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異世界?勇者召喚?そんなのクソくらえ!  作者: 白い彗星
勇者として召喚されて……
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トリュフ王国到着



「おーし、到着!」



 トリュフ王国に、入国する。国という大きなものである以上、入国審査とかあるかと思ったが、特にそんなものはなかった。


 とはいえ一応、王女(リーラ)の顔は隠しておく。フードを被らせておくだけでも、ずいぶん違うものだ。


 ブルに乗ったまま、国内へ。アウドー王国ほどではないがなかなかに活気があり、賑わっている。それに、人間よりもファンタジーで見た種族の数が多いように思う。なぜか大半の人がターバンのようなものを巻いている以外は、アウドー王国と特に変わりはない。


 この国が、過去の勇者召喚すべてにおいて、勇者を召喚している国だ。特に大きな国というわけではないし、なにか名産品があるわけでもなさそうだが……



「ま、俺が気にすることは一つだ」



 別にトリュフ王国の観光に来たわけではない。この国で、本当に勇者が召喚されたのか……手っ取り早く、調べる方法がある。


 ソラはブルの背中から降り、近くを歩いていた獣人に声をかける。トカゲの顔をした、二足歩行の生き物だ。これはいわゆるリザードマンというやつだろう。


 迫力満点の顔だが、なぜか被っているターバンのせいで迫力半減だ。



「あんた、ちょっと聞きたいことがあるんだが」


「あぁ? 見かけねぇ顔だな」


「旅のもんでな。この国に勇者が召喚されたって聞いたんだが、本当か?」



 初対面であるはずの、それも種族の違う相手に気さくに話しかけるソラを見て、リーラは感心していた。なんとも、軽々しい男だろうか。


 だが、相手の男は特に不機嫌そうにしていない。むしろ、笑みを浮かべながらソラに対応している。


 二人の中で、なにかが噛み合ったらしい。話し始めて数分としていないのに、まるで長年連れ添った友達のように大笑いしている。


 旅の者にまで勇者召喚が広まってるのかとか、噂によると赤毛のとんでもねぇ美人らしいとか、それを召喚した若い王子はイケメンでまさに美男美女の絵になるとか。



「……てなことがあってよ、今その勇者様は、王宮にいるはずだぜ」


「ほぉ、やっぱりか。勇者もちゃんと召喚されてたようでなによりだ。王宮でしばらく自分を鍛えて、本格的に旅に出るってところか。王宮に行きゃ会えるかね」


「さあな、俺も遠目に見ただけだしわざわざ勇者様を訪ねる奴なんざいねぇが……この国は、王族と平民との距離が近い。王宮に近づいたところで、追い払われることはねぇよ」



 リザードマンの話を聞くに、この国の民は王族と良い関係を築いているようだ。実際、小さな子供たちが時折王宮の敷地内で遊んでいるのだとか。


 そんなに隙の空いた所であるならば、勇者を訪ねても追い返される心配はないだろう。



「しっかし、勇者様に会ってなにしようってんだ?」


「なぁに、そんなに美人なら一目くらい拝んでおきたくてな」


「おうそうしろそうしろ! 人族だが、獣人族にも結構人気みたいだぜ」


「へぇ」



 美人の勇者、それが今この国にいる。いきなり来たこのトリュフ王国で、早速勇者が見つかったのは幸先がいい。


 まず、会ってからその勇者と仲良くなり、さっさと出発するように誘導する。そしておこぼれを貰い、一刻も早く帰るのだ。



「いろいろ話を聞けてよかったぜ、ありがとうよ兄弟」


「おうよ、頑張れよ兄弟」



 リーラにも、二人の会話の内容は聞こえていた。二人はいつから、初対面の間柄から兄弟になったのだろうとぼんやりと思っていた。


 二人は、ハイタッチをして背を向け、別れる。戻ってきたソラは、ニヤニヤと……ニヤニヤと、不気味な笑みを浮かべていた。



「勇者の情報が早速手に入るとはな。予想通りにこの国にいたようだ、でかしたぞリーラ」


「は、はぁ……ありがとうございます。というか、よくあんなに親しげに話せますね」



 人質という体でここにいるリーラだが、素直にお礼を言われて困惑してしまう。この国に勇者がいる可能性が高いと言ったのは、間違いなくリーラではあるが。


 素直にお礼を言われるとは思っていなかった。が、その驚きよりもソラの先ほどの話術のほうが驚きだ。



「人とのコミュニケーションは大事だぞ? 籠の……いや城の中の姫様も、覚えとくといい。たとえ初対面でも、フレンドリーに話せば相手も警戒を解いてくれるもんさ」


「ふれん、どぉり?」


「つまり、警戒心や恐怖心を捨て、友達感覚で話せってことだ。後は笑顔だな、笑顔を向けられて怒る奴はまずいない」



 そのソラの笑顔は、邪悪そのものだが……リーラはそう思ったが、言わずにおいた。それに、ソラが下品でいやらしい笑みを浮かべるのは一人になったときからリーラの前でだけ。


