ラグナロクとの決着/リール視点
漂う血の匂いと怒号。そして、倒れていく敵味方の兵士達。クリスとスパルナは多量の返り血で表情すら分からない。
全ての地獄を掻き分けるように馬を走らせた。
そして―――ついに―――ラグナロクがいる部隊と対峙することになった。
その数は数百程度。対するこちらはその3倍の兵士が前線までたどり着いていた。相手が普通の指揮官であれば投降してきてもおかしくはなかった。
だが、相手はラグナロクだ。こちら側に有利過ぎる展開に少し不安が生まれていた。
『前の時間』ではレッドとラグナロクが合流する形になっていた。それは、彼らを倒すことを重要視しなかった結果でもある。プレミアが今までの時間で行っていた、奇襲による電光石化のファクター討伐。
奇襲は成功し、ラグナロクとレッドに撤退命令が出たのはその後だった。二部隊の撤退によりファクター軍を追い詰めた形ではあったが、二部隊を吸収したファクター軍の強さは、当時のレイダー部隊とセリン部隊はかなりの損害を負っていた状況もあって、圧倒的なものだった。実際はおびき出されたと言っていい状況だった。
ラグナロクは撤退を選ぶのではないか?
それが俺が感じた不安だった。だが―――それは全くの杞憂だった。
突如相手側の部隊が割れ、馬に跨った一人の男が一番前に現れた。その姿を見届けると、他の兵士達は撤退行動に移っていく。
ラグナロク一人を戦場に残して。
禍々しい魔力が彼を覆っている。初めて会った時は全く違う魔力の感じだった。間違いなく、彼は『狂人戦士化』の魔法をかけられていた。
俺は自部隊の兵士達に、撤退した部隊を追いかけるように指示を出した。
「ラグナロクは捨て駒だ。俺一人で食い止める。気にせず突っ走れ」
いくら最高クラスの能力の持ち主と言えども、1,000近い数の兵士相手では無傷では済まないはずだ。魔力も無限ではない。
ファクターの性格の悪さがよく分かる作戦だ。ラグナロクの命と引き換えに、俺達の部隊の兵士を一人でも多く殺すことが目的のようにも感じる。もちろん俺を殺すことも目的の一つのはずだ。
彼女は基本的に人をぞんざいに扱う。噂に聞いていた通りでもあるし、俺は被害を受けた側でもある。
プレミアが言っていた「ラグナロクは戦いに参加しないことが多い」という言葉の意味が分かった様な気がした。ラグナロクは戦いに参加しなかったのではない。ファクターの手によって、どこかで壊されてしまっていたのだろう。
馬を逃がし、俺は突進してくるラグナロクを待った。錯乱した状態で放ってくる攻撃魔法をピンポイントのリフレクトで跳ね返しつつ、剣と盾を構え、その時を待った。
「ああああああああああああああああああ!!!!!!」
馬に跨り、白目を剥き、錯乱した状態で長槍を振り回す。
『静謐な死神』
その二つ名が嘘のような姿だった。俺の頭の中には、冷静沈着で、美しいほどの剣捌きをみせるラグナロクの姿が思い浮かぶ。きっと、タイムリープで消えてしまった記憶なのかもしれない。
盾に大きな力が加わったのが分かった。何の考えもない、力任せの攻撃。
俺はその攻撃を受け流し、一閃。剣をラグナロクの胸に突き立てた。
『ドス』
という鈍い音と共に、彼の身体は地面へと落ちていった。
余りにもあっけない幕切れだった。ラグナロクの身体からは大量の血液が流れ出てピクリとも動かない。
夢の中かもしれない。「また戦おう」そんな言葉をかけられたような気もするが、それは叶わない約束になってしまった。
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