第二十一話 ジニアス 中編
「どうしたの?こんな時間に呼び出して。」
「アニメ見るんじゃなかったの、ってあれ?泣いてる?」
「泣いてない!」
「あっそ、で、なんで泣いてるの?」
「母さんと喧嘩した。」
「懲りないねー、また将来のこと?」
「そう、俺どうしたらいいのか分かんないよ。」
「で、私に泣きついてきたってわけ?」
「そうだよ、なんかおまえといたら安心するんだ。」
「なんだよ、笑いやがって、悪いか?」
「いや、そこは結衣ちゃんじゃないんだーと思って。」
「私を選んでくれたってこと?」
「そうかもな。」
「たまにはこんな時間の公園も悪くないね。」
「そうだな。」
「明人は夜好き?」
「うーん、どっちかというと嫌いだな。暗いとなにもできないから困るんだ。」
「そうなんだ。私は好きだよ、夜。」
「夜は昼と違って星が見えるから、暗闇の夜の中で唯一光っている。」
「なんか正しい方へ導いてくれる感じしない?」
「どうだろうな。そんなことより俺のこれからのことを
「それに、夜にしか見えない星がなんだか隠れてるみたいだから。」
「そう簡単には見つかってやらないぞって隠れてる。」
「明人はそういうの探そうとしないよね。自分から知ろうとしない、理解しようとしない。」
「ねえ、それって怖がってるんでしょ。どうしたらいいのか分からないからなにもしない。そして考えることを辞める。」
「それじゃ駄目だよ。暗闇でも思い切って飛び込まなきゃ。」
「....確かにそうだな。俺に足りないのはそこなのかも。」
「分かってくれた?」
「ああ、少しだけだけど分かった気がする」
「じゃあさ、今ならずっと隠してた私の気持ち見つけられる?」
「え?」
「私ずっと明人のことが好
すぐさま飛び起きる。
掛かっていた布団を蹴飛ばし、頭を掻きむしる。
もう何回この場面を夢に見ただろう。
僕が別の名前で告白されているシーンを。そしてこの後の惨状を。
僕はこの後この女の説得で家に戻って、そこで、、、そこで、、、
思い出したくもないのについ思い出してしまう。
頭の中であの光景が再生されてしまう。
夢に出てくるときほど鮮明ではないにしろそれだけでも僕を壊すのには充分すぎるほどだった。
思わず悲鳴を上げてしまう。恐らく城の中の者はまたいつものかと思っているだろう。
悲鳴を聞いて従者が飛び込んでくる。これもいつものことだ。
女「大丈夫ですか?ご主人様。」
僕「大丈夫もなにも毎朝のことだ、もう君だって慣れただろう。」
「そんな訳ありません。私にとってご主人様の辛そうな声を聞くことは、ご主人様が毎夜見る夢と同じです。慣れる訳がないじゃないですか。」
「まあ、ただの夢じゃないんだが。」
「そういえば言ってましたね。これはただの夢ではない、記憶なのだと。」
僕の汗びっしょりの身体を拭きながら彼女、ニルは答えた。
そうこの夢は鮮明すぎる。これは誰かの記憶なのだ。
いや濁すのはよそう、僕の記憶のはず、、だ。
全く身に覚えがないが。
現実世界で1ヶ月かけて夢というチャンネルの中で放送されるたった1日の出来事。
その内容は僕がある場所に行き魔法でも剣技でもない物を習うところから始まる。
この内容をほぼ30日見続けさせられる単調な物だが、この記憶は最後の3日で急展開を迎える。
仲の良い女と途中まで一緒に家に帰り、
親と喧嘩して、告白される。
そして、最後の1日で、
思い出しそうになって思わずえづく、
慌てたニルに水を口に運ばれる。
つい考えてしまった。
そうだ、ということは明日があの地獄の日なのだ。
僕「すまないニル、伝えるのを忘れていた。明日の会議は出れないと後でマガイヒに伝えてくれないか?」
ニル「承知致しました。伝えておきます。」
「それともういいよ、今日は自分で着替えられる。でも明日は頼めるかな。」
「勿論です、なんなりとご命令ください。」
「どんな命令でも必ず遂行致します。」
「今すぐ死ねと言われてもかい。」
「はい、ご主人様のためなら喜んで死にます。」
「もう大丈夫だ、行ってくれ。」
ニルがいなくなり1人になった部屋を見渡す。
無駄にだだっ広い部屋、この国の王様がここで過ごして居たらしい。
もう殺してしまって今は僕の部屋だが。
ふと窓の外を見ようとして見れないことに気づく。そうだ板が打ち込んであるんだった。
いつになっても慣れないなぁ。
人を殺すのにはもう慣れてしまったが。
はぁ、明日か。
嫌だなぁ、この記憶に慣れるのはいつになるのだろう。
なんだか凄く腹が立ってきたぞ。なんで俺だけがこんな呪いを持って生きていかなきゃならないんだ。
他の人間にもこの地獄を味合わせないと不公平だ。
そうだストレス解消としていっそニルに本当に死ねと言ってみようか。
そうと決まればさっそく行こうか。
あ、明日世話してもらわないといけないんだった。
今日は無理か。明後日なら大丈夫だな。
憂鬱な気分が少し楽になったな、人間楽しいことを考えると楽になるというがここまで効くとは。
さてどうやって死なせようか。今日はこれを考えて過ごすことにしよう。
と思っていると部屋のドアがノックされる。
僕「誰だ?」
マガイヒ「マガイヒです、アナザー様。」
「何の用だ?」
早速邪魔されてしまった。
「僕の機嫌が良くなければもうすでにお前の命は天に登っていたぞ、マガイヒ。」
