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異世界?勇者召喚?そんなのクソくらえ!  作者: 白い彗星
勇者として召喚されて……
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旅に向けて



 さて、前提として考えよう。他に召喚された勇者たち……それらは、自分以外にも召喚された勇者がいる、と知っている可能性は低い。


 もし知っているとするならば、それで召喚した国側の思惑は崩れてしまうからだ。勇者を召喚した国は、我が国の勇者が一番先に魔王を倒すことを望んでいる。なのに、他にも勇者がいると知らせてしまえば、どうなるか。


 当然、理由を聞かれるだろう。なぜ、自分以外にも勇者がいるのかと。あるいは、協力して倒してもらうためと丸め込めるかもしれないが、それならそれで国側の思惑とは外れてしまう。


 一番先に倒してもらいたいのに、他国の勇者と協力なんかされたら……そう考えればこそ、他の勇者の存在を明かすことは考えにくい。



「だが、それはあくまで俺の予想……そして、理想だ。ま、バカ正直に国同士の権力争いのためにあなたの力を利用します、なんて言われて協力する奴はまずいないだろうが」


「そうですね」



 バターを垂らしたパンを、ソラはかじる。うん、うまくはないがまずくもない……まあ、空腹にならないだけマシというものだろう。


 結局ソラとリーラはあの部屋で一晩を過ごしたが、当然のようになにもなかった。ぐっすり眠り、朝起きて、こうして朝飯をいただいている。その最中の、会話だ。


 他の国の勇者を探し、それに協力する形でほぼ任せて魔王を倒してもらう。放っておいてもそのうち誰かが魔王を倒すだろうが、それではいつになるかわからない。


 ソラは、一刻も早くも帰りたいのだ。



「まあ、隠し立てしたところで問題は出てくる。もし勇者が、他国の勇者と遭遇したら……同じ魔王を倒す者同士、どこかでその道が交わる可能性は高い」


「そうですね」


「そのための保険をかけてるのか、それとも他の勇者と出会わないよう単に祈ってるのか……もしかしたら、勇者の仲間がうまく出会わないように誘導してるのかもな」


「そうですね」


「勇者の仲間ってのは、国の息のかかった人間だろうしな。勇者システムの中身を知らないのは、勇者本人ばかりってな。ま、俺にゃそんなこと関係ない」


「そうですね」



 考えていることを、すべて口に出す必要はない。ソラは別に、リーラに相談しているわけではないのだから。これは単に、考え事をするには口に出した方が考えがまとまりやすいから。


 そして、誰かに説明する形で口に出した方が、より考えをまとめられるから。リーラはただ目の前にいるだけで、彼女個人に話しかけているわけではない。


 ないのだが……



「なんださっきから、その反応は」



 さすがに、素っ気ない反応を何度も繰り返されれば、ソラとて面白くはない。目の前の少女は、黙々とパンをかじっている。


 まあ、正直予想はつく。誘拐されこんな状態になっていれば、腑抜けた態度にもなろうというもの。



「ま、お前はせいぜい俺のサポートをしてくれ。俺にはこの世界の文字は読めんから、それを読んでもらうだけでも大助かりだ」


「……そうですね」


「ったく、辛気臭え。どうせ同じ一日を過ごすなら、爽やかにいこうぜ」



 どの口が言うんだ、とリーラは思った。思っただけで口に出さないのは、自分がなにを言っても聞く耳を持たないと悟ったためだ。


 昨夜、ソラは宣言通りリーラに手を出してはこなかった。それはリーラにとってはありがたいことであったし、その後も自分を女として見てくることはない。なので、そういった面では安全なのかもしれない。


 だが、誘拐されたという事実が、リーラをやはり不機嫌にしていた。あんなことがなければ、今も自室のふかふかのベッドで眠っていたはずなのだ。


 とはいえ、それを愚痴っても仕方がない。元の生活を奪われた、という点では、ソラも同じなのだから。しかも、違う世界に召喚されたたというのは、不安で仕方ないことだろう。



「んっ……ぷはぁ、うめえ! ねーちゃん、もう一杯おかわりだ!」



 ……不安で仕方ないことだろう。



「で、どうなんだ」


「は、ぇ?」



 突然話しかけられ、リーラは慌てる。まずい、今まったく話を聞いていなかった。なにか話しかけてきている気はしたのだ。


 それを見て、ソラはため息を漏らす。誰のせいで悩んでいると思っているのだ。



「だから、勇者を探すんだよ。どの国が勇者を召喚したんだと思う」


「いや、それは、わかりませんって……」


「だーかーらー、予想でいいんだよ予想で! そのために買った地図だろうが」



 バンバン、とソラは机を……いや、成果うには机の上に広げられた地図を叩く。


 今朝起きてから、食事を頼む前に地図を買っておいたのだ。世界地図だ。



「この際だ、どの国が勇者を召喚したのか、確実なことを言えとはいわん。あくまでお前の予想でいい、どの国が勇者を召喚したと思う?」



 改めてリーラは、地図を見る。そうだ、ソラは現在勇者がどの国に召喚されたかわからないことを嘆いていた……だが、わからないならわからないなりに予想すればいい。


 ただ予想するだけなら、ソラにも出来るが……この世界の地理はわからない。文字が読めなければ、今いるのがどこなのかすらもわからない。


 それに、勇者を召喚出来るのは大国だけ、ならば文字を読めなくても、ただ地図にある大きな国に目星をつければいい。だが、そうではない。ソラが召喚されたのは、別段大国というわけでもない。


