「はい!」

「煙草、一本ちょうだい?」


 ルルの魔法で地面は元通りになった。俺は駆け寄って煙草を渡し、火を付けた。

「ん、あんがと」

「その、凄い、なんていうか。かっこよかったです、ルル姉」

「えへっ、そう?ふふ、うふふふふ」

「……ちょっとキモいな」

「えっ」

 思わず心の声が漏れ出てしまった。ルルの喜び方が、若い娘に褒められてデレデレしているおっさんと被った。話題を変えよう。

「ガーディアン・センチピードがいたって事は、冠草はすぐそこにあるってことですよね?」

 質問を投げかけたのに返事が返ってこない。彼女は無表情で口から煙を吐く置物と化していた。

「……頼りになるルル姉がいないとボクどーしたらいいか分かんないなー」

「…はっ、さっき、何か言ったジェット?」

「いえ、特に何も」

「そう、そうか、うん。さっさと冠草を採りに行かないとな」

「さっきの戦闘に巻き込まれてなきゃいいですけどね、大丈夫そうですか?」

「ん、まぁ……。大丈夫よ。きっと」

 

 歯切れの悪いルルを不審に思いつつ周囲を歩き回ると、すぐに冠草の残骸達が無残な姿で発見された。それもそのはず、森の中の開けた場所なんてここくらいしかない。

「ごめん、やりすぎたなこりゃ」

「良いですよ、俺は守って貰っただけで、戦ったのはルル姉ですから」

「ジェットはいい子だな!」

 しばらく彼女の腕の中で撫でまわされていると、急にその手がピタリと止んだ。

「ジェット、まだ歩ける?」

「え、まぁ大丈夫ですけど、これから探したら日が暮れますよ」

「そういえばこの辺に簡易的な前線基地があるはずなんだ。アタシなら顔が利くから泊まって行ける。どうだ、もうちょっと粘ってみないか?」

 初めての依頼が失敗じゃ、シャルにからかわれそうな気がするし納まりも悪い。

「うん、行きましょう!」

「よし来た!」


 



 






 


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