表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神と一緒に落ちたなら  作者: 猿ヶ瀬 黄桃
第一章 もう一つの世界
13/52

第十三話 牢獄の住人

「準備できました、学長!」

「そう気張らずとも良い」

水筒と尖塔からかっぱらってきたナイフ、お菓子は無いので干し肉とパンをリュックに詰め、俺は学長に敬礼をする。

気張るなと言われたって、行先は牢獄だぜ?それに交通手段は恐らく徒歩だ。元気は有り余っていて丁度良いだろう。

「うし、行きますか!」

正面玄関に向けて歩き出そうとした俺の服が、爺に掴まれた。

「どしたんすか?」

爺が大階段の中腹にある石板を指さす。

まさか、ボケてしまったのか?いや彼に限ってそんなことは・・・

「ふん、黙って付いて来い」

爺はやや不満げに鼻を吹くと階段に向かってつかつか歩き出す。考えが顔に出ていただろうか。俺は彼の後を追いかける。

石板の手前まで階段を登ると、爺は電話帳から番号を探すように人差し指を動かし、あるところでピタリと止めた。そして石板まで歩み寄り、目当ての文字列を右から左へとその指でなぞった。

「小僧、儂の体のどこかに掴まれ」

「は、はい!」

取りあえず爺の腰に抱き付いた。

まさか、瞬間移動か・・・!?爺が直ぐに着くと言っていたのは、距離が近いからじゃなかったのか!


「蠎ァ讓吶?√お繝ウ繝?Ν縺ョ螻ア蟆丞ア」




「ここは・・・」

気付けば俺と爺は真っ暗闇の中に立っていた。

「捨てられし牢獄の地下牢だ」

爺はそう言うと、手のひらに炎を発生させ、辺りを照らしてくれた。

暖かな光が俺に見せたのは、鉄格子と人骨。どうやら牢屋の中に瞬間移動したようだ。

「うっ」

思わず後ずさりしてしまう。爺は怖気づく俺を差し置いて、牢屋の鍵を魔法で開けた。

「行くぞ。奴はもっと地下深くに居る」

「・・・はい」

二人分の足音だけが響く廊下を爺の後を追って進む。左右を見渡してみたが、気分が悪くなったので止めた。

暫く進むと、地下へつながる螺旋階段に突き当たった。爺は事も無げに下りていくが、俺はどうにも気が進まなくなってきた。しかし、怖いもの見たさと置いて行かれる恐怖が俺の足を前へ進ませる。

随分と長く階段を下った先には、五つの牢屋があった。左右に2つずつ、正面に一つ。

今度は、誰かの呼吸音が聞こえる。

「ッ!!」

俺は息をのんだ。こんな環境で数十年間生きられるとは、信じ難いことだ。

爺は迷いなく正面の牢屋に向かって歩き出す。

「生きておったか、イェスパー」

牢の住人から返答はなく、ただゆっくりと規則的な呼吸が聞こえるだけだ。

「目覚めよ、来客だ」

爺はそう言うと、鉄格子を殴りつけた。ガァーンという音が大音量で鳴り響いた。

(うるせっ)

思わず耳を塞いでしまう。すると、炎が牢の奥に向かってふわふわと飛んで行った。

ついに、見られるのだ。この地獄の環境で生き残り、爺に誰よりも強いと言わしめた男の姿が。

「ン・・・・・・アル、かい?」

爺の旧友というには若々しい、優しく落ち着いた声が聞こえた。

イェスパーと呼ばれたその男は、丈の長いぼろ切れの様な服を着ている。布に覆われていない手や足の皮膚の色は、緑色。俺より少しばかり大きいだけの体躯に似つかわしくない、太い鎖で両手を壁に繋がれ、壁際に座り込んでいた。

