第四十二話 やっぱり君は(2)
ルルは掲示板から依頼書を剥がしてギルドのカウンターに持って行った。手続きは直ぐに終わり、俺達は西の関門に向かった。
アドラス王国の城下町には町を一周する壁が建っていて、東西南北に関所が一つずつ設けられている。西の関門からは魔道車が日に何度か出ており、薬草が取れる森の手前にある村まで乗って行ける。
魔道車の発着場には冒険者らしき人たちが大勢いた。皆剣呑とした雰囲気を放っていて、俺達だけがお気楽ムードだ。
「ルルさん、なんかピリついてますね」
「ルル姉で良いって。アタシ達は薬草を採りに行くだけだから浅いところまでしか行かないけど、アイツらは奥まで潜る気なんだろうね」
「それにしては荷物が少なくないですか?」
「ああ、村が前線基地になっててね、そこで大体のものは揃うんだ。魔素が濃い地域には基本そういう施設があるんだよ」
「なーるほど」
「さ、車が来た。行くよ」
魔道車はちょうどトレーラートラックの様な構造をしていて、動力部分と貨物部分が連結しているみたいだ。タイヤが木製なので揺れるかと思ったが、案外快適だった。恐らく魔法でどうにかしているんだろう。どういう魔法陣を組んでいるのか気になってしょうがないぜ。
車に乗ってから暫く経った頃、隣に座っている男から声を掛けられた。
「赤坊主、いくつだお前」
「五歳です」
男は少し面食った顔をして彼の仲間に質問した。
「今って登録試験ないんだっけか?」
「馬鹿、あるに決まってんだろうがよ」
「ああ、じゃ、どうして乗ってんだお前」
「アタシの暇つぶしに付き合ってもらってんの」
ルルが会話に加わって最初は怪訝な顔をした男も直ぐに彼女が誰か思い当たったようで、仲間達の肩を叩いてルルが居ることを教えて回った。
「はは!ルル・ベルと一緒の車に乗れるとは、幸先良いぜ!」
「ああ、今回の冒険は上手くいくさ」
さっきまでとは打って変わって車内の空気が明るくなった。やっぱり彼女の実力は本物みたいだな。
「ルル姉って凄いんだね」
「まぁそれなりにね」
言葉は控えめだが表情はかなり嬉しそうだ。
「坊主、知らねぇで一緒にいるんか、この人は超一流だぜ?」
「長年誰も足を踏み入れることが出来なかったバルハン王城の地下を完全踏破したって聞いたときは、正直痺れたね」
「こっぱずかしいな、止めてくれ」
とか言いつつ彼女は嬉しそうにしている。こんなやり取りを何度か繰り返したら、いつの間にか村に着いていた。
普通ならここで冒険者向けの店に立ち寄り装備を整えるのだが、ルルが空間魔法を使えるので俺達はこのまま森に直行した。
深部に向かうにつれて強力な魔獣や特殊な環境が人間に立ちはだかるこの森は、冒険者の墓場と呼ばれているらしい。その墓場の入り口に俺は今、足を踏み入れた。
「結構、フツーっていうか……」
「まだ浅いからな。舐めてたら死ぬぞ~?」
ルルが脅すような言葉を投げかけてくるが、木漏れ日を浴びながら落ち葉をサクサク踏んで歩いていると、どうにもピクニック気分になってしまう。ああ、心が浄化されていく…。
「これから結構歩くから、腹に何か入れておこう」
「あ、分かりました」
空間魔法で保存食でも出すのかと思ったが、ルルはその場で立ち止まりナイフを腰から抜いた。そして魔力を空気に馴染ませるように広げ始めた。生き物の魔力を探知して狩ろうとしてるんだろう。
「動くなよ」
「はい」
ひゅん、と何の前触れもなくルルが腕を真上に振り上げた。一拍遅れて大きな鳥が落下してきて、ルルの右手に収まった。
「おお~、凄い」
「そう?ふふふ」
ルルは上機嫌でそこらに落ちている石を集め始めた。竈を作って焼くのか、俺も手伝おう。
「気が利くじゃない」
「いえいえ」
ルルは俺が石や薪を集めている間に鳥を解体し終わったようで、食べられる内臓を木の枝に刺していた。とんでもない手際の良さだ。
『着火』
「やっぱりジェットは協会の魔法を使うんだね」
ルルが串刺しの肉を火にかけながら言った。
「はい。ていうか、皆そうじゃないんですか?」
「うん。最初は聖魔教会が教えている呪文を覚えるのが普通だ」
「聖魔教会…あの聖女の」
「良く知ってるね」
「列車の中で会いました。凄い綺麗な人でした…」
「そう、会ったんだ」
ルルは薪の位置を棒で調節しながら、少し真剣な調子で口を開いた。
「協会の魔法は、人前で使っちゃいけないよ」
「はい、俺の先生もシャルさんもそう言ってました」
「うん。アタシも人前じゃ聖魔教会の魔法を使ってる」
「なんで協会の魔法は駄目なんですか…?」
「そう思うよなぁ…」
彼女はカバンから塩の入った小袋を取り出し、焼けた肉に少しずつ振りかけた。
「炎の神よ、我に灯を与え給え。ファイア」
ルルの手のひらに球体の炎が浮かんだ。手を振ってその炎を散らすと、今度は協会の呪文で炎を出した。
『炎よ』
「おかしいだろ、明らかに協会の方が無駄が無い。神に祈らなくても火が付くんならそっちの方が良いはずだ。」
「長く冒険者やってれば嫌でも気付くんだ。死にかけたら特にね」
ルルはそう言うと俺に目を合わせた。どこか孤独を纏った眼差しをしていた。しかし直ぐに笑顔になって、悪い忘れてくれ、と言って肉を食べだした。
あまり聞かない方が良い話だったかもな。普通の五歳児だったら話の意味がわからないから言っても良いのだろうが、俺はそうじゃない。なんか騙してる気分になっちまった。
「うん、美味しいです」
「そっか、良かった」




