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異世界?勇者召喚?そんなのクソくらえ!  作者: 白い彗星
勇者と魔王とこの世界
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まさかのラスボス



 前回のあらすじ:魔物のチュートリアル的イベントかと思っていたら、いきなり魔王(ラスボス)が現れた。



「じゃねえよ! どうなってんだよこれは!」



 颯爽と駆けつけたソラの目の前に広がっているのは、死屍累々とした光景。


 兵士たちは無惨に転がり、中には出血が多い者もいる。そして、彼らの先頭に立つのは、今にも倒れそうな体をなんとか支えている女性……ユキだ。


 一目でわかる。あれは、ただ気合いのみで立っていると。今の彼女なら、ソラでも指一本で倒せるだろう。



「で、この状況を起こしたのは……」



 向こう側には、黒い毛並みの獣がこれまたたくさん倒れている。あれが、魔物というやつだろう。


 両者、壮絶なぶつかり合いだったことは想像だに難くない。問題は……



「あのでけぇ奴か……」



 ユキの前に立つ、巨大な存在。それは体格だけではない、なにもかもが規格外だと、そうわかってしまうほどの存在。


 体は黒いもやに覆われているため、その姿を見ることはできない。だが、あれが……



「おいチョロ、あいつを魔王っつったか?」


「は、はいぃ……」


「マジかよ……」



 魔物と対峙するのも初めてなのに、目の前にいるのはその頂点である魔王だという。


 普通こういうのは、強くても魔王軍の幹部とか四天王とか、そういうのが出てくるものではないのか。それが、いきなりその頂点が出てくるなど……笑えない話だ。



「やべー、もう帰りてぇ」



 だが、ここで帰るわけにもいかない。ここで魔王を前に逃げれば、この国は滅びる……のは、ソラ的には別にいいのだが。


 ここでユキを殺されれば、後々困ることになる。なにせ、他の勇者に魔王を倒してもらって元の世界に帰る作戦なのだ。


 他の勇者は三人か四人。そのうち一人でも欠ければ、魔王に勝てる可能性は低くなる。



「ど、どうしましょう……!」



 おろおろと涙目になっているチョロには悪いが、ソラにとっての最善は、ユキを連れてさっさとこの場を離れることだ。


 もう一つ。魔王を倒せば元の世界に帰れるというのなら……この場で、魔王を倒してしまうという手もあるが……



「いや、無理だろ」



 口の中でソラは、小さく呟いた。このたくさんの兵士が、なによりユキが一方的にやられたのだ。


 これまで、アウドー王国に召喚されてから王女リーラを誘拐し、国を逃げて……このトリュフ王国に来るまでの道中、危険からはことごとく逃げてきた。


 そしてようやくここまで来たと思えば、ついに見つけた勇者に何日も檻に入れられる始末。


 こんな体たらくで、なにをどうすれば魔王に勝てるというのか。



「チョロ、お前兵士だろ! どうにかしろ!」


「えぇえっ! 無理、無理ですよぉ!」



 案の定ではあるが、チョロは役には立たない。リーラももちろん戦力としては期待できない。


 となれば、やはりソラ一人で立ち向かわなければいけないわけで……



「ユキ連れて逃げるだけユキ連れて逃げるだけユキ連れて逃げるだけ……」



 すでにソラの頭の中には、逃走しか考えはなかった。


 他の兵士や国の人々のことなど知らない。ただ、やることをやる……その気持ちを抱き、腰を落とす。


 少なくとも、異世界人にとってこの世界は元の世界よりも身軽に動ける。ユキを回収し、逃げる……余計なことは考えず、その目的だけを持っていればそれを成し遂げることは可能なはずだ。



「よーい……どん!」



 腰を落とし、自分でタイミングを計り……一気に、駆け出す。幸いにも、魔王は突っ立ったまま動く様子はない。


 こちらの様子を伺っているのか、なにか別の理由があるのかはわからないが……動かないなら動かないで、好都合。



「よっしゃこのまま逃げらぶら!?」



 ユキの手首を掴むまであと少し……しかしそのタイミングで、ソラの体は真横に吹っ飛んだ。


 とてつもなく強烈な衝撃がソラの体を襲い、次の瞬間には空気を切って体が飛んでいく……そして、地面に打ち付けられ、何度か転がった。



「ぐ、ぅ……」



 頭をひどく打ち付けた……だが、意識はまだある。ふらふらするが。あのような強烈な衝撃を受けて、この程度で済んでいるのは異世界人だからだろうか。


 しかし、額から血が流れている。今、なにが起こったのか……まったく、見えなかった。



「……っ」



 だが、視線の先に答えはあった。魔王が、転がるソラへと視線を向けている。


 おそらく、魔王にふっ飛ばされたのだ。それも、魔王にとってそんなに強い力ではない……ハエを振り払う程度の、力だったのだろう。



「ぐぁ、ってぇ……!」



 ジンジンと痛む額を、押さえる。手のひらには血がべっとりと付き……こんなに、自分から血が出たのかと驚きしかない。


 痛みはあまりないが、この出血量は無視していいものではない。早いところ、この場からユキを連れて逃げなければ……



「って、なんだとぉ!?」



 顔を上げれば、なぜかすごい勢いで魔王がこちらに向かってきていた。というか走ってきていた。


 まさかこのまま、ソラをなぶり殺すつもりなのか。その恐怖にソラは急いで立ち上がり、背を向けて逃げる。


 右へ左へ……そして、魔王はなぜか、追いかけてくる。

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