第十四話 昔話
「イェスパーさんは、学長と何処で出会ったんですか?」
パンと干し肉を飲み込んでから、俺は彼に問いかける。
「アドラス王国だよ。知ってるかい?」
「はい、キングスフィアの隣国ですよね」
確か格差が大きい国で、下流階級の国民は鉱山で働くか、冒険者になり一獲千金を狙うかの二択らしい。
俺の返答を聞いて、イェスパーさんは嬉しそうに微笑んだ。
「良く勉強しているね。あれは、140年前だったかな・・・」
イェスパーさんは俺の脇に座る爺を一瞥すると、今度は少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、干し肉を嚙み千切った。
「アルは世界を回って魔法の研究をしていたんだ。その折にアドラス王国を訪れ、路銀稼ぎに冒険者になったのさ」
「んえ~」
俺がパンを咀嚼しながら気の抜けた返事を返すと、彼は続きを喋り出した。
「魔法災害を追い求めていたアルは、強大な魔獣の巣に足を踏み入れてしまったのだけど、おっと、魔法災害は知ってるかな?」
俺は首を横に振った。魔法関係のワードで知らないことはもう少ないと思っていたが、思い上がりだったな。
今度は爺が口を開く。
「この小僧の気質を鑑みるに、知ったらば追い求めると思ってな。まだ教えておらん」
「なるほどね」
魔法関係だとついつい好奇心を抑えられないのは自覚している。しかし、聞くなと言われたら聞きたくなるのが人の性。
「イェスパーさん、ざっくりで良いから教えて!」
「ふふ、良いかい?アル」
爺は目を閉じて数秒してから頷いた。
「・・・知ってどうにかなるものでもない。少しならば良いだろう」
「お許しが出たぞ、ジェット君」
「あざっす学長!」
爺は何も言わずに目を閉じている。つれない爺さんだ。
「魔力災害とはねぇ、自然が生み出した魔法とでも言おうか。嵐や山火事が起きるように、何らかの要因で、魔法が突発的に発生することがあるんだ」
俺は頷きながら目で続きを促す。
「そして災害に巻き込まれた人間には、何らかの魔法が刻まれるんだ」
「なんらかの?」
「そう。火災なら炎、嵐なら風、といった具合にね、災害の種類によって決まるんだ。もっとも、災害に遭って生きて帰ってくる者はそう多くないし、命を懸けずとも魔法は習得できる」
イェスパーさんは、また悪戯っぽく笑った。
「協会の魔法使いかよっぽどの変わり者じゃなきゃ、自分から災害に首を突っ込むことはまずないだろうねぇ」
「えへへへ・・・」
嫌だなぁ、褒めてもパンと肉ぐらいしか出ないっすよ?
「まったく。馬鹿者が」
俺は爺の注意を聞き流して、イェスパーさんの話に耳を傾ける。
「話が逸れたね。あの時はやたらに体が重くなる災害だった。空から鳥や虫が物凄い勢いで落ちてきて大変だったよ」
「へぇ~!」
重力が強くなる災害だったのだろうか。非常に興味がある、ぜひ体験したい。
「ジェット君、目を輝かせてくれてるところ悪いんだが、あまり面白いものじゃなかったんだよ・・・」
「あ、そうなんですか・・・?」
「ああそうだとも、落ちて来た鳥の血や内臓で辺りはぐちゃぐちゃさ、アルなんか頭に直撃して、くくく、あの時だけは愉快だった!」
意外とイェスパーさんはSっ気のある人の様だな。あ、爺の口角がちょっと上がってる。こんなに柔らかい表情、初めて見たぞ・・・。
「遠巻きからその災害を見たアルが、部隊から勝手に抜け出してね。巨大な猿の魔獣の住処に踏み入ってしまったんだ。空から魔獣が降ってきたときは度肝を抜かしたよ」
「あの時ばかりは死を覚悟したな」
楽しい思い出、って感じで喋ってるけど結構シャレにならないんじゃないか?
「どうやって生きて帰ったんですか?」
イェスパーさんは、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「アルが追い詰められたとき、既の所で僕が間に合ってね。奴の首をぶった斬ってやったのさ!」
ぶった斬って、のところで彼は軽く手刀を振って見せたが、速すぎて肘から先が瞬間移動したように見え、びゅんと風切り音がした。俺の口から、ははは、と乾いた笑いがこぼれる。どうやら本当の話らしい、恐ろしい人だ。
「懐かしいな」
「あはは、本当だね。あの頃は、僕も君もまだまだ若造だった。時の流れは、ともすれば魔獣より恐ろしいかも、しれないねぇ・・・」
そう言うと彼は肉の最後のひとかけらを頬張った。
「・・・うむ」
なんだか急にしんみりした空気になってしまったな。俺も最後のパンを口に放り込んだ。
イェスパーさんが肉を飲み込んで一息つくと、俺の方を向きながら言った。
「さて、授業料も頂いたことだしね。特訓開始と行こうか、ジェット君?」
「はい!」