 先ほどのように、フレンドリーに話すときはいつもの笑顔が嘘のような、爽やかな笑顔を浮かべているのだ。なんとも、笑顔の使い分けがうまい。



「……なんだ?」


「いや、なんか後先考えずに行動するタイプだと思ってたのに、ちゃんとしてるんだなって」



 リーラが、目をパチパチさせている。今までのソラを見るに、行きあたりばったりな性格だと思っていた。だが、実はしっかりしている、のだろうか。



「別に間違ってねぇよ。ただ、行く先々であわあわしてたらなにも進まねぇ。やれることを、やってるだけだ」


「はぁ」



 行きあたりばったりには違いないのだろうが、それに見合った行動力、というのだろうか。それがソラにはある。そして、リーラにはないものだ。


 これまで、城の外へ出ても国民と対話することなんてなかったし、城にいる間も誰と話したなんて記憶はあまりない。王女という立場だからか、こちらから呼べば誰か来るが、向こうから来ることはあまりなかった。


 こんなことでもなければ、他人と接することなんて、なかったかもしれない。



「さあて、早速行くとするか。勇者サマの所ヘな」


「へ、今から?」


「当たり前だ」



 行動するなら早いほうがいい。ソラは不敵に笑い、ブルの手綱を手に取り歩き出す。王宮にいるという話なので、そこへ向かう。場所は聞かなくてもわかる。


 なにせ、遠くからでもわかる、バカでかい城があるのだから。



「どこの国も、わかりやすくて助かるねぇ」



 アウドー王国も、このトリュフ王国も。王族の住む城というのはわかりやすくていい。わざわざ道を聞かなくても、そこを目印に進めばいいのだから。


 人を避け、進む。そして、たどり着く……そこは、城の眼前だった。外からは、柵のようなもので中には入れないようになっており、敷地内が外からでも見えるようになっている。


 さて、中に入るには……と、小さな門を見つける。大きな門もあるが、それを開けるのは内からのみだろう。外からの来客は、あの小さい門を潜るべきだ。


 門番はいるが、適当にそれらしい事を並べて、中に入れてもらおう。ソラの中で纏まった。いざ、門へと足を向け……



「……ん?」



 視界の端に、人影を見た。その人物は、一心に素振りをしている。木刀を持ち、ぶん、ぶん、とこちらまで音が聞こえてきそうなほどに、姿勢よく、一つ一つの動作を丁寧に、鮮やかに。


 それは、剣には詳しくないソラにもわかるほど、美しい所作であった。たまらず、見惚れてしまうほどに。


 そして、見惚れているのはソラだけではない。リーラとブルさえもだ。二人と一匹は、しばしその姿を見つめる。


 木刀を振る度に揺れる赤い髪、飛び散る汗……キリッとした目に、どこか強気な態度を思わせる雰囲気。腹の見える服装を着ており、そこから見える腹筋は見事なものだ。バキバキというわけではない、だがそれなりに割れている。



「ありゃあ、今日昨日でどうなるもんじゃねぇな」



 割れた腹筋に、姿勢のいい剣。おそらく、この世界に来るより前から武術を嗜んでいたのだろう。ソラより一つか二つ年上だろうか、その女性は。


 聞いていた赤毛、美しい容姿、勇者の外見にぴったりだ。彼女が、この国に召喚された勇者なのだろうか。



「にしても、別嬪(ぺっぴん)だってのは吹かしてたわけじゃないようだな」



 美人だという評価聞き、しかし直接自分の目で見なければソラは信用しない。だが、実際に見てみて、その評価は正しかったことを悟る。


 なるほどあれならば、人気も出そうだ。女だからと下に見ることはない、あのキレのある動きを見れば、少なくとも自分よりよっぽど勇者らしいと、ソラは思っていた。


 そんなことを考えながら、彼女を見ていたからか……ふと、彼女の動きが止まる。そして、視線は外から見ていたソラたちへと注がれ……どうやら、気づかれたらしい。隠れていたわけでもないので、当然だが。

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