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心樹医・空 ソラ (しんじゅい・きのした そら) 2   作者: 志賀 健児 (しが たつる)
1/1

心樹医ソラ、出動⁉

 まだ物語の核心には入っていませんが、ソラの生活の中にシンジュやパールがどう溶け込んでいるか、ソラがどんな女の子かを描いています。

 次へ続く準備段階です。ぜひ、読んでみてください。

「できた~!」

 ふっふっふ。笑いがこみ上げる。

「ソラ、その笑い方、かわいくないからやめたら?」

 そう言って、パールがぴょんと机の上に飛び乗ってきた。

 パールは私の相棒。言葉をしゃべる白ネコなの。

 彼女が私に辛口(からくち)なのはいつものことなので、かわいくないと言われても気にしない。――というか、実際、ちょっと不気味な笑い方だなって自分でも思うから、まあ、いいの。

「それで? 今度のシンジュは何にしたの?」

 机の上に散らばったペンチやビーズ類を器用によけながら、パールが言った。

 パールの言う「シンジュ」は、海の|真珠(しんじゅ)とは()()なるもの。

 樹木医(じゅもくい)の仕事で全国を飛び回るおばあちゃんの代わりに世話をするため、私がおばあちゃんから預かったシンジュの木。シンジュの木にはシンジュの実が成るんだけど、シンジュの実は小さめのビー玉くらいの大きさになると枝から落下する。落下したシンジュの実は、二十四時間以内に息を吹きかけないと消えてしまうけど、二十四時間以内に息を吹きかけると、虹色の光が消えて真珠そっくりに変化する。

 きのうの放課後、ちょうど私が学校から帰ってきたときに新しいシンジュの実が落ちて。私が息を吹きかけてシンジュにしたの。

 今日は土曜日。新型コロナウィルスの影響で学校が休校になって、授業の遅れを取り戻すために土曜日も授業しましょうってなった時期もあったけど。私の学校は、今は土曜日はお休み。

 中学受験や高校受験、大学受験を(ひか)えたお兄さん、お姉さんたちと違って、私は小学五年生で、中学受験する気もないからちょっとお気楽なのかもしれないけど。学校の勉強はもちろん大事だけど、お休みも大事だなって思う。私たち子供のことがどうこうっていうより、やっぱり――先生たちには休んでもらいたいよね。おじいちゃんもそうだけど、学校の先生たちって、感染対策のためにやらなきゃいけないことが増えたり、しっかり感染対策してただろうに他所(よそ)の学校でクラスターが起きてるのテレビで見たりすると、自分のとこは大丈夫だろうか⁈ ってしんどくなったりしてそうだもん。

 ま、そういうわけで。

 私はきのうのうちに宿題をすませておいたから、今日は朝から机で作業――。

 「足の()み場もないわ」と言いながら、机の上の()いたところに上手に足をついているパールの鼻先(はなさき)に、私はいま作ったばかりのブレスレットをつきつけた。

「どぉ? かわいいでしょ? 上出来じゃない?」

 鼻ギリギリにシンジュをつきつけられたパールは後ずさりしながらブレスレットをちらりと見て、「ふーん? 悪くないんじゃない?」と言った。これは、パールにしてはなかなかの高評価。私はまたうれしくなる。

 生まれたばかりの――おばあちゃんはシンジュの実がシンジュになることを「生まれる」って言い方するの。だから私も同じ言い方してるんだけど――生まれたばかりのシンジュと、花をかたどった白いレースのモチーフ、さくら色のビーズとアプリコットオレンジのビーズ、薄緑(うすみどり)色の極小のビーズをテグスで()んだビーズボール、それからリボン型のチャーム。それぞれ銀色の金具で銀色のチェーンに(つな)げて、そのチェーンを自分の手首の長さに合わせて輪っかにしてみたんだけど、なかなかかわいくできた! と思うの。

 かわいいものってテンション上がる!

 キラキラしたのも、レースも、リボンも……かわいいよね! 見てるだけで楽しくなる。どのビーズとどのパーツを組み合わせるか考えてるとわくわくする。いざ作ってみると、思ってたよりかわいくない、なんてこともあるんだけど。そこはまあ、修行中ってことで!

 チェコビーズ、シードビーズ、メタルビーズ、コットンパール、座金(ざがね)、丸カン、Cカン、Tピン、9ピン、つぶし玉にボールチップ……ビーズアクセサリーを作るときに使うパーツ類は、手芸屋(しゅげいや)さんや百円ショップで売られていて、私は少しずつ買い集めている。――私のおこづかいはパーツを買うのに消えていくの……。かわいいの、売ってるんだよね。それでついつい……。

 シンジュが新しく生まれると、集めておいたパーツを使って、私はアクセサリーを作ることにしているの。シンジュは小さな袋かなんかにでも入れて持ち歩けばいいんだから、わざわざアクセサリーにする必要はないんだけど。私はこういうの作るの、大好き!

 アクセサリー作りは、実はおじいちゃんに教わったんだ。

 え? おじいちゃんがアクセサリー? って思われそうだけど、アクセサリー作りはおじいちゃんがおばあちゃんのために始めたこと。二人がまだ若かったころ、おばあちゃんがシンジュを失くしたって大騒(さわ)ぎしたことがあったらしくて。二人で探し回って、結局、おばあちゃんのおサイフの中から出て来たらしいんだけど――失くさないようにおサイフにしまっていたのをおばあちゃんが忘れてたんだって――それでおじいちゃんが、おばあちゃんがシンジュを見失うことがないように、アクセサリーにして身につけておけばいいんじゃないか、って。

 でもね? おばあちゃんは樹木医の仕事をしているのに、植物の世話をするためならとっても器用に指先を動かすことができるのに、それ以外では割とその……不器用?