イェスパーは、うつむいていた顔を持ち上げる。

「ああ、嬉しいねぇ。もう80年は、ここに一人繋がれていたよ・・・」

鬼のように尖った、長い耳。しわだらけなのに、少年のような顔。頭髪はまばらに生えるだけで、目の色はやや濁った黄色。

「君は・・・アルの孫ではないねぇ・・・。名前を、聞かせてくれるかい?」

薄っすらと上がった口角からは尖った犬歯が覗く。

「ジェット、です」

「うん。良い名だ。・・・ああ、これは失礼。僕の名前は、イェスパー=ギルミルだよ、どうぞよろしく」

「あ、よろしくお願いします」

俺は急いで頭を下げる。この人の身体的特徴からすると、きっとゴブリン族だ。ほとんど絶滅したと爺には聞かされていたが、まさかこんなところでお目にかかれるとは。

「して、イェスパーよ。この小僧は貴様に頼みがあって訪れたのだ」

「フッ、クククク・・・」

イェスパーさんは、肩を揺らして笑いだす。

「ああ、君の単刀直入さが、懐かしくてね。申し訳ない」

イェスパーさんは、俺と目を合わせる。

「ジェット君、この繋がれた身にできることならば、なんでも言ってくれよ」

す、すごく頼み辛い。この状況で戦い方を教えてくださいとは、とてもじゃないけど言えない。しかし、俺が連れて行けと言ったのだ、言わなければ。

「僕に、その・・・戦い方を、教えて頂きたくてですね・・・」

なんか迂遠な言い方になってしまった。逆に失礼になってしまっただろうか。

イェスパーさんがうつむいてしまった。や、やば、怒られるかな・・・。

「う、ふふふ、クク、あはははははは!!!」

腹を抱えて笑っている。それと共に鎖がギャリギャリと大きな音を立てる。な、何がおかしいのだろう。俺みたいなチビが生意気なことを言ったからだろうか。

「はー、君は小さいのに慇懃な喋り方をするねぇ。いや、大きな声を出して悪かったね」

俺に謝ると、彼は大きな鎖を引きずりながら目じりの涙を拭いた。

「僕は見ての通り、とても時間を持て余しているんだ。君を見てあげよう」

「ありがとうございます・・・」

良かった、引き受けてもらえそうだ。笑っていたのは俺の喋り方が面白かったからかな。少なくとも機嫌は損ねていないらしい。

「少々、大きな音を立てるよ」

そう言うと彼は徐に立ち上がり、太い鎖をいとも簡単に引きちぎった。

続けて両手に嵌められた手枷をぶつけ合わせ、粉々に砕いた。

地下牢に、轟音が反響する。

彼を見た時に筋骨隆々という様な印象は抱かなかった。ならばこれも、魔法の力だろうか。

俺は驚き、呆然と立ち尽くしてしまう。

「やはり、ここからは出られんようだな」

爺が言う。それならなんで俺を連れて来たんだ。稽古をつけてもらえないじゃないか、やっぱりボケて・・・いや、ま、まさか。

「うん、やはり君は聡いね、アル。ジェット君、僕がこの牢の外に出ると少々厄介なことになってしまうんだ。しかし、牢の中に他人が入るのは問題が無いのさ・・・」

ということは・・・。

「稽古をしたいとき、いつでもここに来るが良いよ」

骸骨の転がる真っ暗闇の地下牢が、どうやら俺の道場になるようだ。



「ところで、何か食べ物を持っていないかい?久々に食事をとりたくてねぇ」

ぽきりぽきりと関節から音を立てながら、イェスパーさんは俺と爺の方に歩いてくる。

「ああ、パンと干し肉ならありますよ、あと水も!」

俺は急いでバックパックをおろし、中身を取り出す。

爺がまた鍵を開ける呪文を唱えた。

「おお、ありがとう、ジェット君。いやはや、君の様な幼子に恵んでもらう日が来ようとはね」

イェスパーさんは、申し訳なさと嬉しさが入り混じったような笑みを浮かべた。

牢屋の中に俺と爺が入っていく。

「いっぱいあるんで、大丈夫です。授業料ってことで」

「ははは、いい子だ」

「儂が調達したパンだがな」

「こら、アルバーン、いいじゃないかそういうことは」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