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異世界?勇者召喚?そんなのクソくらえ!  作者: 白い彗星
勇者として召喚されて……
24/43

ちょろくねえって!



 作戦……とは言いにくい作戦会議を終え、現在夕方を回った頃だ。周辺で聞き込みを行ったところ、ユキはいつもこのくらいの時間に、鍛錬をやめて自宅へと戻るらしい。


 その自宅というのは、国から貸してもらっている一軒家だ。勇者として、城に住んではどうかという声もあったようだが、本人の希望で少し離れた所に、一人暮らすこととなった。


 だが、護衛という形で一人、腕利きの兵士がついている。



「それが、あの女ってわけか」



 ソラとリーラは、物陰からユキの住まいを見張る。ユキが家に入るのを確認して、リーラに訪問してもらう手はずだ。


 リーラであれば、ユキも警戒せずに家に入れるだろう。そこで、リーラに持たせた催眠スプレーを使ってユキを気絶させ、ユキを誘拐する算段だ。


 ちなみに、催眠スプレーは、市場で買った。



「はぁ、どうしてこんなことに……」


「切り替えろ切り替えろ。それにしても、こんなもんまで売ってるとは……この国の治安は、大丈夫なのかねぇ」



 誘拐の算段はついた。だが、そのためにはあの護衛が邪魔だ。どうにかしてこの場から遠ざけたいが。


 見たところ、年はソラよりも下だ。しかし鎧に身を包み、腰に剣を携えていることから、素手ではまず太刀打ちできまい。


 となると、注意を引くのは、ソラの役目だろうか。別に喧嘩をするわけではないのだ、どうとでもできるだろう。



「よし、俺がなんとかして、あの女を遠ざける隙を見てお前は、家に入れ」


「……うまくいきますかねえ」



 不安そうなリーラを尻目に、ソラは歩みを進めていく。護衛というからには、自ら近づいてくる不審者を放ってはおけないはずだ。


 案の定、距離が縮まったところで、兵士はこちらに気付いたようだ。



「よぉ」



 そこで、ソラは自ら手を上げ、話しかける。まるで、古い友人に挨拶でもするように。その気安さに、兵士は一瞬、自分の知り合いかと疑った。


 もちろん、異世界に召喚されたばかりのソラに、この世界の知り合いなどいるはずもない。だが、相手には多少なりとも効果があったようだ。



「……あの、どちら様で?」



 自分の記憶に自信がないからか、兵士は真っ直ぐな不信感を向けてくることはない。自信満々に挨拶され、戸惑っているようだ。


 まず、出会い頭から剣吞な空気になるのは避けられたようだ。



「お勤めご苦労さん。いやあ、勇者様の護衛ってのも、大変だなぁ」


「……いえ、やりがいのある仕事ですよ。もっとも、ユキ様はお強いので、私などお力にもならないとは思いますが」



 フランクな対応と、人のいい笑顔にすっかり気を緩めたらしい兵士は、小さくうなずく。正直ちょろいと思わなくもないソラだが、それでこちらが気を緩めることはない。


 しかし、やはり家の中にいるユキは、結構強いらしい。本人が護衛はいらないと突っぱねたらしいが、これも決まりだからと押し切られたらしい。



「俺はソラだ。あんたは?」


「これは申し遅れました。私は、チョロ・イージャンと申します」


「チョロ・イージャン!?」



 もっと警戒心を和らげてもらうためにも、まずは自己紹介として名乗るソラ。それに倣い兵士も名乗る。チョロと名乗る少女は、鎧なんて着ていなければその辺を歩いていそうな、ごくごく普通の少女の顔している。特徴のない顔ではあるが、顔立ちはいい。


 そんな子まで兵士とは、市場に出回っていた怪しげなものといい、平和そうに見えたこの国は実は危ないんじゃないだろうか。



「……お前、押し切られたら断れないタイプだろ」


「な、なんですいきなり!」


「よくちょろいって言われない?」


「言われません!」



 もしかして頼まれごとは断れないタイプだろうか。もしそうならば、ここから引き離すのも簡単そうなのだが。


 正直、いくらフランクに話しかけたとはいえ、こうまで警戒心も持たれないと、ありがたいことではあるがいろんな意味で心配になる。


 ふと、頭に木の葉が落ちているのを見つけた。



「……」


「あ……」



 無言で頭を軽く払ってやると、途端にチョロは顔を真っ赤にする。なんかもじもじしている。



「やっぱちょろいじゃねえか!」


「だ、だからなんですかいきなり! いい、いきなり頭を、撫でられたら、誰でもこうなります!」


「撫でてねえよ! 名は体を表すとは言うが、お前自覚すらねえのかこえぇよ!」



 なんとも面白い名前だと思ったが、名前の通りちょろい……なので、ここは変な駆け引きなしで、直球勝負といこう。



「なあ、ちょっとあっちの方で話さない?」


「なっ……あんな暗がりに連れ込んで、なにをするつもりですか! あんな公園の茂みの中で!」


「なにもしねえよ。ほら、飴ちゃんやるから」



 ポケットから、棒付き飴を取り出す。憤慨するチョロであったが、それを見た瞬間真っ赤な顔は、少し落ち着きを取り戻していく。


 黙って、飴を受け取る。



「し、仕方ないですね。話をするだけですよ」


「……」



 そんな彼女を見て、ソラの目は実に冷ややかだった。ちょろい……しかも、飴一つで、やりがいのあると言っていた勇者の護衛を放り出すとは。


 まあ、いい。ここから護衛を引き離すという目的は、果たせた。今も見ているであろうリーラに軽く合図をしてから、ソラはチョロを連れて茂みへと移動していく。


 チョロは、飴を幸せそうに舐めていた。

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