迫る戦いの日/プレミア視点
「ね、ここの紅茶おいしいでしょ?」
「本当ですね。こんなお店があるなんて知らなかった」
クリスさんに誘われるまま、私は最近できたばかりのカフェに来ていた。
「いよいよ戦いが始まるしね。たまには息抜きしないと」
アクトス国への侵攻が1週間後に迫っていた。落ち着かないクリスさんの気持ちはよく分かる。何度繰り返しても戦いは嫌だ。
「ファクターがミシリ―に侵入した事件から特にピリピリするようになりましたもんね」
「おかげで軍内の個人確認にすごく時間かけるようになったし。全く嫌になっちゃう」
ファクターはあれ以来一度も姿を現していない。もちろん、更に強固になったママやミシリ―国の魔術師達が作った結界を破ることは容易いことではないけれど、ファクターの力があればなんとかしてしまうような気もしなくはない。
「最終的にファクターと戦うのはプレミアちゃんって作戦だけど、気持ちは変わらないの? 怖くない? 今からでもランスかレイダーに代わってもらうこと出来るよ?」
「ありがとうございます。大丈夫です。 前に話をしたように、ファクターのことは私が一番知ってますから」
「んー、やっぱり気持ちは変わらないんだね」
「はい」
ファクターと1対1の戦いになれば負けることはない。何度も繰り返してきた時間の中で、ファクターの弱点は熟知している。そもそも、当初から戦いの相性は良かった。
不安要素はラグナロクとレッドがファクター軍にいることだけだった。ただそれも、リール様がいれば大丈夫なような気がする。
「落ち着いてるね。ほんと16歳とは思えない! 私がその年齢の時なんて、初歩の魔法すらまともに扱えなくて、お師匠先生によく怒られてたっけ」
―――落ち着いている。あまり言われたことがない言葉だった。
『いつも何かに焦っている』と言われることのが多かったようにも思う。これもきっと、リール様が時間跳躍しても記憶を持ち越せるようになったからだ。
私はひとりじゃない。同じ時間を共に過ごしている人がいる。
「ごめん待ったっ?」
大きく手を振ってやって来たのはスパルナさんだった。
「ラサヤナが学校に忘れ物しちゃってさっ。届けてたっ」
「珍しいねー。ラサヤナちゃんしっかりしてるのに」
「ああ見えて意外とだらしないんだっ」
幸せそうにラサヤナちゃんとの生活を話すスパルナさんを見ると、やはり少し心が苦しくなる。
「本当にすいません……。戦いに巻き込んでしまって……」
「気にしないでって言ったじゃん! リールやプレミアには返しきれない恩があるし。キングガルーダの一族にとって戦うことこそが価値だしねっ」
「おお……流石キングガルーダの姫。覚悟が違う」
「そうよっ! ふふふ、そこは人間という軟弱物とは違うのですよ」
「なにをー」
クリスさんは、じゃれるようにスパルナさんに覆いかぶさった。スパルナさんも、それを楽しむようにクリスさんにちょっかいを出す。
「私も……無事に帰ってきたら……結婚してこどもが欲しいな……」
そう小さく呟いたのはクリスさんだった。
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