 そこでおじいちゃんが自分がやるって決めたんだって。さすがおじいちゃん! 

 ただ、やると言っても、おじいちゃんはお医者さんをしてて、アクセサリーを作る職人になったわけじゃないんだけどね。おじいちゃんの患者(かんじゃ)さんで金属(きんぞく)(かざ)りを作ることができる職人(しょくにん)さんがいて、おじいちゃんはその人に金属の加工の仕方を習ったんだって。

 だからおじいちゃんのアクセサリー作りは本格派。私がお店で買ってくるパーツみたいなのを作るところからやるの。ブローチとか、指輪とか、イヤリングとか……。ブレスレットも私がビーズで作るのよりずっとゴージャス。

 私はおじいちゃんがやってるみたいに、シンジュを使ってアクセサリーを作って、おばあちゃんみたいにシンジュをアクセサリーとして身につけるのにあこがれてたから。私がシンジュの木の世話をするようになって、新しくシンジュの実がなって、私が息を吹きかけてシンジュに変えて……ってなったとき、おじいちゃんにアクセサリ―作りを教えてほしいってお願いしたの。

 おじいちゃんは、本格的なやり方は私には難しいだろうから、ビーズを使ってみたら? って。

 ビーズは穴が開いているから、そこに針金(はりがね)みたいなピンを通して先のとこを丸めて他のパーツと(つな)ぐんだけど。シンジュはビーズみたいに穴が開いてないから、特別な接着剤(せっちゃくざい)を使って金具にくっつければいいってこともおじいちゃんから教わったの。

 接着剤に使うのは、シンジュの木の樹液(じゅえき)。シンジュの木は一年に一度、虹色の樹液を出すんだけど、その樹液を小さなビンにとっておくの。小ビンに入れてしばらくすると、樹液は徐々(じょじょ)に色が変わっていく。そして真珠のような光沢(こうたく)のある白いとろみのある液体になる。これが接着剤。樹液は少ししかとれないから、とーっても貴重(きちょう)。私は大事に使ってる。

 私が最初に作ったのはネックレスだった。

 おじいちゃんに教わりながらやってみたら、楽しくって。シンジュがないときでもビーズを使って、ビーズの本を図書館で借りてきてあれこれ作っているうちに、今は一人でもいろいろ作れるようになったんだ。

 私は今さっきできあがったシンジュのブレスレットを自分の左手首に()める。

 腕を高く持ち上げたり、手首をひっくり返したりして、ブレスレットを確かめると、ふっふっふっと、またあのかわいくないと言われた笑いを浮かべてしまう。

 かわいくできたなー、と自己満足に(ひた)っているけど、このブレスレットは――シンジュは――ただのアクセサリーじゃない。

 これは私の商売道具。――ん? 商売じゃないか。ええと、だったら、七つ道具? って、七つも道具を持ってないや。えっと、とにかく! 私が仕事に使っている道具なの。

 と、

「ソラ」

 パールが私の名を呼んだ。

 机の上にいたはずのパールは、いつの間にか出窓の、シンジュの木の(となり)にいた。

 窓は大きく開けてしまうと強い風が吹きこんだときにシンジュの木を(たお)してしまうかもしれないので、少しだけ開けてある。同じ理由でレースのカーテンも開けて、カーテンタッセルっていう花飾りのついたひもで左右の壁に留めてあるから、視界はすっきり、外の様子がよく見える。

 パールは四つ足ですっと立って、窓の開いたところから向こう側を真剣な目で見つめている。ピンと立ったしっぽ。パールの身体(からだ)中に緊張(きんちょう)が走っているように感じた。

 パールのヒゲが(かす)かに動く。

 ネコのヒゲは(かざ)りじゃなくてセンサーだってことは、ネコ好きならきっと知ってるはずの常識(じょうしき)だと思うけど。パールは言葉をしゃべるだけじゃなく、ヒゲも特別。特殊(とくしゅ)波動(はどう)もキャッチする高性能なヒゲ! なんだそうで――。

「パール、もしかして、何か感じる……?」

 この様子、きっとそう。

 私はそう確信しながら、パールに確かめる。

「まだ弱い気もするけど……たぶん」

 パールは私の方へは顔を向けず、街の方に視線を固定(こてい)したまま答えた。

 どうやら、パールの空耳(そらみみ)ならぬ(そら)ヒゲではなさそう。

 と、いうことは――。

「私の出番ね!」

 私は左の手首に()いたブレスレットを包みこむように右手を()える。

 手のひらに、(ほの)かな熱を感じる。熱を発しているのはシンジュだと、私は知っている。

 ぎゅっと押さえるように力をこめ、シンジュの熱を感じながら私は言った。

「それじゃあ、心樹医・(きのした) ソラ――出動よ!」              つづく



 読んでいただいてありがとうございます。

 前回のお話で、ソラが帰宅したときに、手洗いをするシーンを入れていませんでした。私が書きそびれていただけで、ソラはしっかり手洗いをしていますので、その点はご了承ください。

 次回はソラの心樹医としての仕事が始まります。ぜひ、読んでみてください!


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