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異世界?勇者召喚?そんなのクソくらえ!  作者: 白い彗星
勇者として召喚されて……
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外の世界で



「しくしくしく……」


「いつまでしくしくしてんだ、しゃきっとしろ」


「誰のせいですか!」



 ソラはリーラを連れ、国の外へと出た。彼女の案内に従い、警備の少ない門へと行き、そこで隙を見て外へ出た形だ。


 リーラは、隙をついて逃げ出そうとも考えていたようだが、相変わらず手首はベルトで縛り拘束している上、変な素振りを見せたらソラがデコピンを額にお見舞いして黙らせた。


 おかげで、白かったリーラのおでこはすっかり真っ赤になってしまっている。



「だいたい、外に出るくらいなんだってんだ」


「言ったじゃないですか、外は危険だって! 危険な魔物やモンスターがたくさんいるって聞かされて……」


「……つまり、見たことはねえんだな?」


「う……」



 ソラの鋭い指摘に、リーラは押し黙る。そう、実は彼女、先ほどいろいろ考えたり言ってはみたものの、実際に魔物だのモンスターだのを見たことがない。


 いや、それどころか……



「だって、仕方ないじゃないですか……外に出るの、初めてなんですから」


「……」



 リーラは、生まれてこの方この国、アウドー王国の外に出たことがない。代わりに聞かされてきたのは、先ほどリーラ本人が言ったような、凶悪な魔物やモンスターの存在。ゆえに、外に出たことはないが外は危険だと教えられてきた。


 それを聞いて、ソラはまるで鼻で笑うように……いや、実際に鼻で笑った。



「ぷっ、あっははは! なんだそりゃ、あんだけ危険だなんだとほざいといて、しょせん人づてかよ! あっはははは!」


「ぬぅ……!」



 腹を抱えて笑うソラの姿に、リーラは顔を真っ赤にする。なにも、そんなに笑わなくてもいいではないか。


 ひとしきり笑った後、ソラは息を整える。



「ま、いいじゃねえか。知らないことはこれから知っていけばいい。ほら、これが外の世界だ」


「……これが、外……」



 リーラは、改めて視線を正面に向ける。これまで、国の内側しか知らなかった、しかし、これからは外側にも目を向けることが出来る。


 そう、魔の前に広がっている光景。それは……



「……見渡す限りの草原、ですね」


「だな」



 一面に広がる、緑の草、青い空……人も建物もなく、まさに自然の中といった感じだ。


 こんな世界、絵本の中でしか見たことがない。



「まるで牧場にでも来た気分だ」


「ぼくじょう?」


「いや、なんでもない」



 広がる草原、それはまるでなんらかの牧場だと、ソラは思った。もっとも、牧場にしては動物の姿も見当たらないが。


 まあ、それはそれとしてだ。国から出ることに成功はしたが、すぐ後ろの門をくぐればまた国の中へと戻れる。こんな危なっかしい場所にいつまでもいられないだろう。いきなり後ろの門から兵士が飛び出してきてもおかしくない。


 なので、一刻も早くここから離れたいところ。それも遠くへ。こんな見晴らしのいい場所では、それこそ人の目の届かないところまで行かなければすぐに見つかってしまう。



「じゃあ行くとするか」


「い、行くってどこに……」


「さあ? とりあえず歩きゃどっかには着くだろ」



 しかし王女を案内役として連れて来たのに、国の外に出るのも初めてとは。これでは、やはり置いてきた方が……いや、外のことには素人でも、この世界のことにはベテランだ。異世界人(じぶん)一人になるよりは幾分心強い。


 それに、先ほどの国王らとのやり取りで、思い返せば気になることもいくつかあった。それを確認するためにも、まあこのまま連れて行くしかない。



「行っとくが、拒否権はない。お前は人質なんだからな、王女様」


「っ……わかりました」



 にやり、と笑みを向けると、リーラは額を庇う仕草を見せる。またデコピンをされるとでも思ったのだろうか。


 足を動かす。見渡す限りの草原ということは、この先しばらく同じ景色が続くということ。気が滅入る話だが、仕方がない。まあ、もしリーラの言う通り、凶悪な魔物やモンスターが出てくるというのなら、それを察知しやすいのはメリットだ。



「果たしてそんな凶悪な獣が出てくるかわからないがなあ、王女様?」


「……リーラです。そのバカにしたような顔でバカにしたような言い方はやめてください」


「そんなつもりはがないんだが」



 ソラ自身、自分の顔が若干悪人面なのは自覚している。あくまで、若干だが。


 それに、別に王女呼びだってバカにしているわけではない。召喚された直後に名乗られた気はするが、覚えていないだけで。



「あまり、王女呼びは好きじゃないんです」


「ふーん……」



 なにか思うところがあるのだろうか。ソラの呼び方というより、『王女』と呼ばれることに抵抗があるようだ。


 それがなにかはわからないが、王族ともなればいろいろあるのだろうか。ソラは興味ないが……なんせ、誘拐犯(ソラ)に名前呼びを要求するくらいだ。



「わかったよ、リーラ。じゃ、名乗られたからには名乗り返すのが俺の流儀だ。改めて、アオノ ソラだ」


「……アウドー・ラ・リーラです」


「ふむ……リーラが名前なのか? アウドーじゃなく?」


「アウドーは家名です。そして先ほどまでいた国が、アウドー王国です。なにか?」


「いや、別に」



 名乗り名乗られ、リーラのフルネームを確認。この異世界では、どうやらフルネームは自分(ソラ)と同じ並びらしい。名字、そして名前。違うのは、名字と名前の間についてるやつくらいだろう。


 ということは、普通にアオノ ソラと名乗っても、ソラと認識されるであろう。なので問題はないらしい。


 こういう細かいことでも、世界が違えば様々な問題が起きかねない。例えば、隣国に『アオノ ソラ』という名前が指名手配されていた場合、バカ正直にアオノ ソラと名乗るわけにもいかない。ただ逆に名乗ればいいという問題でもないが、用はそういった迂闊なことはできないということだ。


 ならばこそ、やはりこの世界の住人からこの世界の知識を得ておく必要はある。それに、気になることも王女ともなれば解消できるかもしれない。



「じゃ、とりあえず聞きたいことがある。あんたらが召喚した『勇者』ってやつだが、もしかして……」


「! あ、あれ……」



 ただ歩いているだけというのもつまらないし、時間は有効に使おう。そう考え、振り向き疑問を口にしかけた時、リーラは正面……つまり振り向いているソラの背後を指さした。


 その表情は、青ざめている。もしこれが、ソラをなんらかの罠にハメようとしているならたいしたものだ。そんなことを思いつつ、ソラは後ろを振り向いて……



「あん?」



 ……なにかが、近づいてくる。それも複数……そしてそれがなんであるかは、すぐにわかることになる。


 大きな獣が、大群で、こちら目掛けて走ってきていた。

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