始まりの戦い、終わりの戦い②/リール視点
アクトスの慟哭は続き、動きの鋭さが増していく。
「お前が入ってこなければっ!! 俺は勇者としてっ!! 魔王に挑むことが出来たんだっ!!」
「パーティを乗っとるなんて考えたこともない!! 回復魔法を使えなかったことも―――本当に自分の無能さを責めたんだ―――当然な理由だと思ったんだ!!」
右腕に隙がある。真っすぐ剣を伸ばし突きを試みる。だが、受け止められてしまった。
「回復魔法が使えないなんてどうでもよかった。俺はここからお前を追い出して、俺が魔王を倒す。勇者になるのは俺だ。そのためには仲間が必要だった。リールお前は―――俺にとっては魔王と変わらない! その強さが罪なんだ! お前の強さが! 俺を弱く見せる!」
アクトスの剣が、わずかに俺の左腕を捕らえた。寸前で交わしきったものの、少しだけ出血がある。早くて重い斬撃。魔力の流れも4Sと遜色がない。そうだ、少しラグナロクに似ているんだ。
そうだよ―――アクトスはやっぱり強いんだよ。思わず笑みがこぼれてしまう。
忘れてた記憶が蘇って来る。それは、アクトスのパーティに加入するきっかけだった。
「俺は、あんたに憧れてたんだ」
「嘘をつけ」
「嘘じゃない」
「森の中で魔物から助けた親子を覚えているか?」
「覚えていない」
「そうか。その時のあんたは本当に勇者だった。本当に強くて勇敢だった。あんたのようになりたいと思った。人を助けられる人間になりたいと思った。その後、仲間を探していると聞いて、本当に力になりたくて、仲間に入ったんだ。あんたの下で、魔王を倒す手伝いをしたかっただけだったんだ」
俺のその言葉を、アクトスは黙って聞いていた。
「最初は心強いと思ったよ。最初はな。だがお前は強すぎる。俺はお前が怖くて仕方がない。半殺しでやめるべきでなかった。殺しとくべきだった」
その言葉で、なぜ俺が22年間も生かされていのか分かった。生かされていたのではない、怖くて手を出せなかっただけなのだ。
アクトスから強く伝わってくるのは俺に対する恐怖だった。森の中で、俺と母親を魔物を助けてくれた『勇者アクトス』はもうそこにはいなかった。
勇者になれないと気付き、魔王を倒すという夢を叶えるために、手を汚しながら罪を重ねながらこれからも生きていくのだ。だからこそ―――魔王に取り込まれたのだ。
夢は欲望に変わり、欲望と夢はどんどんとかけ離れていく。
『魔王を倒した勇者』
その肩書だけを求めた化物になり果ててしまったのだ。今のアクトスにとっては、確かに俺は魔王と代わりのない存在に違いない。
勇者という肩書を殺す魔王。アクトスにとっての魔王。それが俺だ。
ゆっくりと剣を構える。全ての魔力を―――剣に込める。
3―――2―――1―――。
一閃。
互いの剣が重なり合い―――砕け散る。
アクトスの剣は粉々に―――俺の剣は二つに壊れる。
瞬間―――俺は飛び散った剣先を必死に掴む。右手に痛みが走る。血液が沸騰しているのが分かる。粉々になった剣が―――体中を切り裂いていくのが分かる。
右手に持った折れた剣先を―――アクトスの腹部に突き刺した。折れた剣先は短く、アクトスの傷が浅いのは分かっている。それでも―――。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
魔力と共に、拳を押し込む。右手に感覚がない。神経が切れている感覚すらある。それでも俺は、全力でアクトスの腹部へ剣先を押し込んだ。
―――アクトスが力が抜け、俺にグッタリと寄りかかて来た。気を失ったのが―――分かった。
「はあ……はあ……ウインド:治癒………」
アクトスと自分の傷が癒えていくのを見届けると、俺は空を見上げた。
群衆の声は聞こえない。
太陽は高く、空はとても蒼くて穏やかだった。
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「それでは彼らを連れて行きます。復讐お疲れ様でした。ゆっくりお休みください」
いつの間にか来ていた自警団が気を失ったアクトス達を連れて行ってしまった。
その中にいた一人の顔には見覚えがあった。ちょっとエッチで女癖の悪い男『ランス』だ。若い頃はこの街で自警団をしていたのか。20歳ぐらいだろう。ちょっと笑ってしまう。人はどこで繋がっているか分からないものだ。
「最近周辺地域で増えていた盗賊行為も彼らだったそうだよ。リール君の件もあって罪人として処罰されるそうだ」
ライトが言った。アクトス達はこれからどう生きるのだろう。罪を償い、真っ当な人生を歩むのだろうか。それとも―――。いや、その時は俺がどこまでも追いかけて行って罰を与えるしかない。
魔王を倒したら―――俺が作った平和な国で、アクトス達を生かしてやるのだ。ダメなら殺す。すぐに死刑だ。
それが俺の、アクトス達への感謝の形であり復讐なのだ。
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