「いや地獄に堕ちていた、か。」
「アナザー様、聞いてください。今日の朝上級悪魔が全滅しているのが発見されました。」
「なんでも昨日の夜大量の花火が上がっていたとか。」
「なにか心あたりがありますでしょうか。」
「ある訳ないだろう。」
「窓の外が見れないんだ、なにが起こっていたかなんて知れる筈もない。」
「とにかく、一大事です。我が国は一夜にしてほとんどの戦力を失ってしまいました。」
「これではハイレンドラ王国と戦争できません。」
「低級悪魔が残っているだろう。」
「ですが低級悪魔では戦力になんてなりません。」
「適当に熊とかとでも融合させとけばそれなりに使えるだろう。」
「お言葉ですが、アナザー様これは相当な事態で
「ちょっと黙ってくれないか、もう解決しただろう。」
「僕には他に集中したいことがあるんだ。」
「それとも、この僕が負けるとでも思うのか?」
マガイヒは諦めたように去っていった。
どうにか夢を見ないで済む方法はないだろうか。
この呪いさえ無ければもうとっくにこの世界は僕のものになっていた筈なのに。
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伸びをして布団から降りる、気持ちの良い朝だ。
窓から差す日差しの明るさはここが悪魔の国だということを忘れさせてくれる。
約1ヶ月ぶりに身体の疲れが取れた気がする。
そう今日はあの夢を見なかったのだ。
まさかこんな方法があったとは。
目を覚ました俺の目に最初に飛び込んできたのは鏡の前でその長い髪を1つに束ねているメリーの姿だった。
彼女が鏡越しに俺を見る。
メリー「あら、起きたの?」
俺「おはよう」
条件反射で俺の目線は彼女のきれいなうなじに向かう。
自分の心臓の動く音が聞こえる。
なんと俺は恋に落ちてしまったようだ。
ずっと一緒に居ることはできないだろうか。
そうなればあの夢を二度と見ることはないだろうに。
「どうしたの?じっと見て。」
「なんでもないよ。」
そういえばメリーはこの国の王族だったんだから必然的に悪魔ってことになるのだろうがツノや尻尾もないし全然悪魔って感じがしない。
むしろ天使だ。
「なんでメリーは悪魔なのに光属性の魔法が使えるんだ?」
「悪魔も人間と一緒よ、良い悪魔もいれば悪い悪魔もいる。」
私は悪魔から見たら悪い悪魔だけどね、それでも神から見たら私は良い子なのよ。」
「性善説だっけ、人間の本性は善であるとされているけど、悪魔はその逆で性悪説ってだけ。」
「私が人間っぽくてツノも尻尾もないのは亜邪派人っていう種族だから、でもいくら人間と近くても寿命は3倍くらい違うんだけど。」
「今何歳なんだ?」
「辞めてよ、言うわけないじゃない。」
メリー「無駄話はここまで、今日の作戦を説明するわよ。」
「まずは正面突破、正門から堂々と行きます。」
「ちょっと待ってくれ、そんなことしなくても俺の魔法で透明化とかできるぞ。」
「凄い、ジニアスってなんでもできるんじゃない?」
「当たり前だ、天才だぞ!。」
誇らしげにそう言う、好きな人に褒められるのはここまで心が躍るものなのか。
「でも駄目、王女たる私がそんな卑怯な手は使えません。」
ひ、卑怯...。ここまで心が沈むとは、さっきとの温度差で火傷してしまいそうだ。
「とりあえず続き話すね、それからの最優先事項はマガイヒを探し出し倒すこと。」
「私が光魔法専門ならマガイヒは闇魔法専門。彼は強いよ。」
「まあ、今の俺なら楽勝だな。」
「また調子に乗ってる。とくに最上級闇魔法(導く死)には気をつけて、当たったらどんな防御魔法も貫通して、相手を絶対死に至らしめる。」
「でもそれさえ気をつければ勝てるよ。私達2人ならね。」
「次はマガイヒを倒して国を解放したあとの話だけど、ジニアスには関係ないか。自分探しの旅の途中だったもんね...」
なんだよ、そんな寂しそうにして。
可愛いすぎる、こんな術まで持っているのか。
「何処にも行かないよ、俺はずーっとここにいる。」
「でも旅はどうするの?」
「それがな、もう見つかったんだ、メリーのおかげで。」
ずっと自分は誰なのかって悩んでいたけど、もうその必要はない。
俺は俺だ。この世界にただ一つしかない命なんだ。
今メリーと過ごしている俺が本物の俺なんだ。
こんな楽しい時間が偽物なわけがない。
夢の途中で俺はただのコピーなんじゃないかって考えたこともあったっけ。
今考えると馬鹿らしい、そんなわけないじゃないか。
「だからさ、この戦いが終わっても俺はメリーと一緒に居たい、これから死ぬまでずっとだ。」
「それって告白?駄目よ、人間と悪魔だもん。」
「人間も悪魔も一緒なんじゃなかったか?」
「年齢だって離れてるし。それに神が許すわけない。」
「そこまでいうなら人間になるか?俺の種族転換魔法で。」
「嘘でしょ、そんなことまで出来るの!?」
「俺に出来ないことはないからな、それじゃあ今すぐやろうか。」
「待って!どうせなら全部終わってからにしない?」
「それから結ばれましょう?」
「だから今はこれで我慢して?」
ほっぺに口づけされる。
急なことで頭が軽くフリーズしてしまう。
何が天使だ、とんだ小悪魔じゃないか。




