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異世界?勇者召喚?そんなのクソくらえ!  作者: 白い彗星
勇者として召喚されて……
11/43

金が無い、ならば作ればいい



「さあて、町に着いたわけだが……」


「ですね」



 人里らしき場所を見つけ、そこへ向かって歩いた。近いようで遠い、遠いようで近い距離であったが、なんとかこうしてたどり着けた。


 最初いた国と比較すればあまり人の賑わいはない。とはいえ、ひとまず人の居る場所に来ることが出来たのは幸いだ。



「にしても、あの国からここまでどのくらいの距離があるのか知らねえが……随分と、走ってきたみたいだな」



 例のモンスター、シシイノから逃げ回るのに夢中であまり実感はないが……少なくとも、気軽に足だけで行き来できるような距離ではないだろう。



「で、ここはどういう町なんだ?」


「なんでものに尋ねるのにそんなに偉そうなんですか。……多分ですけど、ここは隣町の……確か、アーメンという名前の町です。あそこのシンボル、見覚えがあります」


「アーメンって、なにに祈ってんだこの町は」


「?」


「いや、なんでもねえ」



 外に出たことがない王女でも、一応隣町の名前くらいはわかるらしい。リーラが指すのは、町の中でもひときわ大きな建物……そこに描かれているマークだ。あれで、町の名前がすぐにわかる……いわゆる、国旗のようなものだろう。


 この町の名前に聞き覚えがあるが、それは異世界語録であるためにリーラには通じないようだ。



「にしても、隣町か……ってことは、あの国からそんなに距離も離れてねえのかもな。となると……指名手配されている可能性もある」



 隣町という範囲であれば、隣国から勇者が王女を誘拐した、という報せが来ていてもおかしくはない。


 当初ソラは、王族のプライドから勇者が王女を誘拐したなんて国民にはしばらく伏せておくはずだと考えたが……それも、予想の一つでしかない。なりふり構わずに、報せを出す可能性だってなくはない。


 ならば、長くこの町に滞在するのはあまりよろしくない。それに、考えてみればわざわざ国民に報せなくても、秘密裏に捜索隊を出す可能性だって考えられるのだ。むしろそっちの可能性の方が高い。



「やっぱ早々にこっから離れるべきか……ただ、なんの準備もなしに宛てもなく歩くのはな……」


「あ、あの……?」



 ぶつぶつなにかを呟いているソラに、リーラは恐る恐る話しかけるが……返事は、ない。ソラの意識の中からリーラの存在は外れている。


 ……いや、正確には違う。今ソラは、リーラのことを考えていた。そう、今後こっそり移動するにしろいっそ堂々と移動するにしろ、彼女はとても問題だ。


 ……彼女の、服装が。



「よしお前、服を脱げ」


「はい。……はい?」



 ようやく話しかけられたかと思えば、いきなりなにを言うのだろうかこの男は。身の危険を感じ、リーラは自分を抱きしめ警戒する。



「へ、変態……」


「ちげーよバカ。その(ドレス)じゃ目立つから脱げっつったんだバカ。察しろクソバカ」


「……!」



 服を脱げ……その意味を履き違えていたらしいリーラは、顔を真っ赤にする。考えてみれば、確かにドレスでは嫌でも目立ってしまう。


 だからといって、こんな町中でいきなり脱げはないんじゃないだろうか。デリカシーのない男だ。



「まあ、着替えの服がねぇか。さすがにマッパってのも別の意味で目立つしな」


「え、裸で歩けって言わないの優しさとかじゃなくて、目立つからって意味?」



 ドレスの着替え、それをどこで手に入れる。ソラは当然この世界のお金は持っていない。リーラも、王族なので金は持っていただろうが、誘拐してきたため所持金があるとは考えにくい。


 服を買うにも金。そしてついでにお腹も空いた。腹を満たすにも金。それも、二人分だ。


 この世界で、手っ取り早く稼ぐ方法は……



「ふむ……たとえば体で、とかな」


「え……」



 またも思考タイムに入っていたソラの手が、リーラに伸びる。リーラはいきなりのことに反応が遅れ、気づいたときにはすでに胸元に迫っていた。


 その手は、リーラの豊かな胸元……についている、ブローチを取った。それは、青色に輝く美しい石が埋め込んであるものだった。



「なんだその警戒の仕方は。言ったろ、俺はガキには興味ねぇんだ。もっとも、コアなファンにはそれなりに……」


「な、なんの話ですか! それより、返してください!」


「へへ、すげーでかい宝石、売ったらいい金になるだろぉ?」


「だ、ダメです! これは母の形見で……」


「形見ぃ?」



 金がなければ作ればいい。高価のあるものを売れば、それが程々の金になるだろう。そう考えていたソラに、待ったをかけるのはリーラだ。


 彼女曰く、それは母の形見だと。そういえば、思い返せば王の間に母親はいなかった。


 形見……ということは、母親、つまりあの国の女王はすでに。そして、亡くなった彼女の品を、娘であるリーラが引き継いだのだ。泣ける話ではないか。そんな大切なもの、ソラには奪うことなど……



「そうか……なら仕方ない」


「わかってくれましたか」


「だが! 本当にそれでいいのか!?」



 ソラは、吠える。ガシッとリーラの肩を掴み、鬼気迫る表情で迫る。その目は、ある意味真剣なものだ。



「このままでは服も買えないどころか、飯も食えない。もしもお前がこのまま死んだら、母親はどう思う!? 自分の形見を売れば助かるのに、それをしなかったせいで娘が死んでしまったら!?」


「ぅ……いや、でも……」


「逆に考えてみろ! もしもお前に娘がいて、お前はもう死んでいて! 自分の残した形見を売れば、娘はその金で生きられるのに! そうしなかったために死んでいく娘を見て、母親であるお前はなんと思う!?」


「そ、れは……」


「だから、な? お前が死ぬことは母親も望んでいない。母親の形見を売りさばき、その金で生き残れるなら、母親も喜んでいるはずさ」



 『ニコォ』と柔らかな笑みを浮かべるソラ。まくし立てられ、リーラはなにも返す言葉がない。いかにも、正論を並べましたという、ソラの無垢な笑み。


 ……だが実際は、無垢どころか『ニゴォ』という汚い笑顔だった。



「……お金がないのは、困り、ますし……そう、ですね。母も、わかってくれるはずです」


「うん、そうかそうか、いい子だ」



 リーラは納得したのか、ともかく許諾を得て、ソラは笑みを浮かべたままリーラの頭を撫でる。


 ブローチを手に……まるで詐欺師まがいの口八丁で、資金源を手に入れたのであった。

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