 なんの条件があるのか、わからないが……それでも、仮にも王女であるリーラならば、その国に勇者を召喚する力があるのか、あてくらいはつくだろう。



「その……いいんですか? 私の予想で」


「よそ者の俺が選ぶよりは、余程確率が高い」


「……でも」


「お前がわざと変な場所を指すかもしれない? 確かに俺は困るが、それならそれでお前も帰れるタイミングが遅くなるだけだ」


「む」



 リーラが真面目にやらなければ、ソラは困る。だが、それではソラに人質中のリーラも解放されないということだから、リーラも困る。ソラが困れば、リーラも困る。その辺を、この男はよくわかっている。


 リーラが自分の処遇をいとわずにソラに仕返しの意味を込めて嘘を教える……そんなことが出来ないのは、ソラはわかっている。そして、リーラ自身もわかっている。



「はぁ……わかりました。まず、ソラ様が召喚されたのはアウドー王国、それがここになります」


「ふむ」



 リーラは諦めた様子で、地図と一緒に買った赤ペンで一つの大陸を囲う。こうして見てみれば、確かに他の国と比べて大きくもないし、小さくもない。


 それから、リーラはペンを顎に当てて、考える。他に勇者召喚をすることが出来ると言えば、どこだろう。


 アウドー王国が選ばれたのは、ひとえに召喚魔法の技術が他国を上回っていたからだ。ならば、その条件で探してみるべきだろう。


 リーラは成人間近とはいえ、まだ幼いのも事実。だから少しでも国のためにあろうと、日々本を読み漁っていた。だから、おおまかではあるがどの国がどの分野に長けているか、わかっているつもりだ。



「……こことここ……それに、ここ、ですかね」


「ふむ」



 しばらくを考え、リーラは三つの国に丸で囲っていく。意外なことに、考えている間ソラはなにも口出ししてこなかったのだ。


 囲った三つの国、それがひとまず、勇者を召喚したとリーラがあてをつけた場所であった。



「三つか、思いの他少ないな」


「あくまで予想ですからね。でも、最低三名は召喚されているはずです……過去、勇者が三名以下召喚された文献はなかったので」


「過去ね……」



 リーラの言葉、それは過去にも何度か勇者召喚が行われたことを決定づけていた。だが、それに驚きはない。でなければ、国の実権争いなんてシステムが出来上がるものか。


 さて、この三つの国。リーラが考えて予想したのだ、どのみち他にあてはないしこの場所を調べてみようとは思うが……



「一応、選んだ理由を聞いておこうか。今後の参考になるかもしれん」


「理由、ですか。こほん。まずこの、キャビア王国ですが、人口が世界の中でもトップに入るくらいに多いです。他国からの信頼も厚く、国の発展のために様々な人がいると聞きます。召喚魔法に精通している人がいても、不思議ではありません」


「きゃ……いや、なんでもない。大国も大国、って感じだな。勇者召喚は大国に限らないとは言っていたが、まあ単純に考えれば人が多いほど召喚魔法とやらを使える奴が多いってことだしな」



 要は、その国に召喚魔法を使える者、それに精通している者が多いかどうかだ。リーラの揺す~、それは決して多くはないのだろう。



「次に、このフォアグラ王国。他の国に比べると歴史の少ない国ですが、この国が出来てから他国との交流がスムーズに進むようになりました。食物、物資……隣国はこの国のおかげで発展したと言っても過言ではありません。どうやら、職人気質が多い国のようです」


「ふぉ…………んんっ。つまり、その道のエキスパートが多いってことか。それに、他国の経済を持ち直したともなれば、さっきの口と同じように信頼も厚いか」



 要は、少数精鋭と言えばいいだろうか。アウドー王国よりも国土は小さいが、その代わり優秀な印材がそろっている。



「最後に、トリュフ王国。ここは正直大きく特質すべき点はありませんが、過去の勇者召喚すべてにおいて勇者を召喚している国です。可能性としては、まず一番かと」


「ほうほう実績ありきの国、それは確かに可能性が……って名前!」


「きゃ!?」



 三つの国、それぞれの理由を聞く。しかし、理由も大事だがその国の名前が大きく引っかかった。



「世界三大珍味じゃねえか! 遊んで付けたのか!?」


「そ、ソラ様?」


「あ……いや、悪い」



 ガタン、と椅子から立ち上がったソラだが、ふと我に帰り座る。名前が知った者だったから、つい興奮してしまった。


 そうだ、名前なんかどうでもいい。勇者を召喚した国の予想がついたのなら、まずはそこへ向かうべきだ。



「よし、じゃあ早速旅立つとしよう」


「え、今からですか!?」


「飯食ったら準備だ。馬みてえなもん買えれば、移動が楽なんだが」



 皿に残っていたものをもぐもぐと食べながら、ソラは考える。徒歩では国同士の移動なんて何日かかるかわからないし、またモンスターに追われたら大変だ。


 そのためにも、乗り物は確保しておきたい。



「急すぎません?」


「どのみち、アウドー王国の隣町のこの場所で悠長にいている暇はないんだ。で、目的地はやっぱここだな。トリュフ王国」


「でも、距離を考えるならこっちに行くより、こっちに行ってキャビア王国に行った方が近いですよ?」


「まずは確実性を選ばないとな」



 目的地は決まった、後は馬と、移動に必要なものを少々買い込んでいけばいいだろう。


 朝食を終え、店の外に出る。元々荷物はない、ソラは元より誘拐されたリーラにもせいぜいがズボンの中に入っていた財布やスマホだが、当然お金もスマホも使えない。


 だが、昨日手に入れた二十万もの金がある。馬を買うにも準備品を買うにも、充分すぎるお金だろう。まずは、馬を買いに行こう。

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