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異世界?勇者召喚?そんなのクソくらえ!  作者: 白い彗星
勇者として召喚されて……
37/43

強大な相手



「はぁ……しゃあねぇなあ」


「え?」



 リーラが押し黙り、会話が途切れてしまう。ソラもリーラも黙ったまま、チョロは慌てふためくのみ。


 そんな中で、響いたのはソラの声だった。



「ソラ様?」


「聞いてやるよ、お前の申し出」


「え」



 先ほどとは打って変わって、申し出を聞くというソラ。いったい、どんな心変わりであろうか。


 リーラの必死の訴えに心を動かされた……わけでは、残念ながらない。ソラは、考えていた。


 確かに、この世界の連中に好きに使われるのは癪だ。だが、それはそれとして……もし、ユキが魔物に敗れ、死んでしまったと仮定しよう。


 魔物はこの国を襲い、瞬く間に人をものを破壊していくだろう。いかに地下とはいえ、ここも巻き添えになる。牢屋に閉じ込められ、どうやって逃げろと言うのか。


 それに……もっと単純な話。この牢屋の鍵の場所をユキしか知らなかった場合。鍵の在処を知る人物び口は塞がれ、ここから出ることができなくなってしまう。



「勘違いすんな、これは俺のためだ」


「ソラ様……!」



 その言葉は、リーラにとってはソラがまるで、ソラの世界で言うところのツンデレ発言をしたように聞こえただろう。


 だが、なんということはない。ソラは本当に自分のことしか考えていない。それを、素直に信じているリーラはやはりお人好しなのだ。



「ただ、俺は魔物と戦ったことはない。変な期待はすんなよ」


「はい、はい!」



 わかっているのかいないのか、リーラは首をぶんぶんと振っていた。


 情けない話ではあるが、魔物に勝てるビジョンが思い浮かばない。この世界に来て実感したのは、せいぜいが元の世界よりも体が軽いということだ。


 戦いという面について、ソラよりもユキの方がかなり向いているだろう。彼女の助けになれるとは思えないが……


 とりあえず、彼女に死なれるわけにはいかない。他の勇者に任せて魔王を倒してもらうという計画がパーになってしまうからだ。



「よし、じゃあチョロお前もついてこい!」


「は!? な、なんで私があなたの指示を聞かないと……」


「お前の力が必要だ、来い!」


「はい!」



 ちょろいチョロを連れて、ソラは地上へと駆け走る。久しぶりに体を動かしたため、少しだるい。


 そのまま階段を上り、扉を開け、地上へと……



「おわっ、眩しい!」



 久しぶりの日の光。まだ家の中だというのに、こんなにも眩しいとは。今までずっと地下にいたから、久しぶりの日差しにこうも反応してしまったのだ。


 体は万全とは言えないし、こんな調子で魔物と戦えるのだろうか。万全でも、勝てるとは思えないわs¥毛だが。



「そういや、いつの間にか地響きがやんでるな」



 先ほどまで、地下にまで届くほどの地鳴り。それが、いつの間にかやんでいる。それがいいことなのか、それとも悪いことなのか。


 なんにせよ、行かなければ始まるまい。家から出て……



「どっちに行きゃいいんだ!」



 ソラはこの国の地理に、まったく詳しくなかった。


 後ろから来たチョロは、あちこちを見回して……



「こっちです!」



 と、ソラを案内する。ソラは彼女の後ろを着いていくしか、ない。


 その間も、国中を見渡すが……人っ子一人、見当たらない。すでに、避難しているということだろう。


 それからしばらくして。国の正面玄関とも言える、大門へとたどり着く。



「……確かに、向こうから戦闘音みたいなのが聞こえるな」


「この向こうに、皆さんいるはずです」



 さて、この向こうにいるのはなにか。鬼が出るか蛇が出るか。


 大門はあるが、人が通るサイズの小さめの扉もある。そこから、外に出ることは可能だ。



「まだ門が破られてないってことは、向こうで頑張ってるってことか」


「ソラ様、急いでください!」



 チョロに急かされ、ソラは扉を開き……向こう側へ。


 一番望ましいのは、ユキが敵を殲滅し、且つ彼女も無事なことだ。命さえ無事なら、治療できる人間に渡して、さっさとこの国からおさらばすれば……



「はぁ、はぁ……」


「……は?」



 ……聞こえたのは、荒々しい呼吸音。そして目の前に広がるのは……地獄絵図と言っても、差し支えない光景だった。少なくとも、これまで平和な世界で過ごしてきた空にとっては、地獄だった。


 何十人といる兵士が無残に倒れている。ある者は鎧を砕かれ、またある者は大量の血を流して。


 魔物らしき生き物も、倒れている……そんな中で、立っている者が二人。一人は、荒々しい呼吸音の正体だ。



「あいつ……!」



 後ろ姿でも凛々しいとわかる、ユキは……体の至る所から出血していた。ひどい出血だ。傷も多く、どう見ても無事ではない。


 そして、彼女が憎々しげに睨みつけているのが、彼女の正面に立つ存在……



「な、んだありゃ。でかすぎんだろ……」



 遠目でもわかる。あれは、規格外だ。体の大きさだけではなく、力、早さ、全てが規格外の化け物。


 全身が黒いモヤで覆われているため姿はよくわからないが、周りの魔物とはまったく違う。おそらくあれは別格……物語で言うところの、幹部的な存在だろう。



「あ、あれ、あれは……」


「お?」



 隣で、小さな体をがたがたと揺らしているのは、チョロだ。その反応は、あの化け物が何者かを知っているものだろう。


 それほどまでに、強大な相手ということで……



「知っているのか、チョロ」


「は、はい……あれは……あれは……ま、魔王……」


「……はぁ?」



 涙目になっているチョロの口から、震えるような言葉が漏れた。


 そしてそれは……ソラの予想しているものとは、全然違うもので……



「聞き違いか? 今、あいつのこと魔王って……」


「は、はい……間違いありません! あれは、魔王です!」


「ふざけんな! 普通こういうのって、幹部とか四天王とかが出てくるチュートリアル的なイベントじゃねえのか!? いきなりラスボスとか理不尽すぎんだろぉ!!」



 だろぉ……だろぉ……だろぉ……と、理不尽の怒りに震えるソラの声が、響き渡った。

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