前夜/リール視点
アンデットの軍勢を一掃した後、俺達は近くの林で野営をすることになった。夜は深まり、テントの外からは兵士達の話声や笑い声が聞こえてくる。戦時下であることを忘れるようなひと時だった。
だが周辺の警備については最大級の注意を払っていた。自国と言えども、すでにファクターの差し金と思われる魔物の襲撃を受けている。
この林を抜ければ、そこはアクトス国とミシリ―国の国境である平原であった。アクトス国内であれば、ファクター軍は躊躇なく攻撃をしかけてくる。
国境の警備兵から、アクトス国側の国境の街に軍隊が集結し始めている、という情報も入ってきた。この辺りの動きは『1つ前の時間の記憶』と同じだ。
「先の戦闘で大きくケガをした人はいないみたいだね。みんなピンピンしてる」
スパルナが安堵した表情でテントに入って来た。
「無事でよかった。あの襲撃は予想外だった」
「クリスのおかげだ」
「アンデットとは相性いいからね」
クリスはむんと胸を張った。
「頼りにしてる」
穏やかな笑い声がテント内にひろがった。
「魔王軍の残党かな? スパルナ何か知ってる?」
「そもそも残党なんていないはずだよ。僕達キングガルーダ族もだけど、ザック王には不信感が強まってたからね。そこにちょうどアクトス達が戦いを仕掛けてきて、上手く利用させてもらった感じはあるんだ」
「そうなんだ」
クリスが感心して大きく頷いた。
『ザック王』というのは魔王の事だ。魔王軍からの視点で話を聞いたのは初めてだった。そんな裏話があったとは。
「それより―――セリン達は、大丈夫かな? 僕、やっぱり少し心配だな」
スパルナが小さな声で言った。
「間違いなく大丈夫だ。みんなを信じよう」
「―――うん、そうだね」
「そうだよ! ドルビーはまあアレとして、プレミアも強いし、何よりセリンがいればなんとかなる」
クリスが力強く言う。
現にプレミアが時間を巻き戻した様子はない。進軍は順調なはずだ。予想外な攻撃を受けた可能性はあるだろうが、相手のレッド部隊と交戦しない限りは心配はいらないだろう。
もう少し夜が深まれば、伝令がセリン達の現在の位置を教えてくれるはずだ。問題は明日からだ。
「明日は激しい戦闘になるはずだ。俺達も、セリン達も」
「僕達が戦うのは、ラグナロク部隊の可能性が高いんだよね」
「ああ。ほぼ間違いないはずだ」
セリン達とラグナロクを交戦させないのは、ファクターに勝つための必須条件でもある。プレミアが何度戦いを挑んでも負け続けてきたのは、運命という以上に実力差が大きい。
ここだけは予想外は許されない。前回の記憶に頼るのではなく、国境警備から話を聞き、斥候を放ってきた。
単純な能力差の前にタイムリープは無力だ。
ラグナロクを打ち破れるのは俺だけ。これは自惚れでもなんでもなかった。
読んでいただきありがとうございます。少し間が空いてしまい申し訳ないです。仕事が落ち着いてきたのでまた定期的に更新していこうと思います。どうぞよろしくお願いいたします。




