コンタクト(漫才)
薄暗い小劇場の舞台、その中央をスポットライトが照らすと、客席からパチパチと疎らな拍手が起こった。
「はい、どうもー」
「どうもー、よろしくお願いしますー」
そう言いながらラフな格好をした若い男二人が、自分達でも拍手をしつつ舞台両袖から足早にセンターマイクの方へ出て来た。
左側に立っている背の低い男は、どこか抜けているような雰囲気で、右側の男は目立った特徴のない、ごく普通の容姿をしていた。
「ありがとうございますー、ちっちゃい方のボクがサトナカで」
「はい、僕が八田です。よろしくお願いします」
「しかし、今日はお客さん多くてええなぁ」
「何、唐突に」
サトナカの突然の呟きに八田が問う。
「いや、人がたくさんいると、ちょっとだけでも暖かい感じするやん」
「人を暖房みたいに言うな!もうね、ホントすんません。後でちゃんと言い聞かせますんで」
「え、何で怒るん?」
「アホか、さっき人様をホッカイロみたいに言うたやろ」
「体温なかったら皆死んでるやん。生きとる間は人間なんて皆熱源や」
「むちゃくちゃやな」
と、ここで急に思い出したのか、サトナカが話を変えた。
「それはそうと、ボクな、最近バイト変えたんですよ」
「何々、何や唐突に」
怪訝そうに八田がサトナカを見遣る。
「いや、ちょっと話聞いて貰おう思て」
「まぁ、ええわ。ほんで、今度は何のバイトしとるん?」
「スーパーの鮮魚コーナーで魚捌いとるんやけど、なんや最近、ちょっと変やねん」
「変て、何が変なん?」
八田はサトナカに向き合い、視線でその続きを話すよう促した。
「何やよう分からんけど、視界がぼやけて、周りがよう見えへんようになった」
「お前、目ぇ悪かったよな?コンタクトし忘れてるんちゃう?」
「それが、コンタクトしてんのに見えんのや。それに、時々ごっつ痛なるし、目ぇに何か入ってんのかと思って鏡見ても見えへんからよう分からんし」
「何やややこしいなぁ…試しに見してみ?」
そう言ってサトナカへ顔を近付ける八田。
「ほんじゃ頼むわ、今もぼんやりとしか見えへんねん…どや?」
八田はサトナカの目を数秒覗きこんだ後、それなりの威力で後頭部を叩いた。
「お前はアホか!」
「え、何?あれ、何や目ぇ痛いの治ったわ。でも、何で俺しばかれたん?」
「お前それコンタクトちゃう、魚の鱗や!どうやって間違えるねん」
「あぁ、こないだ魚の鱗取り中にうっかりコンタクト落としてもうて、多分そん時に間違うたんやな、きっと」
「コンタクトにはカーブがあるやろ!むしろそんな物よう目に入ったな!」
「いや似とるって。そっくりやんか」
「どこがや!」
「大きさが。しかし助かったわ。ありがとうな」
「礼を言われるほどの事はしてへんけどな」
「そうか、ならボクの代わりに鱗取りせえへん?ボク、鱗でよう見えんから」
「誰が代わるか!やめさしてもらうわ」
バシ、と八田がサトナカの腕を叩く。
「どうも、ありがとうございましたー」
「ありがとうございますー」
八田が丁寧に頭を下げると、続いてサトナカも威勢よく頭を下げる。
スポットライトが消え、客席から聞こえてくる拍手の大きさに、二人は理想と現実の落差を思い知った。




