そして勇者は投獄される
……見事に捕まってしまったソラは、先ほど飛び出したばかりのユキの家にいた。ぶすっとした態度で、捕まっているのになぜか偉そうに座っている。
手足を縛られ、動けない状態で床に座らされ、二人の女性に見下されている。
「くそ、横暴だ! 俺がなにをしたってんだ!」
「……自分の胸に、手を当ててみろ」
この期に及んでも、ギャーギャーと暴れるソラに対してユキは呆れ気味だ。
ユキだって、なにもしていない相手をこうして捕まえはしない。ソラ本人も、それはわかっているはずだ。
それはそれとして、この状態が非常に遺憾であることにも変わりはない。
「わ、わかった、手を当てる! 当てるから、この縄ほどいてほしいな〜」
「……ああ言えばこう言う」
態度を改めるつもりのないソラに、ついにユキが舌打ちをする。彼女になにを言っても、おそらくは無駄だろう。
となると、この場で他に頼りになりそうなのは、リーラだ。だが、そもそもリーラが裏切ってこの状況が出来上がっている。
彼女にも、頼ることは出来まい。
「さて、本来なら、あなたを捕らえたことを国に報告したいのですが……」
「!」
「……リーラ様の顔に免じて、それはやめておきます」
ここでソラを捕まえたことを国に報告するのが、本来は正しいことだ。だが、リーラはそうしない。
なぜなら、それは国の……アウドー王国の信用問題に関わるからだ。アウドー王国の勇者ソラが、王女を誘拐などと、そんなもの国の恥だ。誰にも知られたくはないだろう。
しかも、同じく勇者を召喚した他国によって確保されたなど、国の権力関係にかかわることかもしれない。
つまりは、ソラが逃げられない状況で、且つ他の誰にもここにいることがバレてはいけないのだ。
「というわけで、あなたには地下室に行ってもらいます」
「なにがというわけでだ! てか、地下室!?」
ユキは、少し歩き、床に手を置く……そこには、取っ手のようなものが付いていた。
取っ手を掴み、ゆっくり引き上げる……床の一部分が、動いて、扉のように開いた。
床の下……そこには、暗闇が広がっていた。ただ見えるのは、下に、地下に続く階段のみ。
「さ、行きましょうか」
「や、やめろぉ! 暗い、暗いぃいい!」
「あら、もしかして、暗い場所が苦手……?」
「バカ言え、んなわけあるか! ただ、こんな暗くて冷たい場所、人間のいていい場所じゃねえ! 光の下に帰せ!」
「怖いんじゃない」
「いーやーだー!」
ギャーギャー騒ぐソラを、ユキは地下へと連れていく。リーラはどうしようか迷ったが、待っておくようにアイコンタクトを貰ったので、待っておくことに。
代わりに、そっと床の扉を閉めた。
「! お、おい! なに扉閉めてんだあいつ! ふざけんなよクソガキ!」
「私が頼んだのよ。少し静かにして」
「なにも見えねえ! 死ぬ、床から足踏み外して死ぬ! こんな所で野垂れ死ぬなんて嫌だぁ!」
「私暗闇に慣れてるから。でも、暴れるなら突き落とすわよ」
……そんなこんなで、階段がやっと終わる。そして、少し歩き……ソラは、放り投げられた。
冷たい床に、思い切り頭をぶつけてしまう。
「っ、いってぇ……おいてめえ、なにを……」
ガシャン
「……ガシャン?」
ソラは、手足を縛られている。それでも、なんとか地面を這って前へと進む。なにかに、ぶつかる。
ようやく、目が慣れてきた。……それは、鉄柵だった。
「鉄、檻……まさか、ここは牢屋か!?」
「えぇ」
「ふざけろよ! 地下室ならともかく、なんで家に牢屋があるんだよ!」
ソラは、牢屋の中に入れられてしまったらしい。当然鍵は閉められているし、まともに動けもしない。
光もなければ、目も自由に見えない。冷たい空間の中には、ソラの声だけが虚しく響いていた。
「ここで、しばらく……いや、いっそすべてが終わるまで、じっとしていてもらおうか」
「なっ……」
それは、ソラにとって衝撃的な言葉だった。
「冗談じゃねえ、何日、いや何十もしかしたら何百日もここで過ごせだと? 気は確かか!」
「王女を誘拐するあなたよりは確かなつもりよ」
「いいか、俺の嫌いなものは、他人任せな奴と不自由だ! よその世界から勇者だっつって俺を呼び出し、後は丸投げ! そんな奴らに従う!? 冗談じゃねぇ! それに、そんな使命とやらに縛られるのはごめんだ! だから逃げた! 俺は被害者だ、なのにこんな扱いはあんまりだ! こんなところに縛られるのも、我慢ならねえ!」
ソラは吠える。確かに誘拐はやりすぎたかもしれないが、だからといってこんなのはあんまりだろう。
……いや、現実でも誘拐事件の犯人なら何日も拘留されるし、そんなものなのか? だとしても、こんな暗闇の場所はないだろう。
「謝れっていうのなら、あいつにいくらでも頭を下げる。靴だって舐めてやる! だから……」
「ぺっ」
ユキはゴミを見るような目をしていた。ソラには見えなかったが、なんでかそれはわかった。
「彼女に聞きましたよ。資金を得るために、彼女の母親の形見を売ったそうね」
「ギク!」
「おまけに、彼女を自分に協力させ、私を捕まえようとした。チョロさんにもなにかしたんでしょう?」
「ギクギク!」
ソラの罪状は、増えていく。誘拐、強盗、恐喝エトセトラエトセトラ。
仕方ないだろう、この世界で生きるために金は必要だったのだ。売れるものはあれくらいしかなかったし、仕方ないではないか。
「いや、それは……」
「チョロさんは、どこ?」
「! も、森だ! 近くの、森に……あいつにはなにもしてない、ホントだ! 飴ちゃんあげただけだ! だから……」
「……」
「お、おーい? ちょっと? 無視は良くないなぁ。少しは目が慣れてきたけど、まだ暗いんだからさぁ……怖くはないが、それでも人間ってやつは暗闇だと不安になる生き物で……」
「……」
「おい! 嘘だろ、まだそこにいるんだろ!? 俺を置いてどっか行ったのか!? 返事をしてくれ!」
バタン……
「! マジかよ、あいつ……足音も立てずに、地下から出ていきやがった……」
絶望……ソラにとって、それは絶望以外のなにものでもないだろう。
なぜ、異世界に来てまで投獄されないといけないのか。いわれのない罪……ではないが、なにもここまですることはないだろう。
ユキは、ソラを捕まえている事実を公表するつもりはない。つまり、この場所を知っているのはユキとリーラだけで……
誰も、会いにすら来ないかもしれない。
「マジかよ……」
ソラ、投獄一日目。




