ファクターとの対話/リール視点
突き立てられた魔力の刃を『リフレクト』で牽制しつつ、ファクターとゆっくりと距離を取った。
「もっとゆっくり用を足してても良かったのに」
「あんまりのんびりしてると食いちぎられそうなんで」
「あら? そんなサディスティックな趣味は持ち合わせていないわよ? かわいい物はね、優しく愛でるのが性分なのに」
「嘘言え」
間合いと取りつつ、トイレから外へ出る。流石に狭い建物ないで戦うのは厳しい。リフレクトがなかったらと思うとゾッとする。間違いなくアレ(・・)に魔力の刃を突き立てていた。
「何をしに来た?」
「何をしにって、私達の国に攻め入ろうとしている人達の偵察に来たに決まってるじゃない」
「大将自ら偵察とはな。そんなことする柄にも見えないが。他に目的があるんだろ?」
「ふふっ。バルドルが殺されたって聞いてから、あなたに少し興味が湧いたの」
そんなに前から興味を持っていたのに、なぜこのタイミングで来たのだろうか。そして何より『やり直してきた時間』では一度もなかった展開だ。原因は別にある。
「それはどうも。俺はもっと早く会いたかったよ」
「思ったより成長してたみたいだからねえ。いい男には、やっぱり会いたいじゃない」
舌なめずりと共に艶めかしい笑顔を見せる。このまま色々な意味で意味で食われてしまいそうだ
なるほど、ずっと俺の動きを観察していたのだろう。ここまでファクターの手先であるレッドの動きを抑え続けている。それがファクターの関心度を高める結果になっていた訳か。
「戦うのか? 今ここで」
周りには酒に酔っぱらって陽気に歩く人たちが大勢いる。一部の人達は俺達を不思議そうに見ているが、ほとんどの人達は気にも留めていない。ここで戦えば、きっと多くの人が巻き添えになるはずだ。できればここで戦いたくない。
「会いに来たって言ったじゃない。人の話を聞かない男はモテないわよ?」
先ほどまでの魔力の刃を消し、相変わらずの妖艶な笑顔で答えている。油断はできない。
「だったら用事は済んだはずだ。俺もこの場所で戦う気はない」
「リール―――あなた、魔力はほとんど昔のままなのね」
「何がいいたい?」
「ふふふっ。魔力をもっと磨いていればよかったのに。せっかく私達を殺せるくらいの魔力はあったのにねえ」
「…………生きるだけで精一杯だったからな」
そう答えるのが精一杯だった。実際に、アクトス達にパーティを追放させられてから22年間何もしてこなかった。
ただ、それは違う生き方を選択していたということでもある。
また家族や友人が離れてしまうことが怖かった。そして、生きるために作った店を失いたくなった。そのための努力はし続けていた。
「心を、しっかり折ってあげたからね。あなたの家族も友人も、みんな奪ってあげたから」
「黙れ!」
「でも安心したわ。やっぱりバルドルが弱かっただけね。筋肉バカはやっぱり年を取るとダメ。肉体は若いのが一番ね。あなたの相手なら、レッドちゃんとラグナちゃんで十分」
やってみないと分からない―――そう言い返そうとした瞬間だった。
「リール!!」
セリンの声だった。そして、セリンを見つけたファクターの表情が一変した。
「このクソババア! 絶対に殺してやるからな!!」
低く殺気立った怒鳴り声がセリンに放たれ、同時にファクターの姿が消えた。テレポーションの魔法だろう。気付けばセリンが魔力の結界を展開していた。対象者の魔力を奪う魔法だ。
ファクターはそれに気づいて逃げたようだった。
「ケガはありませんの?」
「ありがとう。助かったよ」
セリンは怪我をしていない俺の身体にヒールをかけ続ける。その姿がなんとも微笑ましかった。久しぶりに荒んでしまった心が潤っていくようだった。
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