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異世界?勇者召喚?そんなのクソくらえ!  作者: 白い彗星
勇者として召喚されて……
26/43

あなたは騙されている



 パタン



「……」



 入った、入ってしまった。家に、勇者ユキの家に。


 リーラは、元々扉を開けたユキに、いきなり催涙スプレーをかけ、気を失った彼女を運び出す予定だった。もちろん、リーラ一人では運べないため、護衛の兵士を撒いたソラが戻ってくる算段ではあるが。


 だが、こうして家の中に入ってしまえば、隙を見つけるのは難しい。



「申し訳ありません、紅茶しかなくて」


「い、いえお構いなく」



 ちょこんと椅子に座らされ、紅茶を用意する姿を見ているしかないリーラ。ただ紅茶を用意しているだけなのに、なんと洗練された美しい所作なのだろう。


 ウチの給仕にも劣らないかもしれない。勇者というのは乱暴で卑怯な生き物だと思っていたリーラの考えは、この数分で早くも崩れていった。



「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます」



 目の前に、紅茶の入ったカップを置かれる。漂う香りは、とてもいいにおいだ。


 それを、ゆっくりと口に運ぶ、うん、おいしい……これは、普段から紅茶を淹れている人のものだ。



「さすが、王女様ともなるとその仕草までお美しいですね」


「え、いやあ、あはは……」



 一応、王宮でそれなりの礼儀作法は習っている。まだ成人前だとはいえ、人前に出しても恥ずかしくないものには、なっているはずだ。


 さて、これからどうしようか……もしこの場に、今ソラが戻ってきたりなんかしたら、最悪だ。ユキには警戒され、もう二度と近寄ることもできないだろう。



「さて……本日は、どういったご要件で? それも、こんな時間に」


「そ、それは……」



 どう話を切り出そうかと迷っていたところへ、ユキの方から口を開く。リーラが、ここに来た理由を問いかける。それは、当然の疑問だ。


 今日、昼間に会ったばかりの関係。それも、他国の王女と勇者という関係だ。深いつながりなどなく、家を訪ねるほど親しい間柄では、もちろんない。


 だが、ここでなにかを言わなければ、怪しまれることは間違いないだろう。



「その……他国の、勇者様がどういう方か、話してみたくて」



 本音も混じった、その場しのぎの言葉。しかしそれを受けたユキは、なにやら深々とうなずいている。



「なるほど……気持ちはわかります。失礼ながら自国の勇者がアレでは、苦労も絶えないでしょう」


「あはは……」



 まるで同情するような声の重さ。リーラは苦笑いを浮かべつつ、脳内にはのんきに笑っているソラの姿が浮かんでいた。


 勇者として、というか人として問題がありげなソラの扱いは、すでにリーラ一人の手に終えるものではない。



「……ユキ様は、受け入れているのですか? その、召喚について」


「うん?」



 気づけば、リーラはそんなことを口に出していた。ユキは、召喚についてどんな思いを、抱いているのだろうか。


 ソラは、不当な召喚を不服とし、国を飛び出した。あの行動はむちゃくちゃであったが、彼の言葉には一考の余地がある。彼らの都合も考えず、召喚してしまったこちらの非について。


 ユキは、どうだろうか。いきなり異世界に召喚され、家族や友人と離れ離れになって……どう、感じているのだろうか。



「いきなり召喚されて、戸惑ったり……あ、すみません。私が聞くことじゃ……」


「いや、構いませんよ。……そうですね、確かに最初は戸惑いましたし、憤りもしました。けれど、この世界が危機に瀕していて、それを私の力でなんとかできるなら、少しでも力になりたい。そう、思ったんです」



 ……ええ人や、と涙を流しそうになるのを、リーラは必死に耐えた。なんと、素晴らしい人間だろう。


 初めの戸惑いや怒りはソラと一緒だが、国の要求を拒否し逃げ出したソラとは違い、国どころか世界のために力になろうとしてくれているのだ。


 だからこそ……申し訳なくも、ある。世界を救うために、勇者の力が必要なのは事実。だが国は、自国の召喚した勇者が一番に魔王を倒すことで、権力を手に入れようと競っている。


 ユキは、このことを知らないのだろう。ソラは、このことを知ったからこそ余計に、協力を拒否したのだから。



「ユキ様は、素敵な方なんですね……」


「そんなことは……あの、もしかしたらなんですが」



 こほん、と一つ咳払い。



「ユキ様、あの男に騙されていますよ!」


「……」



 ユキは、リーラをしっかりと見つめてそう言った。その台詞を受けて、リーラはどう答えるべきかわからない。


 あの男とは、まあソラのことだろう。



「騙され……?」


「そうです! 今話してみてよくわかりました! リーラ様のは、あの男に騙されて連れ回されているのです!」



 騙されてはいません、正面から誘拐されました……とは、言いづらい。とはいえ、どう話すべきだろう。


 どうやらユキは、リーラがソラになんらかの口車に乗せられ騙され、連れ回されていると思っているらしい。


 騙されてはいないが、完全にあの人は潔白ですとも言えないため、なんと言い返すべきか悩ましい。



「ええと……」


「あなたは、あんな卑劣な男のところにいちゃいけない! 私も協力します、あの男を追い出しましょう!」


「えぇえ……」



 おいおいなんだかややこしいことになってきたぞ、と……リーラは、目の前で勝手に盛り上がるユキを見ていた。どうやら彼女は、思い込みが激しい部分があるらしい。


 ユキを誘拐するはずが、どうしてこんなことに……リーラは、もうパニックだった。

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