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神と一緒に落ちたなら  作者: 猿ヶ瀬 黄桃
第一章 もう一つの世界
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第十六話 相棒

「ハァ、ハァ、後、何回やりますか?」

流れる汗が鬱陶しい。牢の外からどうでもよさそうにこちらを眺める爺を横目に、汗を拭う。

「これで稽古は終わりさ、よく頑張ったね」

「え、もう終わりなんですか?」

「ああ、これから徐々に量を増やしていくよ」

「あ、はい。ありがとうございました」

鬼ごっこと壁押しを2セットやっただけで終わりとは、なんだかあっけなかったな。しかし、イェスパーさんは少なくとも俺より100年以上先輩なんだ、ここは素直に城に戻ろう。俺は手早く荷物をまとめ、牢を出る際に頭をもう一度下げた。イェスパーさんはにっこり笑って頷いた。

長い螺旋階段を登っているとき、不意に疑問が浮かんだ。どうして友人を数十年間も放置していたのか、爺に聞きたくなった。しかし、炎を片手に俺の前を行く爺の背中を見ていたら、そんな気持ちは萎えてしまった。俺が踏み入る問題ではないような気もするし、無粋だと思った。お互いに何も喋らないでいると、コツ、コツと足音が響くのがはっきり聞こえる。きっと彼にも聞こえているのだろう。

また、牢を訪れようと思った。

「学長」

「なんだ」

「疲れたからおぶってください」

「・・・繝ゥ繧、繝峨ヰ繝」

「うお!」

俺の体がふわりと浮かび上がり、そのまま爺の歩みに合わせて進んでいく。彼らしい対応だ。自分の口角が自然と吊り上がっていくのが分かる。

「ありがとうございます」

「よい」

そのまま階段を登り切り、俺たちが最初に瞬間移動した牢の中にある骸骨の前まで到着。また爺の魔法で石板の前まで戻ってきた。腹具合からして、多分昼過ぎだろう。母さんは飯を作ってくれているだろうか、いや、その前にシャワーを浴びたいな。

「学長、はやく階段下りましょうよ」

自分でシャワーも浴びられない俺は早く母さんのところに行きたいのだが、彼は一向に階段を降りようとしない、どうしたというのだろう。彼の目が遠くを見るように細められていて、心なしか不機嫌そうだ。俺、なんかしたかな。

「あ、あの・・・」

「小僧、吉報だ。魔眼が手に入るやもしれんぞ」

「え!?な、なんすか!?」

イェスパーさん以上の不意打ちに俺が驚いていると、城の正面玄関がギイと音を立てて開いたので、自然とそちらに視線がいった。

入ってきたのは、母さんだ。俺を城に連れて来た時と同じ、黒い装備を着ている。ガチャリと音を鳴らしながら彼女はこちらに歩み寄ってくる。

「アルバーン様、申し訳ありません。時期が早まりました」

「貴様のせいではなかろう」

「ええ、まぁ、そうですね」

心なしか母さんの声のトーンが低い。稽古中よりももっと冷たい感じがして、まるで別人だ。

「ジェット、下りて来い。アルバーン様もお願いします」

俺は困惑しながらも、もともと母さんには用があったので階段を下りる。爺は平然としているから、大したことではないのだろう。装備が本格的なのは、きっと狩りに行っていたからだ。

「小僧、決して怖気るなよ」

「な、何にですか?」

「反吐を吐き糞尿を漏らそうが、目は反らすな。膝もつくな。何があろうともな」

「何ですか!一体、なッ!?」

さっきまでイェスパーさんの威圧感を感じていたから分かる。やはり母さんの発するそれは、あまりにも冷たい。まるで銃口を突き付けられているようで、生きた心地がしない。

さっき爺は、魔眼が手に入ると言った。つまりは、死にかけるほどの体験を俺がすることになる。まさか、俺が母さんに?いやあり得ない。しかし、どうやって現実逃避をしようとしても俺の頭の冷静な部分が答えを告げる。

「ジェット、安心しろ、きっちり寸止めする」

稽古の汗でべたついていた体に、冷や汗が上塗りされていく。ああ、嫌だ。あれだけ魔眼が欲しかったのに、もう一生魔法が使えなくても構わないから、逃げ出したくてたまらない。俺に向けられる銃口が毎秒一つずつ増えていく様で、正直これ以上はもう耐えられない。しかし体がいうことを聞かないので、奥歯をカチカチ鳴らせながら突っ立っているだけだ。

「ジェット、すまないな」

謝るくらいなら一刻も早くどこかに行ってくれ、もうこの感覚は一秒たりとも味わいたくないんだ。不意に彼女の唇が動いた。音までは聞こえなかったが、彼女は右手を横に突き出し空を掴んだ。そして何かを引っ張り出すように腕を動かした。俺の視線は彼女に釘付けだ、なにせ自分がどんな目に遭うか分からないのだから。

気付けば、彼女は3mはあろうかという棒を肩に担いでいた。それは水銀のような独特な光沢を放ち、半ば程まで黒ずんだ茶色の皮のグリップが巻かれていた。先端に向かうにつれて皮が赤黒くなっているのは、返り血なんだなと直感的に思った。

彼女は金属の棒を体の横に持ち、ぐるりと縦に回した。床に擦れてキィンと甲高い音がして、棒がてらてらと光を反射するのがやけに気持ち悪く見えた。

「この棒の銘は、無垢というんだ。皮肉な名だな」


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