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神と一緒に落ちたなら  作者: 猿ヶ瀬 黄桃
第一章 もう一つの世界
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第二十話 既視感

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棄てられた牢獄。爺が言うには、キングスフィア王国の外交政策において行われた国内浄化活動に際して造られたものらしい。それは広がり過ぎたスラム街が問題となっていた当時、貧困にあえぐスラムの人々に仕事を与えた。仕事の内容は主に農作業と土木作業だったそうだが、賃金が払われることは無く、ギリギリ健康を保てるかどうかの食事が出されただけ。彼らは作業が終われば宿舎とは名ばかりの牢屋に帰される日々を送った。

 では、なぜイェスパーさんが投獄されているのか?答えは簡単だ。圧倒的な実力、人望を持つ、他国であるアドラス王国出身の冒険者、しかも忌々しいゴブリン族ときたもんだ。キングスフィア側からすれば彼を亡き者にしたくて仕方がない。しかし文字通り一騎当千だった彼をそう簡単には殺せない。もし殺せてもアドラス王国にバレれば関係に大きなヒビが入るし、普通の牢獄に入れるにも理由が無い。そうだ、表向きには公共事業をやっているところにぶち込めば怪しまれずに済むんじゃないか?やり方は、そうだなぁ、ゴブリン相手だし、どんな手を使っても問題ないよね?・・・というわけだ。

「今日もよろしくお願いします、イェスパーさん」

「やぁジェット君にアルバーン、調子はどうだい?」

 太陽光も月明かりも入らない地下牢は爺の炎で照らされる。大体週2のペースで。

「絶好調です!」

 どうしてここから出ないのか、とは聞かない。出ない理由があるからに決まっているからだ。彼を取り巻く世界の闇に、身体年齢5歳のちびっこが踏み込むべきではないだろう。

「おや、ジェット君、良いナイフを腰に提げているね」

「あ、分かります?母さんから貰ったんですよ~」

「ああ、そうかそうか!もう誕生日か。いやはや、何も用意できない我が身を悔やむばかりだね」

そう、私ジェット・アルバーン・シュヴァルツェンバッハの誕生日は、前々回とは違いつつがなく祝われたのだ。


「それじゃあ、今日はジェット君の誕生日祝いの代わりに、いつもとは違う技術を教えよう」

「おっ、待ってました!」

「まずはいつも通り軽く手合わせしようか」

「はい!」

会話が終わると、二人して示し合わせたように牢の中央に歩き出した。手合わせに始めの合図は無く、いつ攻撃を開始しても良いのがルールだ。中央に着いて向かい合った瞬間、俺は全身に魔力を漲らせて突っ込んだ。右ジャブはフェイント、本命はイェスパーさんの足を俺の踏み込みで潰すことだ。

「チッ」

ズダンと音を立てて床を踏み抜いた。ステップバックした彼は余裕の笑みを浮かべている。ここ最近ようやく全身に魔力を漲らせたまま動けるようになったばかりで、持続時間は短い。一気にケリをつける!

シッ、と鋭く息を吐いて左に大きくステップし、着地の反動を使い思い切り膝目掛けてサイドキックを放つも、彼は膝を軽く上げて脛で受け止めた。

「ッだぁ!」

伸びきった右足を下ろすと同時に放った左上段回し蹴りは、イェスパーさんの顔の真横で掴み取られた。

「それ」

緊張感のない掛け声を出しながら俺の足を横に投げた。寝起きで鎖を引きちぎるような馬鹿力によって俺の体はコマのように一回転したが、逆に都合がいい。遠心力を利用してローキックを打ってやる!

「な!?」

左足が空を切った。彼の姿が見えない。俺が一瞬背中を見せたタイミングで後ろを取ったのか!蹴りの勢いのまま半回転すると、俺の胸に彼の手のひらが添えられた。満面の笑みと共に。

「新技術だ、とくと味わうと良いよ」

彼の透き通った深緑の魔力が、俺の胸に浸透した。打撃ではない。一体これが何だというんだ?

すると、彼の魔力が俺の魔力に絡みつき、気付けば強制的に身体強化をはがされていた。力を強化するのではなく、魔力の操作を応用したのだ。なるほど、これは確かに新技術…。

「油断大敵!」

鎧のはがれた胸部を軽く叩かれた。鉄を砕く腕力で。

「うぐぅ…」

「ははは、ちょっと力が強すぎたかな?」

「い、いえ。大丈夫です・・・」

「なら良かった。どうだい、感想は」

「今の俺じゃ、覚えるまでに一年かかりそうです」

自分の体内ではなく、相手の体内で魔力を操作するのは、未だに魔力が完全に目覚めていない俺にとっては超高難易度技術だ。

「一年で覚えられれば上等さ。それじゃいつもの稽古に移ろうか」

「おす!」



アルバーンは、いつものように牢の外に作った椅子に腰かけ、いつの間にか5歳になった自分の生徒が汗水たらして稽古するのを眺めていた。不意に、今目の前で逆立ちして歩かされている生徒が魔力に目覚めたのは、イェスパーに会った後だった事を思い出した。今朝、少女の姿が見えなかったが、まさかまた何か起こるまいな、と考えつつ、紅茶を一口飲んだ。

 ジェットに贈られたナイフ。これが彼女の昔からの愛用品だということは知っていたし、贈り物にしては武骨で実用的過ぎるのは確かであった。

 冒険者時代に嫌な予感はバカにならないという教訓を得ているアルバーンは、しかし落ち着いて紅茶をまた一口飲んだ。何が起ころうと超然として現実を見据えることのできる彼にとって、きっと何が起ころうといつも通り些事に過ぎないと断言するのだろう。例えそれが、誰かの運命を大きく分かつ事だとしても。







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