孤高か否か
「せぇええええい!」
「ギャウ!」
迫りくる魔物の大群に、一人突っ込んでいく可憐な女性。まるで燃え盛る炎がごとく激しく、しかし踊りでも踊っているかのような身のこなしで、魔物を打倒していく。
手に持つ得物は木刀一本。そして相手取るのは、訓練とは違い人間ではなく獣……魔物だ。
「なかなか、凶暴、ね!」
ユキにとっては、初めての実戦でもあり、魔物との対峙は少しながら恐怖を生んでいる。
しかし、後ろには守るべき人たちが、国がある。そう思えばこそ、足がすくみそうでも踏ん張ることができた。
「はぁあああ!」
構えを取り、一体一体正確に、魔物の急所に木刀を打ち当てていく。主に、頭、顎……その二カ所は、どんな生き物だって急所だ。
形としては、狼といったところだろう。もっとも、狼を直接見た経験などないのだが。
前に後ろにステップを踏み、魔物を蹴散らす。しかし、問題は数……先ほど啖呵を切ったはいいが、果たして一人でさばききれるだろうか。
今なお、地表を揺らすほどの大群が、押し寄せているのだ。
「はぁ、はぁ……このままじゃ……!」
実力ではユキのほうが何倍も上だ。しかし、やはり体力には限界がある。何体もの獣を相手に、さすがに疲労が見え始めている。
この世界の影響により、身軽となっているが……それだけだ。体力が減りにくいとか、そういったものはない。
「! しまっ……」
そして、ほんの僅かに生じた隙……そこを狙って、魔物の鋭い爪が、ユキに迫る。
眼前まで迫ったそれが、ユキの顔を切り裂こうと、したその時……
「! グ、ォ……!」
なにかが魔物の頭に突き刺さり、魔物は命を落とす。伸びていた足はだらりと地面に投げ出され、もう息もしていないことがわかった。
魔物の頭に刺さっているのは、矢だった。
「勇者様を、援護しろ!」
「かかれー!」
次々と、聞こえてくる声。視線を向けると、城の大門が開き……兵士たちが、出てきていた。
彼らは弓矢を構え、魔物へと放っていく。先ほどの一発は、放たれた矢が当たったものだったのだ。
「みなさん……」
「ユキ様だけには、戦わせられません!」
「及ばずながら、加勢します!」
兵士たちは、それぞれ構えを取り、弓矢を放っていく。第一陣、第二陣、第三陣……といった具合に。
もちろん、大門を開けきってしまっているので、突破されれば国内は大混乱だ。だが、大門を開けたおかげで多くの兵士が、こうして外に出ることができた。
ユキは小さく笑みを浮かべると、魔物へと向き直る。加勢に感謝、ならばそれに報いる働きをしなければ!
「ふぅ……覚悟しろ、魔物!」
一呼吸整え、いざ推して参る!
まるで閃光のごとく速さで、次々と魔物を討ち果たしていく。そこに兵士たちの援護も加わり、先ほどよりもずいぶんと楽になる。
さらに、魔物のいくつかはユキではなく兵士……いや大門へと一直線に向かっていく。それを処理するのが、兵士たちの仕事だ。
「殺せ! 一匹たりとも中へ通すな!」
いかに凶悪な獣であろうと、鍛え上げた兵士たちが連携を取れば勝てない相手ではない。
弓矢部隊、そして剣の舞台と役割を分け、近づいてくる魔物は剣で相手をする。
ユキほどの動きはできなくても、数人で着実に一体の魔物を仕留めていく。
「これなら……」
数えるのも嫌になるほどの、魔物の大群。しかし、自分と、兵士たちが力を合わせれば、どうにだってできる。光明が、見えてきた。
勇者とは、孤高なもの……勝手にそう思っていたが、やはり人間たるもの、力を合わせることが強大な敵に立ち向かうべきなのだ。
力を合わせることは、獣にはできないことなのだから……
ズシィ……ン……!
「!」
光明が見え始めた……そこへ、しかし胸の奥にまで響くような地鳴りが、響く。なんだこれは。
魔物の大群のそれとは、まるで違う。
強大ななにかが……近づいて、来ている。




