大魔術師セリン/リール視点
プレーン村に到着したのは翌日の昼過ぎだった。魔物に出会うこともなく順調な旅だった。
王都の街道途中にある村だけあって、規模は大きく活気がある。何より『勇者旅立ちの村』という肩書を持っていた。観光客も多く、あちこちにアクトスの銅像と『足跡』という名の記念碑が設置されていた。
「相変わらず悪趣味な村だ」
「私の母の銅像もあるのですが、なぜか裸なんですよ」
「有名な像だな。見たことがある。女神様みたいな扱いを受けていたからあまり気にならなかったが、本人からしたらキツイな」
「バルドルとファクターも際どい恰好の銅像ですし、アクトスの趣味なんでしょうね。あ、着きましたよ。この家です」
大きなお屋敷だ。綺麗に手入れされた庭が特徴的で、赤や黄色の花がところ狭しと植えられている。何の花だろう。
「お帰りなさいませプレミア様! 長い旅路心配いたしました。 おや? そちらの方は?」
扉を開けると、眼鏡をかけた細身の老紳士が立っていた。
「魔術師のリール様です」
「おお! あなたがリール様! お話は聞いております。初めまして」
握手を求められたので反射的に対応してしまう。物凄く友好的だ。俺は小声でプレミアに尋ねた。
「大丈夫なのか、この人?」
「有能な支援者です。アクトスと私達が敵対していることは知っています」
それなら安心だ。今や追われる身。誰がアクトスへの内通者か分からない。
「中でセリン様がお待ちです。こちらへ」
*****
通された先はダンスパーティも出来そうなくらい大きな広間だった。天井や壁には、一面に天国の様子と思われる絵が描かれていた。よくある金持ちの家といったところだ。
真ん中にテーブルとイスが設置されており、一人の女性が入り口を向いて座っていた。
「ただいま戻りました。ママ」
「お帰りなさいですわ。プレミア」
そう言うと女性は立ちあがり俺を見た。
「はじめましてですわ、リール様。わたくしがプレミアの母、セリンです」
「はじめまして、リールです。伝説上の人物にお会いできて光栄です」
この挨拶には特別おかしいところはない。ただどうも気になることがある。
「なあプレミア。おれの目が魔法か何かで操作されてる可能性がある。なんかセリン様が下着姿だ」
目の前にいるセリンは、かなり透けたワンピースを着ている。そしてそのせいで、黒の下着がハッキリと見える。胸が大きく、腰から下がしっかりしている。目のやり場に困ってしまう。
腰まで伸びた長髪が艶めかしい。年を重ねた色気なのか、本物が持つ力強さなのだろうか、目が、まるで重力魔法をかけられたように引き付けられていく。これは試されているのだろうか。
「家の中ですからね。母もくつろいだ格好をしています。元気そうでよかった」
何が不思議か分かっていないようで、単純に久しぶりの再会を喜んでいる。
「なるほど、間違いなく黒の下着か」
どうやら試されている訳でも、魔法でもないようだ。
この状況で黒の下着姿か。
さすが大魔術師。感性も大魔術師だ。意味が分からない。俺が男だからこそ下着姿の出迎えなのかもしれない。回復魔法だけでは回復しきれない、精神的な旅の疲れを癒すための手段なのかもしれない。回復魔法で名をはせた大魔術師だ。きっと深い考えがあるに違いない。
いや、絶対考えすぎだ。きっとただの痴女だ。
アクトスは大嫌いだが、セリンの銅像を裸にしたのは間違いではないと思った。
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