始まりの場所/リール視点
朦朧としていた意識が、少しずつハッキリしてくる。
ここは―――家の中?
頭が痛い。顔が痛い。体中が痛い。アクトスとの戦いではここまでのダメージは負わなかったはずなのに。
ゆっくりと身体を起こす。身体が10歳の時のままだ。これは―――時間跳躍に失敗したのか―――?
血の気が引いていく。いや、そうしたらメテオはどうなったのか? いや、あの規模のメテオで地上が無事な訳がない。
「よかった! 目を覚ましたんだね!!」
扉が開くと、長身の優しそうな青年が入って来た。どうやら食事を持ってきたようだ。
「ここは……」
「僕の家。身体中傷だらけで倒れてたからビックリしたよ」
「倒れてた……。メテオは……アクトス……アクトス王はどうなりましたか?」
もし長い間眠っていいたならば、アクトス国に何かしらの変化があったはずだ。アクトスは確実に殺している。ならばミシリ―軍の本隊が制圧した可能が高い。そもそもあのメテオをどうやって止めたのか。
予想に反して、長身の男は不思議そうな顔をした。
「アクトス王? えっと、誰かなその人?」
アクトスを知らない―――!?
「ライト、そんなことも知らないの?」
その言葉と共に、一人の少女が部屋に入って来た。少女は続けて言った。
「最近名を上げ始めた勇者じゃん。かなり強いらしいよ」
「ああそうなんだ。知らなかった。その人ってどこかの国の王様なの」
「そこまでは―――知らないわよ! 自分で調べたら?」
口を尖らせてプイっとそっぽを向いた。「なんだよ~」とライトと呼ばれた青年が笑った。
「いつまでもボーっと突っ立てないで、ご飯食べさせてあげなさいよ! 冷めちゃうじゃない」
少女はライトに顔を近づけながら、更に強い口調で言った。
俺は、ようやくこの状況を理解した。
『最近出てきた勇者』という言葉、傷だらけの身体、そしてこのライトという男。
少しずつ蘇る記憶。
何より、目の前にいる少女を、俺はよく知っていた。
「まったくセリンには敵わないなあ。ささ、横になって! 僕が食べさせてあげるから」
そう、それは若かりし頃のセリンだった。
俺は―――22年前に―――それも、アクトスのパーティーを追放された直後に時間跳躍してきたのだ。過去に戻ることに成功していた。まさかここまで昔に戻ってくるとは。
激しい安堵感と共に激痛が身体を襲う。
「ほらほら、ちゃんと寝てないと。治るものも治らないよ」
セリンが優しく俺の身体を支えてくれた。
なんて大事なことを忘れてしまっていたのだろうか。俺は、ライトという青年とセリンに助けられていたのだ。
「はい口空けて。あーん」
ライトに言われるがまま口を開ける。30過ぎてこれは流石に恥ずかしいが、見た目が10歳なので問題はない。精神的ダメージだけ負うが。当時もこうやって食べさせてもらった記憶がある。
懐かしさと共に、身体が動き始めた頃に逃げ出すようにライトの家を後にしたことを思い出した。助けてくれた人たちに対して、気が動転していたとは言え、なんて薄情な別れ方をしたのだろう。
一緒にいた少女はセリンだったのか。年齢は俺の4つ上だから今は14歳のはずだ。本当に若い。プレミアの面影をより強く感じる。やっぱり親子だ。
「美味しいかい?」
「はい」
気のせいかもしれないが、ライトにもプレミアの面影を感じる。不思議だ。
「さっきいた女の子は、妹とかですか?」
「ちょっと違うかな。隣の家の子。ただ、ちょっと事情があって僕が面倒見てるんだ。だから血のつながってない妹って感じかな? うん、妹。妹で正解!」
「正解……なんですかね」
「ばか!!! いつからあんたの妹になったのよ!!」
セリンがまた口を尖らせて怒っている。この子が、あんなにしっかりした【しっかりしてない時も多いけど】母親になるなんて分からないものだと思った。
読んでいただきありがとうございます。本年もよろしくお願いいたします。




