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ハッピーエンド/プレミア視点

 「おかえり。いや、おはようかな。ずっと待ってたよ」


 リール様が優しく微笑んだ。


 私の最後の記憶は、泣いているリール様の姿だった。


 「調子はどう? 気分が悪かったりしない?」


 「元気にきまってるじゃないですか……」


 この湧き上がるような幸せの感情はなんだろう。リール様に会えたから? メテオが目の前に迫っていて、絶望的な状況にしか見えないのに。

 

 そういえば―――なんで街の人達がたくさんいるのだろう……。

 

 そうだ、今日はお祭りなのだ。アクトスは―――。アクトスなんて、ここにいるはずがないじゃない。そもそもアクトスって誰……。

 

 「メテオは、魔王を倒しても止めることが出来なかったんだ」


 「え……魔王を倒した……?」


 そうだ……マスターは……リール様は……魔王を倒したのだ。記憶が混濁している。


 私の16年の記憶が流れ込んでくる。


 幸せだけの記憶。ママと、知らなかったパパの記憶。


 そして、リール様との穏やかな日々。


 リール様はずっと近くで私を守ってくれていた。


 私が持っている優しさに溢れた幸せな記憶と、憎しみと罪を重ねながら繰り返した凄惨な記憶。二つの記憶が少しずつ溶け合っていく。


 まるで―――とても苦いコーヒーに甘いミルクと砂糖が入ったみたい。甘くて飲みやすいけど、ちょっと苦い大人な味。でも幸せな味。


 「リール様が倒したの……? アクトスと魔王を?」


 「そうだよ。二人とも俺がぶっ飛ばしてやった。ただ、メテオは魔王がすでに発動の準備を終えていたんだ。賢者の石でも止められなかった。アクトスが賢者の石を使わなくても、絶対に今日落ちてくる運命だったんだ。笑っちゃうだろ?」


 話だけ聞くと絶対ピンチな状況なのに、リール様は凄く楽しそうに話している。


 「だからさ。俺はこの日のために準備をし続けてきたんだ」


 そう言うと、リール様はゆっくりと詠唱を始めた。


 「光陰は流麗のように。星霜に慈悲を。展開せよ、反射リフレクト


 メテオを包み込むように、七色の巨大な魔方陣が描き出された。


 こんなに大きくて綺麗な魔方陣は初めて見た。溢れ出る魔力が、私が知っているリール様と比較にならない。これがリール様が言っていた準備なのだろう。一体どれだけの修業をしたら、これ程の魔力を手に入れられるのだろうか。


 魔方陣はメテオを優しく受け止めると、小鳥を空に帰すようにゆっくりと、星の広がる夜空へ戻していく。


 お客さん達が大きく沸いた。音楽が流れ始め、パパが乾杯の音頭をとった。みんな楽しそうに笑っている。


 時々、メテオの一部が欠けて小さな流れ星となって降り注ぐのが、とても綺麗だった。子供たちは流れ星に必死に願いごとをしている。なんて微笑ましい光景なんだろう。


 メテオはどんどん遠くになり、月と同じ大きさになったところで動きを止めた。


 「二つ目の月も綺麗だな」


 リール様はとてもほっとしているように見えた。


 「全部終わったんですね……」


 「ああ、ついに明日が来るんだ」


 「みんなが笑って過ごせる世界なんだね……」


 「そうだ。明日うちの店に遊びに来いよ。テストの勉強教えてやるから」


 「いらないですよ……ぐすっ……きっと満点取れますから」


  自然と涙がでてきてしまう。戦いはようやく終わったのだ。もう、時間を戻す必要はないのだ。


 「だよな。実際はおばあちゃん以上の時間を生きたんだもんな。お年寄りは労わらないと」


 「ぐすっ……若い女性に言う言葉じゃない……ひどい言い方……だから結婚できないのよ……」


 「うるさいよ」


 「ふふ……ぐすっ……私の……私の……お婿さんにしてあげるわよ」

 

 わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ私はいったい何を言ってえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ。


 どうしよう!! どうしよう!!どうしよう!!どうしよう!!どうしよう!!どうしよう!!どうしよう!!どうしよう!!


 雰囲気に!!!この雰囲気に!!!! 恥ずかしくてリール様の顔を直視できない!!!


 時間を戻したい!! もう一回だけ!!!


 リール様に―――マスターに―――抱き寄せられたのが分かった。


 「バカヤロウ、お前は俺の嫁になるんだよ。22年間ずっと待ってたんだ。戻らない時間を、死ぬまで一緒に生きていこう」


 返事はもちろん「はい」しかない。


 もし『時間跳躍タイムリープ』を使えるようになっても、私はきっと、これより前の時間には戻ることができない。


 絶対に忘れたくない記憶、絶対になくしてはいけない事実、絶対に忘れたくない感情が生まれてしまったから。


 これからもきっと、そういう出来事が増えていくんだろうな。


***********


 二つの月は静かに動く。


 星たちは線を繋ぎ祝福の歌を歌う。


 明日が来る。また明日が来る。


 ずっとずっと、そうやって回っていく―――。

最後までお付き合いいただき本当にありがとうございます。

打ち切りではなく、当初の予定通りの内容で完結となりました。無事完結できてかなり嬉しいです。


もし作品を気に入っていただけましたら、評価・感想・レビューぜひよろしくお願いいたします。次回作の参考にさせていただきます。


改めまして、この作品を最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。


次回作もどうぞよろしくお願いいたします。

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