異変の揺れ
「おいおい何事だ……って、待ておい!」
突如として、地響きが起こる。それも、かなり大きい……地下のここでもこれほどの揺れを感じるということは、地上ではどれほどに揺れているのか。
ただの地震とは、思えない……すぐに、ここから脱出しなければ。
しかし、ソラがなにを言うより先に、リーラは走り出す。
「おい、おーい! せめてこの縄ほどいてけよ! このアマぁ!!」
ソラの声は虚しく響いて……リーラは、足を止めてくれなかった。
そのリーラはというと、階段を上り、地下から地上へと脱出した。
「ゆ、ユキ様!」
「あ、リーラ様そんなところに!」
地上へと続く扉を押し開くと、そこには慌てた様子のユキがいた。
やはり、地上の揺れは地下の比ではない。なにか、よからぬことが起こっているのは、明白だった。
「あの、いったいなにが……」
「わからない……けれど、尋常じゃない。リーラ様も、どこかに捕まって!」
すでに、どこかに捕まっていないと、立っていられないほどに激しい揺れになっている。何事であろうか。
その時、家の扉を開く者があった。
「ゆ、ユキ様! おられますか!」
「! ど、どうしたんです!?」
バタンと扉が開け放され、一人の女性が入ってくる。鎧に身を包んだその女性は、チョロだ。
以前、ソラに騙され森の奥で拘束されてしまい、なんとかユキに助けられた。彼女には、ソラとリーラの事情をある程度知ってもらっている。
そんな彼女が、慌てた様子でやって来たのだ。
「どうしたんです、そんなに慌てて……」
「ま、魔物です! 魔物の大群が現れたようで!」
「は!?」
チョロの言葉に、ユキは目を見開く。魔物……それは、魔王の配下となる獣のことである。
ユキたち勇者は、魔王を倒すために異世界へ召喚された。召喚した国王の話では、魔物はまだ人里を襲ってはおらず被害が出ていないとのことだが……
「魔物、ですって!?」
「リーラ様……」
その報告に驚くのは、リーラもだ。彼女は、王族であり一般よりも多くの知識を持っている。
魔物は、人を襲う凶暴な獣だ。だが、まだこの付近には出現しておらず、ここにまで襲ってくるはずがないのだ。
だが、現実として魔物は、襲ってきた。
「くっ……私は、ひとまず状況を確認してきます! リーラ様は、ここに! チョロさん、リーラ様をお願いします!」
「あ、ユキ様!」
止める間もなく、ユキは家を飛び出していく。本当に魔物が攻めてきたというのなら、それは大事だ。
それがわかっているからこそ、ユキは飛び出した。なにもできない、そんな自分にリーラは、歯がゆさを感じていた。
「……ソラ様」
そっと、地下へと続く扉を見る。閉めることも忘れ、開け放たれたままだ。
今の会話を、聞いていただろうか。結構大きな声で話していたし、あの静かな地下になら聞こえているかもしれない。
ここで、ソラを解放すれば、彼も力になってくれるだろうか。……可能性は、五分どころか低い。
なんせ、こうして地下深くに拘束されている。そんな国のために、力を貸してくれるとは思えない。
「……ユキ様、どうかご無事で」
どうか、何事もなくてほしい。そう願って、リーラは祈りを捧げた。




