確保ぉおおお!
「よっ、ほっ、はっ!」
「っ……!」
放たれるユキの拳。その乱打を、ソラは紙一重に避けていく。なんとも隙のない、洗練された動きだ。
並の人間ならば、避けるどころか見切ることすら不可能な乱打。それをソラが避け続けることができているのは、皮肉にも勇者として身体能力が上昇しているからだ。
とはいえ、こうして避け続けるというのも、限界でギリギリだ。さっきから髪の毛に、頬に、かすかにだが当たり始めている。
(このままじゃ……!)
まるで、詰め将棋だ。やはり訓練している分向こうのほうが速く強い。だから、ソラとの実力差がどんどん埋められてきている。
動体視力や身体能力の向上だけで、どうにかなる段階を超えてしまっている。このままでは、近いうちに情けなく気絶させられてしまうだろう。
そんなのは、耐えられない。
一方で……
(くそっ、なぜ当たらない……!)
ユキが放つ拳は、どれも当たれば人間くらいなら気絶させられるものだ。繰り出す速度も、徐々に増してきてさえいる。
だが、ソラにクリーンヒットしない。それが、ひどく許せない。同じく勇者である人間だが、相手は年端もいかない少女を誘拐するような外道だ。そんな奴に、鍛え上げた拳をかわされるなどと。
そんなのは、耐えられない。
「っ、こなくそ!」
「なっ……!」
攻めて引いての一進一退。その状況を脱しようと、先に仕掛けたのはソラだ。
ユキは、ソラの顔面を主として狙っている。わかりやすい性格のおかげで、集中すべきは上半身だとわかった……ならば、ソラが狙うは、下だ。
後退りしている今では、少しくらい妙な動きをしても不審には思われない。だからこそ、この方法が使える。
ソラは、後ろへと下がるふりをして、地面に足を引っ掛けた。そして、思いっきり地面を、いや土を蹴り上げたのだ。
いわゆる……目潰しだ。
「あ、くっ……」
舞い上がった土は、ユキの目元へと飛んでいく。身体能力が上昇しているおかげか、それともうまく蹴り上げられたからか、土は思いの外舞い上がった。
ユキは、目元に入った土に、攻撃の手をやめてしまう。それも仕方のないことだろう、生物的な本能的防御だ。
「くっ、卑怯な……!」
「卑怯もくそもあるかよ! 悪いな!」
こちらは逃げるのに必死なのだ。正々堂々戦うわけでもなし、卑怯上等だ。
ソラはすぐに、後ろへと下がる。そして……
「じゃあな、俺はここを去る! あばよっぷら!?」
……なにかすごい衝撃を横腹に感じ、派手に転がっていった。
なにかが、ソラに突撃してきたのだ。
「いつつ……ってぇな、なにが……お、おま、リーラ!?」
「うぅう……」
ソラが身を起こすと、腰にはリーラがしがみついていた。いったいどこから……今のは、リーラが衝突してきた衝撃だったのだ。
リーラを引き剥がそうとするが、なんでか離れない。どこにこんな力があるのか。
「おいバカ、離れろ! でないと……」
「でないと、なんだ?」
……視線を上げると、そこには鬼がいた。
「リーラ様、ご助力感謝する。確保ぉおおお!」
「うお!?」
逃げられないソラを、鬼……いやユキは、どこから取り出したのか縄で縛っていく。
手足を縛られ、動けなくなってしまった。
「んにゃろっ……てめえら、計りやがったな!」
「人聞きの悪い。あなたが注意不足なだけだ」
……ユキのわかりやすい攻撃。あれは、ソラをこの場に留めるためのものだったのだ。その時間稼ぎの間に、置いていかれたリーラが追いついてくる。
そして、隙をついてリーラが、ソラを捕らえるというものだ。
「あなたのことだから、どうせ卑怯な手を使ってくると思った。案の定……しかし、私から逃れたことで、そこに隙が生まれたというわけだ」
「っ、くそ!」
不覚、不覚だ……まさか、こんな形で捕まってしまうとは。
その後、ギャーギャー騒ぐソラはユキに連行された。




