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異世界?勇者召喚?そんなのクソくらえ!  作者: 白い彗星
勇者として召喚されて……
27/43

最低男



「どうだ、うまいか?」


「はい! なんですかこれは、食べたことのない味です!」



 ソラは現在、チョロを連れてとりあえず近くの茂みの中へやって来ていた。ユキの家から引き離すため、護衛であるチョロを連れてくる必要があった。


 護衛というだけにどんな方法で引き離そうかと思っていたが、飴をチラつかせて簡単についてきてしまった。


 ちなみに、これはこの世界に召喚された際、ポケットに入ったままだった飴……つまり、この世界には存在しない、異世界の飴ということだ。



「まさかこんなものが食べられるなんて、感激です!」


「そうかい」



 ソラにとっては食べ飽きた味でも、チョロにとってはそうではない。珍しい、いや初めて食べる味に、言葉通りに感激している。


 大事そうに大事そうに、ペロペロと舐めている。どうやら、世界が違えば味も違う……いや、その世界には存在しない味だ、ということだ。



「……」



 その様子を見て、ソラは考える。さて、こいつをどうしたもんか……と。いっそこのまま、この場に放置して、自分だけ戻ってしまおうか。


 いや、それだといつ戻ってくるともわからない。となると、この場に拘束でもできれば一番だ。


 あの場から引き離したのだ、今度はこの場に引き止め続ける方法……もっと言えば、すぐにあの場に戻れないようにしてしまいたい。



「なぁチョロ、その鎧かっこいいなー。ちょっと脱いで見せてくんね?」



 とりあえずチョロを拘束するにしても、着ている鎧は邪魔だ。なんとか脱がせたい。だが、脱がせるために案を考えるのも、もはやソラは面倒になっていた。


 飴をちらつかせたくらいでついてくるこのチョロさ具合なら、もうストレートにいってしまってもいいのではないか、と。



「え、だめですよそんなの……でも、か、かっこいい、ですか?」


「あぁかっこいいかっこいい。俺、実は鎧に目がなくてな、ちょっとでいいから見せてくんない?」


「し、仕方ないですねぇ」



 もはやお前一人で生きていけるのか、と心配になるほどの疑いのなさで、チョロは鎧を脱いでいく。鎧の下はラフなティシャツに短パンで、ついでに腰に携えていた剣も外す。


 渡された鎧は、見た目通りに重い。正直、あっさりしすぎてなにか罠でもあるんじゃないか、と思うくらいだ。



「おー、ありがてぇ。へぇ、こいつが鎧、それに剣か……お、やっぱりお前かわいいじゃねぇか」


「え……そ、そんなことは……」


「いやいや、めっちゃかわいいぞ。鎧なんて物騒なものに身を包んでたからわからなかったが、そうやって普通の格好してれば、世の中の男が放っておかないぜ」


「そ、そうですかねぇ?」



 うぇへへへ……と、おだてられ体をくねくねさせているチョロを見て、ソラは服の中に忍ばせておいたものを手に取る。



「そうそう。あ、ちょっと後ろ向いてもらっていいか? 後ろ姿めっちゃかわいいと思うからさ」


「えぇ、しょうがないですねぇ」



 言われた通りに後ろを向き、背中を見せるチョロ。その動きを確認して、ソラは服の中から、縄を出す。それは、万が一の時のために持ってきておいたアイテムだ。


 縄を使い、チョロの両手首を、後ろ手にきつく縛っていく。



「あ、あれぇ?」


「……お前、ホントチョロすぎだろ」



 後ろ手に両手首を縛り、拘束完了。念の為に両足首も縛っておく。これで、暴れても移動することはできまい。


 証拠に、モゾモゾと動いているが、解放される気配はない。



「なっ……だ、騙しましたねぇ!」


「騙してはねぇよ。お前が無警戒なだけだ」



 実際、ソラがチョロに言ったのは、かわいいくらいだ。そして、それは嘘ではない。異性としての対象かは別として。


 それに気を良くしたチョロが、まんまと背中を見せたのが悪い。俺はなにも悪くない、とソラは言いたげだ。



「そういうわけで、しばらくここでおとなしくしといてくれや」


「ちょっとぉ!?」


「後で解放しに……来れねぇかもしれねぇが、まあ遅くても夜が明ければ誰か見つけてくれるさ」


「だ、誰かぁー!」



 残念、近くに人気はない。それは確認済みだ。騒いでも、すぐに誰か駆けつけることはないだろう。


 明るくなれば、人通りも出てくるだろうし、まあなんとかなるだろう。



「というわけで、じゃあな!」


「こ、この最低男ー!」



 チョロの悲痛な叫びを背に、ソラはその場から去る。年頃の少女から鎧と剣を剥ぎ、縄で縛って放置するという鬼畜男である。


 さて、これでだいぶ時間は稼げたはずだ。今頃はリーラが、ユキ宅に突撃、ユキを眠らせているに違いない。


 ユキを攫って、彼女が目を覚まさないうちにこの国を出よう。その後は、また予想を立てて他の勇者を探していく。勇者が揃えば、なんとかなるだろう。多分。



「っと、ついた」



 頭の中で今後の予定を立てていると、先ほどいた場所まで戻ってきた。目の前にはユキの家、周囲に人影はなし。


 ソラは、柄にもなくすっかり油断していた。直前に、あんなチョロっ娘と絡んでいただろうか。いつもは多少なりとも警戒心を持つのに、この時ばかりは……


 無警戒に扉に手をかけ、開ける。そして……



「戻ってきたな、アオノ ソラ……お前の悪事、すべて聞かせてもらった!」


「……」



 待ち構えるようにして、ユキが仁王立ちでソラを睨みつけていた。

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