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神と一緒に落ちたなら  作者: 猿ヶ瀬 黄桃
第一章 もう一つの世界
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番外編 ジェットの四歳の誕生日プレゼント

 ようやくガラスペンに魔力を入れて魔法陣が書けるようになって来たある日の事。

「今日もありがとうございました!」

「うむ」

講義を終え城の大階段の前で学長と別れた俺は、気分転換に裏庭に出た。そういえば、そろそろこっちでの誕生日か。去年は色々とハチャメチャだったが、今年はどうなるかな。欲しいものもこれといってないしな、なんとかしてそれっぽいプレゼントリストでも考えねば。


「ん?なんだ?」


武器庫の尖塔から、何かが動いた気配がした。結界のせいで小鳥か虫くらいしか入ってこられない筈だが、今のは結構大きかったぞ。気配を消して覗きに行ってみよう。

 魔力を抑え、そろりそろりと向かった先には――。

「よし、誰も見てないな」

「なにしてんの」

「うわああ!!」

 袋を二つ手に持った母さんがいた。情けない声を上げた彼女はあたふたとしたあと咳ばらいを一つして、何事もなかったかのように振る舞い始めた。

「なに、気分転換にちょっと、な。飯ならすぐに作るぞ!」

「それ、何持ってるの?」

「ん、まぁ大したことじゃない。ただのゴミだ」

「気分転換にゴミ捨てですか?」

「…まぁなんだっていいだろう。食堂に行っててくれ。直ぐに戻る」

「やましい事でもあるの?」

「いやそんなことは無い!」

彼女はそう断言すると、自分の失言に気付いたようで直ぐにハッとした。

「やましくないなら見せられるよねぇ?ねぇ?」

母さんはすごすごと袋を俺に手渡した。気になる中身は…。

「パンくず、果物、もう一つは水か」

「ほら、な?大したことじゃなかったろ」

 ちょっと待てよ、何かが怪しい。母さんは消毒用の蒸留酒をちびちびやるのが日課だった筈だが、そういえば最近は酒を飲んでない。パン、麦。果物、熟れる。

「…酒作ろうとしてるの?」

「違うぞ!断じて違う!」

「学長に酒買って来いとは頼めないもんね。だからこそこそ――」

「違う!さぁはやく行け!」


「誕生日」


「え?」

「俺、欲しいものが出来たよ、母さん」

「なん、だ?」

「酒の作り方、教えて」




「ああー、どうしてこんなことに…」

「いーからほら、早く作ろ!」

 額のバンダナに手をやって後悔する母さん。流石に誕生日というワードには弱かったようで、なんとか口説き落としてやったぜ。彼女はしぶしぶと言った態度で俺に説明を始めた。

「いいか?腐った果物からは少し酒精が出るんだ。だからこの悪くなった果物を、水が漏れないように加工した袋に入れるんだ」

赤い果物が五つ袋に放り込まれてぐちゃりと音をたてた。

「パンはどうして入れるの?」

「パンを入れないと酒にならずに腐る。詳しい理由は分からん」

多分酵母で発酵させるのだろうな。俺も詳しいことは知らないけれど。

「へーえ。誰から教えてもらったの?」

母さんは懐かしそうに微笑んだ。

「軍に居た頃にな。長期の遠征中に酒を切らしてしまった時、私の上司が作っていたんだ」

「どんな味?」

「その時はたまたま同伴にあずからなかったな。だが上司は美味そうに飲んでいたから、きっとそれなりの味がするんだろう」

「楽しみだね!」

母さんは困ったように笑って俺の頭をぐしぐし撫でた。


「そうだな」





 袋を武器庫の中で三日ほど放置したあと、二人して成果を確かめに来た。俺はワクワクドキドキだが、母さんは少しばつが悪そうにしている。こうなったらエンジョイすればいいのに。俺は意気揚々と扉を開いた。

「…くせぇ」「だな」

においだけ。においだけだ。きっと上手に出来ているはずなんだ。

「か、母さん。これ腐ってない?」

「いやぁ、そんなはずは…。おかしいなぁ」

 袋に入った液体は果物の赤みが滲み出ていて、そこまでまずそうではない。問題は匂いだ。飲み食いして良いそれじゃない。


 母さんは持ってきた布で徐にその液体を濾して、二つのコップに入れた。

「ちょっと、外に出て飲もうよ」

「…そうだな」

匂いがこもってしょうがないので、食堂の裏までいって試飲することにした。

「隊長は美味そうに飲んでたんだ。大丈夫。よし行くぞジェット」

「よっしゃ」

ええいままよ、俺も母さんも妙なテンションになって一気に飲み干した。


「「ぐぁぁぁぁ!!!」」


本当に腐ってないか!?これじゃあ食中毒になっちまうぞ!

「うぉぉぉ。これは、中々。ううん…」

母さんも苦しんでいる。しかし、あれ?なんだか体がぽかぽかしてきたぞ?もしかして結構強いのか、この腐った酒は。

「あー、ふらふらするな。一気に飲む酒じゃなかったか?」

「母さん、俺も目の前がぐにゃぐにゃに…」

「お前、全部飲んでしまったのか!?」

あ、あれ?なんか面白くなってきた。いい気分だ。今なら全ての物事に対して笑える気がするぞ。

「ふへ、えへへへ。えへへ」

「おいおい、どうしようか。水を持って来るから、ちょっと待ってろよ?」

「母さんってなんでバンダナ付けてんのさ?某熱血ゴールキーパーかよ!あはは!」

「良くわからないが馬鹿にされた気はするぞ!この生意気小僧め!」

「ちょっとくすぐらないでってば!あひゃひゃひゃ」

「ほれほれ、まいったかこの!」

「ちょ、やめ、う、うぷぷ」


「やかましいぞ貴様ら」

あ、学長が厨房から出て来た。また髭伸びたんじゃないかこの人。

「…貴様ら、まさか酒を飲んだか?」

「い、いやぁ飲んでないっすよ。ねぇ母さん?」

「ん、ああ、いや。んん」

なんだか母さんの顔色が悪いな。俺もなんだかさっきから気分が。あ、やば。


「「おろろろろろろろろろ」」

二人して吐いてしまった。しかも、学長の前で。考えうる最悪のパターンが起こってしまった。

 恐る恐る学長の顔を見上げたら、呆れすら通り越して、もはや無表情だった。取りあえず、怒っては無いようだ。


「飲んだのだな?」


「「いえ、今吐いたので実質飲んでません」」


「…この大馬鹿どもが!!」


「いでぇ!」「あだっ!」

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