現るる魔物の大群
「……! 本当に、魔物が!」
「ユキさん!」
外に飛び出したユキは、真っ先に国の入り口、大門へと向かう。
そこにはたくさんの兵が集まっており、外を睨みつけていた。その先には、確かに魔物の大群が走ってくる姿。
「状況は、どうなっています?」
「ご覧のとおりです。このまま大門を閉めて、魔物の進行を防ぎます」
見れば、すでに大門は閉じられる準備を進めていた。あの数の魔物を国内へと入れれば事だ、それは正しい判断だろう。
だが、一時的に魔物の進行を防いだとして……
「それでは、外に取り残された者はどうなります。なにより、ずっと魔物がうろついたままでは……このまま、一生門を開けないつもりですか?」
「それは……」
わかっている。この兵士も、おそらく上の指示に従っているだけ……責めても、意味はない。
今、冒険者や商人など、国の外に出ている者たちはいる。魔物の進行を防ぐために大門を閉めると、外にいる者たちを魔物のうろつく外に締め出すことになる。
また、魔物がずっとこのまま周辺をうろつく場合……魔物怖さに、この先大門は開けられないことになる。
「そうなったら、外にいる人たちを見殺しにすることに加え、外との交流も出来なくなります」
「それは、わかります……が……でしたら、どうしたら……!」
「私が、魔物を倒します」
ユキの意見、それは兵士もわかっている。しかし、どうしようもないのだ……だが、ユキは即答する。
兵士は、戦う術を習って訓練してはいるだろうが、それはあくまで人間相手の戦いに関して。獣の、それも魔物の対応の仕方は、分からないだろう。
だからこそ、ここでユキは、自分一人で戦うつもりだ。
「しかし、あなたにもしものことがあれば……」
「どのみち、あれくらいの脅威を押しのけられなければ、魔王には到底勝てません。ちょうどいい……そろそろ、ただの訓練には飽きてきていたところ。それに……」
ユキは、その顔に似合わぬ邪悪な笑みを、浮かべた。
「少し、憂さ晴らしもしたかったので」
「ゆ、ユキ様……?」
「おっと、失礼……」
脳裏に浮かぶのは、今地下に捕らえている勇者の男の顔。いや、あれを勇者と認めたくもない。
彼の言わんとすることも、正直わからなくもない……が、だからといってやりすぎだ。リーラを誘拐し、あれこれやらせるなど正気の沙汰ではない。
……と、今は彼のことを考えても仕方がない。彼と同じ空間にリーラを残しているのは不安だが、彼は拘束されている以上リーラに危険は及ばない。
己の腕試しもそうだが、彼の相手で溜まったうっぷんを、魔物で晴らさせてもらうとしよう。
「行きます!」
家を出る際、木刀を持ってきていて正解だった。あの数を、素手で相手するにはさすがに厳しい。
閉じかけていた大門は動きを止め、その隙にユキは大門の外へと飛び出す。
「ユキ様、我々も……」
「みなさんは、私が漏らした魔物の処理を、お願いします!」
外へと着地し、木刀を構えつつユキは魔物に向かい合う。
ああは言ったが、ユキはこの先を一歩も進ませるつもりは、ない! 魔物はすべてここで食い止める。
「さあ、始めましょうか」
向かい来る魔物の大群……それに、ユキはたった一人、突っ込んでいく。




