アクトスとの邂逅/告白/リール視点
高い位置にあった太陽は、いつの間にか地平線に吸い込まれそうになっていた。空は赤く染まり、月が存在を主張し始めている。
風はゆるやか。草木が擦れる音だけ辺りに響く。
伸びきった影の向こうには、一人佇む男がいた。周辺に仲間はいない。男は覇気もなく、ただただ空を眺めていた。
久しぶりに―――その男の顔をしっかりと見た。頭髪には白髪が混じり、目や口元には意外と深い皴も刻まれていた。
『アクトス』
王であり、魔王を討ち取った勇者でありーーープレミア、セリン、そして俺の人生を壊した男。
討つべき相手がそこにいた。
「リールか。見ないうちに大きくなったな」
目線をこちらに向けることなくアクトスは言った。
「はは。何年もいやがらせありがとよ」
「俺は何もしていない。過去を話しただけだ。民衆が判断した。お前が勝手にそう思っているだけだな」
「そうかい。責任逃れの上手さは変わってないようだな」
「俺を……殺しに来たんだろ?」
「そうよ!!!」
セリンが声を上げた、その瞬間だった―――。
プレミアに剣が突き立てられた。
寸前でリフレクトを展開する。なんとかプレミアを守ることが出来たとは言え、目で追うのがやっとのスピードだった。驚きのあまりプレミアは膝から崩れ落ちた。
「リール、邪魔だよ。……俺とセリンとプレミアは家族仲良く幸せに死ぬ権利がある」
少しがっかりしたようにアクトスは言った。
「ど、どういうことよ!!!!?」
震える声でプレミアが叫んだ。
「そういう―――ことだったのね。私を殺そうとした理由がやっと分かったわ」
その言葉を発した瞬間、周りの草木が魔力の鎖に変化し、セリンを締め上げた。
「くっ……!」
「ママっ!!!」
俺は『火焔』を、プレミアは肉体を変化させアクトスに攻撃をしかけた。
1発、2発とプレミアの打撃が入り、俺の火焔が襲い掛かる。手ごたえはあった。
だが―――。ダメージが入っていない。
「ふう、面倒だね。リール、よく聞けよ。俺は何も快楽のために二人を殺そうとしている訳じゃないないんだ。優しさなんだよ、これから起こる惨劇の」
「何を言っている? 惨劇だと? メテオのことか!?」
起伏もなく、常に坦々とした喋り方がイライラする。いつからこいつはこんな喋り方をするようになったんだ。
「う……はぁ……アクトス……あなた……やっぱり……あの時、魔王に魂を売ったのね?……」
セリンが鎖で塞がれた口を必死にこじ開けて言った。
「売った? 人聞きが悪い事を言う。目の前に迫っていた人類の寿命を20年以上も伸ばしてやったというのに。僕は人類に有利な取引をしただけさ」
「避けろ!!」
俺は必死に声をかける。淡々と話をしながらも、強い殺意が込められた魔力の刃がセリンとプレミアに襲いかかる。
隙を見て攻撃しようと試みるが、人間離れした身体能力と、S4相当の魔力から生み出される攻撃魔法を防ぎ続けることは容易ではなかった。
身体中に、少しずつではあるがダメージが蓄積していく。油断をすれば確実にやられる。昔のアクトスは、勇者と名乗るだけの能力があったが、これ程ではなかった。
だからこそセリンが言った『魂を売った』という言葉が理解出来た。
「20年の人類の寿命と引き換えに―――何を手に入れた⁉」
「名誉と統治する力―――。仕方がなかったんだよ、世界の平和のためにはね。魔王を倒したという名誉と、それに見合う能力が必要だった。魔王は喜んで了承したよ。俺に全てを託して死んでいった―――メテオによる世界の破壊はその代償さ。この賢者の石を使って魔王との契約を履行する」
「ただ魔王に取り込まれただけじゃねえか……。自分自身が魔王になってる自覚すらないのか……」
「分からない男だな。この選択の偉大さを理解出来ないなんて。無能なクソガキはいくつになっても変わらないものだな。はあ、やっぱりあの時に殺しておくべきだった」
「ふざけるな!」
『プレーミア 火焔』全力を叩き込む。こんな茶番はもうおしまいにしてやる。
「待って……リール……」
セリンが立ち塞がり言った。
「ねえアクトス……名誉と力……もしかして―――それ以外に、あなたは願ったことがあるんじゃないの?」
その問いかけに、アクトスは―――セリンとプレミアを一瞥すると―――不気味な笑顔で答えた。
「そうだね―――愛―――愛を願った。世界の平和のためには、やっぱり俺自身も幸せでなくていけない」
「そうやってのらりくらりと、本当に大嫌い。はっきり言いなさい!!!!」
セリンが今までに見たことがないものすごい剣幕で詰め寄った。防御術を展開し、そのまま殴り飛ばそうとする。
だが―――アクトスはそんなことを全く意に介さなかった。
手を重ね、指を一つ。
ボキリと鈍い骨の折れる音。
肩を抱き、肩を一つ。
ボキリと鈍く関節が外れる音。
悲鳴が平原に響き渡る。
あまりに早い一連の攻撃。そして、
ボキリと鈍く首の骨が折れる音。
崩れ落ちるセリンを抱きあげ―――アクトスはセリンの唇に接吻をした。
「君との子供を願ったんだ」
アクトスははっきりとそう言った。
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