炎の形/リール視点
俺とプレミアは一度王都アクトスを離れることになった。
「プレーン村に行きましょう。母のセリンがそこにいます」
という言葉もあったからだ。プレーン村はここから街道を通れば徒歩でも1、2日ほどで到着する村だ。アクトスと戦うことになるならば、大魔術師のセリンの協力は力強い。
隠れるように支度を済ませ、昼には王都を出発した。俺たちを探している兵や不審な人物は見当たらず、不気味な程に静かな旅立ちとなった。
「静かすぎますね……」
城門を抜け街道をしばらく歩いているとプレミアはふと呟いた。
街道は石畳で舗装され、低い木々が立ち並んでいる。柔らかい風が時折頬を撫でた。
「もっと騒ぎになると思ったか?」
「はい。バルドルには伝わっているはずですから」
「手も足も出ずに退却したんだ。作戦もなしに動けないさ」
「そうかもしれません……。リール様はいつも冷静なのですね」
「そんなことはないさ。対処できる範囲だから慌てないだけ。店がいっぱいになった時なんか、目を回しながら対応している」
「そうなんですか? ふふっ。見てみたかったです」
「見てもつまらないぞ」
プレミアは小さく笑っているようだ。ダラダラとした会話が続く。天気が良いせいもあり、近い未来に世界が滅びるという言葉を忘れそうになる。
「ここで休憩しませんか?」
プレミアの提案もありここで野営することになった。
太陽が傾き始め、少しずつ空に闇が掛かり始めた。
「私が結界を張ります」
大魔術師であるセリンの娘の魔法だ。感じていた通り、とても質のいい魔法だった。
「得意な魔法は何?」
火を自力でおこしながら俺は聞いた。
「補助や空間系です。肉体を強化したり、このように結界を張ったり、魔物を探知したり、そういうのが得意ですね。魔術師ランクはSですが、攻撃や回復は得意ではないです」
「Sか。凄いじゃないか。流石セリンの娘。回復魔法が苦手なのは意外だな」
「よく言われます。ところでリール様、火をおこすのに魔法を使われないのですね」
「あ、ああ。これか。魔法でおこす火と、人の手でおこす火はなんだか違う気がしてな。料理をしている時から火おこしでは魔法を使わないんだ」
「でも同じ火ですよね?」
プレミアは首を傾げ、考えるように空を見た。
「もちろん。中身はなーんにも変わらないと思う。火は火だ」
「ふふっ。リール様は面白い人ですね」
焚火が少しずつ大きくなってきた。
「出来立ての火だ。美味しく召し上がれ」
「ありがとうございます。美味しくいただきます」
そう言うと、プレミアはチョコンと座ったまま焚火の上に両手をかざした。
「もう少したったらアンチョリのスープを作るからな」
結局、アンチョリをもう一度購入した。
「…………」
プレミアは何やらぼんやりとしているようだ。
「どうした?」
「いえ、優しい暖かさだなと思って」
「そうか……」
空には星が瞬き始めていた。周囲は更に静けさを増し、キラキラと燃える焚火は、静かに彼女の頬を照らしていた。
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