繰り返しの終わり/リール視点
プレミアが力なく膝から崩れ落ちていく。父親の件は俺もずっと気になっていたことだった。まさか本当にアクトスとセリンの子供なのか?
しかし『願った』ということは、魔王の力によってセリンの意志とは関係なく生まれたということかもしれない。頭が混乱する。
アクトスがセリンの身体を、まるでゴミを捨てるように投げ捨てた。
地面に叩きつけられる前になんとかセリンを受け止める。虫の息ではあるが、まだ命は繋がっている。よかった!!!
「プレミア! セリンはまだ生きている!! ウインド:治癒!!」
セリンがこの状態では、プレミアが時間を戻す可能性があった。
命が繋がっているのなら、まだ時間跳躍を使う必要はない。この世界はまだ可能性が残っている。
俺はありったけの魔力を込めた。何としてでも回復させる。
「ごめんなさい……リール様……」
俺の思いとは裏腹に、プレミアの言葉は弱々しく、ゆっくり近づいてくるアクトスに抵抗することなく捕まってしまった。
「いい子だ」
アクトスはその言葉と共に魔力の刃を突き付ける。プレミアは、もはや立ち上がる気力すらないようだった。死を受け入れているようにも見えた。静かに泣いている。
助けないと―――。
「プレーミア:火焔―――」
剣に魔力を宿し、プレミアを掴んだアクトスの腕を目掛けて振り下ろした。
腕から飛び散る真っ赤な血。ドサッという音と共に地面に倒れるプレミア。ニヤリと笑うアクトス。
左腕が切り落とされても動じることもなく、魔力で素早く止血をする。
「懐かしい姿じゃないか。やはりお前にはその姿がよく似合う。全てがガキのままだ」
その言葉で現状が理解できた。『ウインド治癒』と今の攻撃で完全に魔力を使い切ってしまっていた。
身体が22年前、10歳の自分の姿になってしまっていた。
「もう戦いには飽きた。プレミアには悪いがメテオを使わせてもらう。俺なら楽に殺してあげられたのに。リールと共に苦しみ、死ぬがいい」
賢者の石を天にかかげる。メテオが発動してしまう。
子供状態であって、バルドルの時とは違うのは、頭がハッキリとしていて自分で感情のコントロールが出来ることだった。
不思議と、完全に失った魔力が急速に力を取り戻していく。
怒りも何もない。ただアクトスを討つことに集中できている。
ありったけの魔力を両手に込める。
「プレーミア:火焔―――」
凝縮した魔力が―――アクトスを貫いた。
賢者の石が砕け散り、アクトスの身体が魔力の中に溶けていく。
そして、細胞一つ残さず、アクトスは消え去った。
やったのか―――。
いつの間にか太陽は沈んでいた。星たちがキラキラと瞬く。
セリンの寝息が聞こえてきた。ギリギリの所で回復が間に合ったようだ。
「リール様! リール様! リール様! リール様! リール様! リール様!」
プレミアがグシャグシャに泣きながら飛び込んで来た。
「アクトスは死んだんだよね……!ママは生きているし、もう全てが終わったんだよね!!!」
「終わった―――もう時間を戻す必要もない」
「時間……リール様……実は私……」
「どうした?」
「んー!!! なんでもない!!!」
「なんだよそれ」
二人して笑う。そうか―――終わったんだな。プレミアの、そして、俺の22年前の復讐もようやく―――。
――――。
悪寒。
感じたことがない、身の毛がよだつ程の巨大な魔力。これは―――。空を見上げた。先ほどまで何もなかった空に、蓋をすほど巨大な魔力を帯びた岩石があった。
メテオ――ー止まっていなかったのか―――。
こんな巨大な魔力―――俺の魔力が完全な状態でも止められる訳がない―――想像を超えている―――。
「リールさ―――」
プレミアが、言葉の途中で崩れ落ちる。
切り落とされたアクトスの左腕が、プレミアの胸を貫いていた。
「プレミアああああああああああああああああああああああああああああああああ」
アクトスの左腕が塵になって消えていく。
「リール……さ……ま」
「喋るな!! 今助ける」
力の限りウインド:治癒を使う。しかし、回復が間に合わない。わずかだが体内に魔力を残していったのか―――。毒のようにジワジワとプレミアの身体にダメージを与えている。
「くそっ!! くそっ!!!」
情けなくて涙が出てくる。この程度の傷も治すことができないのか。
「もう一度だ!!! 次は負けない!! 左腕ごと消し飛ばしてやる!! 昨日にまた会おうな!!!」
そうだ。俺達には時間跳躍がある。次ならきっと―――。
「ご……ごめんなさい……、もう……時間は……戻せないの……」
プレミアのその言葉に愕然ととする。
「なんで……?」
「わか……らない……けど……何となく……わかる……」
「どういうことだよ……!!全く意味が分からないぞ……」
涙が止まらない。
「俺が時間を戻す!!! 数秒程度でも……プレミアが生きている時間を見つけてやる!」
そうだ。俺だって、少しだけかもしれないが、時間を戻せる。運命が変わらないのは分かっている。でも―――何千回だって、何万回だってやればきっと―――。
プレミアは―――ゆっくりと首を横に振った。
「巻き込んじゃって……ごめんなさい………。ありが……とう……。リール様……大好き……です……この先の未来を……見たかったな……」
そう言うと――――――プレミアは息を引き取った
もはや反応がなくなったプレミアの細い身体を、ただただ強く抱きしめることしか出来なかった。なさけない。なさけない……。
「バカヤロウ……メテオだって……止められるか分からないんだぞ……。どこまで俺を信頼してるんだよ……22年間も……何にも出来なかった男だぞ……」
22年間―――。俺がアクトス達から追い出された後に過ごした時間だ。生きるために必死だった日々だ。そう復讐すらままならず、生きるだけで精一杯だった男なのだ。
巻き込まれたなんて思っていない。ずっと―――ただ待っていたのだ。このような状況になるのを。誰かが引っ張り上げてくれるのを。復讐をするきっかけを。
アクトスが売った時間で、アクトスの作った国で、なんとなく悪くない日々として過ごしてきたのがこの俺だ。自分から動くことが出来なかったんだ。
もしプレミアが引っ張ってくれなかったら、この場所にいることなく、メテオと共に死んでいただろう。プレミアは、俺に抗うための未来をくれたのだ。
何もできないはずだった俺に、選択肢をくれたのだ。
そして――――――そんな俺を『大好きだ』と言ってくれた。
俺は彼女を、プレミアを助けたい。どんな手を使ってでも助けたい。
何としてでも幸せにしてみせる。
俺は―――ゆっくりと目を閉じ唱えた。
「時間跳躍」
全ての魔力をつぎ込んだ。どうなるかは全く分からない。
お願いだ。出来るだけ過去に、1分でも遠くの過去に俺を連れて行ってくれ―――――――。
読んでいただきありがとうございます。まだ続きます。




