表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神と一緒に落ちたなら  作者: 猿ヶ瀬 黄桃
第一章 もう一つの世界
26/52

第二十五話 混乱

「ジェット君、外開きなんだ、この扉。今ので完璧に壊れてしまったよ」

馬鹿になった蝶番に、扉がギリギリのところでしがみついている。

「おい、あの女はなんなんだよ」

シャルリーンはちらりと俺を見ただけで、机に向かって何かを書き続けている。

「ローザが、なにか粗相をしたのかな?」

「この国ではあいつみたいな奴が普通なのか?」

「…魔力を引っ込めてくれ、ジェット君。周りを見なよ」

「なにが…ああ」

本棚にもたれかかって震えている若い女性がいることに、今初めて気付いた。無意識の内に魔力を全開にしてしまったみたいだ。

「ふぅーー…悪かった」

「さて、よいしょっと…一体何がどうなったら、可愛いジェット君がこんな風になってしまうのかな?」

シャルリーンはこちらに歩いて来る途中に、震えている女性に声をかけた。しかし彼女はそれに気づいていない様子で、ブツブツと何か呟き続けている。それを聞いたシャルリーンは微笑んだ。

「化け物、だって。同感だね」

「だから、悪かったって…」

魔力を引っ込めたらどっと疲れが押し寄せて来た。最悪の気分だ。とにかく、彼女に謝ろう。

「あの、すみませ」「あ、あ、ああ」

「ジェット君止めてくれ。それ以上は失禁ものだよ」

シャルリーンはくつくつと笑いながらやんわり俺を制止すると、手でソファーに座るよう促した。

「なんていうか、シャルさん。スラムの人を差別するのは、常識なんですか?」

「ああ、なんとなく状況は判ったよ。君の言う通りだね。ローザは良くも悪くも忠実な子なんだ。許してやって欲しい」

「そう、ですか」

まぁ、普通そうだよな。治安は悪いし、汚いし、普通差別されるよな。そんなことは分かっていた筈なのに、どうしても自分を抑えられなかった。

「ローザの父親は、スラム出身の男と仕事で揉めてね。喧嘩になって殺されたんだ」

「え…」

「無茶な契約内容を押し付けたのは彼の方だったし、先に手を出したのも彼だった。でも殺されたことには変わりない」

「そんなの、手ぇ出した方が悪いでしょ」

「それは君、部外者だからね。どうとでも言えるさ」

「……まぁ、そうっすね」

シャルはテーブルの上の煙草を使ってペン回しを始めた。

「単純な好奇心で聞くけど、なんでそんなに怒ってしまったの?」

「彼らが自分に、似てるような気がして」

「ふぅん。この時間帯だと、君はジョセフのグループと会ったんだね?」

「はい」

「…ま、言わんとすることは分かるよ」

「ほんとに?」

「うん、私はね、魔力を見れば大体の人となりが分かるんだ」

ま、経験だね。そう言うとシャルは立ち上がり、煙草を咥えて女性を抱き上げ、部屋の外まで持って行った。事が済んで、ライターで火を付ける様に指パッチンをしたら、彼女の煙草に火が付いた。どういう魔法だろうか。

「君、煙草好きだろ?」

「五歳ですよ」

「フフ、これは薬草で出来てるから大丈夫だよ、ほら」

シャルの吸いかけを目の前に差し出された。

「……頂きます」

俺が煙草を吸っている姿を見て、シャルは声を出して笑っている。本当に愉快そうだ。

五年ぶりの煙草は甘くて、少しだけメンソール感があった。結構旨いなこれ。

「いやぁ、フフフ、笑った笑った――あれ?」

「どうかしました?」

「ジェット君、少し魔力を出してくれないか?」

「え?まぁ、はい」

さっきまで大笑いしていたのに急に真顔になって、不気味な人だな。

「あー、ジェット君のお父さんって有名人だったりしない?」

「さぁ…知りませんけど、父親は馬鹿垂れだって学長が――」


「アラドヴァルか」


急に冷徹な声に変わった。中年男性を蹴り飛ばしたときよりも一段と冷たい。


「そうなんだね」


俺の顔をずいっと覗き込んできた。問い詰めるときの癖なんだろう、正直怖い。

「な、名前は、そうだって聞いてます」

「煙草返して」

後1㎝程度しか残っていない煙草が奪い取られた。まさか親父に何か恨みでもあるのだろうか。借金を踏み倒されたとか。

「フー、学長も人が悪いなぁ、教えてくれたっていいのに、ねぇ?」

「そ、そうですか?ははは」

口角は上がっているが、目が笑っていない。

「そうかぁ、アレの息子か」

灰皿に煙草を押し付けた。ぐりぐりと、必要以上に何度も。

「アレとは私の父親が現役だった頃からの付き合いでね。このところ消息不明だと聞いていたが、いや、なるほどシュヴァルツェンバッハか!本当に馬鹿だな!」

吐き捨てる様に言うと、シャルは少し乱暴に煙草を取って、また吸い出した。眉間にしわを寄せて顔を手で覆っている。

「申し訳ない、少し取り乱した。ローザには私からも言っておく。君も、もう怒ってないんだろ?仲直りは勝手にしてくれ」

指の隙間から俺を睨んで言った。なんだかわからないが、俺の父親のせいで不愉快な気分にさせてしまったようだ。

「あの、ごめんなさい、シャルさん」

「う…君は母親似だな…」

シャルは煙草を咥えたままこちらに歩いてきて俺を抱き上げた。なんだって言うんだ。

「君はアラドヴァルとは違うものね、ね?」

「はい、違います」

「よろしい」

ここは素直に頭を撫で回されていよう。その方が良い気がする。

すると、蹴り壊した扉からノックの音がした。律儀なことだ。


「ええ、と、これはどういった…」

「やあローザ、ジェット君が怒ってその扉を蹴り壊してしまったんだよ?」

「ああ!本当に申し訳ございません!」

―キャア、人が倒れているわ!―おいおい、この子化け物としか喋らないぞ?

「感情的になり過ぎました、どうかご容赦下さい!」

―あー漏らしちまってるよ、だれか布持って来てくれ

「ジェット君、謝ってるよ、どーするのさ」


「も、もう、勘弁して下さい…」


母さん、助けて下さい。

評価して頂いてありがとうございます。モチベーションが上がります。モチベーションが上がればジェット君がもっと活躍するかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