正しすぎる時間/リール視点
時間の流れは早い。
月日は経ち、最後の合同演習の日が近づいていた。俺の最初の記憶では行われなかった演習だ。行わなかったゆえに王とランスの不信感を買い、レッドが加入する流れになったのを覚えている。
合同演習をやることに問題はない。『前回の時間』でそれは確認できている。レッドがいなければ事は起きないのだ。
「どしたっ? 何か考えごとか?」
スパルナが俺の顔を覗き込んできた。
「ボーっとするな。鍛錬中だぞ」
ドルビーと手合わせを行っていたガーディンの檄が飛ぶ。
「なんか疲れてるみたいでさっ! 僕が先に稽古つけてもらっていいかな?」
「しっかり休むのも大事だ。よし! スパルナとドルビー、あとプレミアも加われ!」
「え! 私もですか?」
「当然だ。まだまだ隙が多いからな」
ガーディンとの鍛錬は、日に日に人が増え、今では全員が参加している。セリンについては回復兼補助なので、そもそも鍛錬する必要がないのであるが、応援という形で参加している。
「プレミア! 頑張るのよ!」
「はーい」
プレミアは気だるそうに返事をすると、しぶしぶガーディンの所へ向かった。
「よう! 疲れてんならみんなで飲みに行かないか? 合同演習の決起もかねてさ」
声をかけてきたのはランスだった。このタイミングでの飲み会の誘いは予定通りだ。まあランスに関しては疲れてなくても飲むのだろうが。どちらかと言うと、女子勢と話がしたいというのが本音のようだ。
「いい提案だ。気分転換といきましょう」
レイダーも乗って来た。
*******
『酒場バルバル』―――仲間で集まる場合、この酒場になることが多い。なんやかんや落ち着く店だ。
賑やかな店内に、一際大きな笑い声が響く。
「相変わらず声が大きいでふね……」
料理を口に含みながら話すのはプレミアだ。飲まない分よく食べる。
「食べながら喋るのは、はしたないですわよ」
セリンがワインを口に運びながら言った。プレミアもこの時期に飲み会が入ることは完全に理解したようで、乗り気ではないと言いながらもちゃんと予定を合わせてくれている。
不参加で未来が変わることはなさそうなのに。
「ドルビーはミルクを飲めええええっ」
スパルナの掛け声と共にいつものが始まった。
「そうですわ! もっと飲まないと強くなれませんわよ」
「ほれほれ! ミルクボーイの肩書が泣くよ」
「ちょっ! なんでいっつも無理やりミルクの飲ませんだよ!」
「お姉さまがたのミルクが飲めないってのかいっ?」
スパルナ、できあがってるなあ。
「いやいやミルクは好きだが、飲ませすぎなんだよ!」
「お姉さま達のミルクが嫌なら、プレミアのがよろしいですか?」
「えっ! 私は別に……」
「ミルクはミルクじゃねえか!!! プレミアも意味なく恥ずかしがるな! 流れがおかしくなる!」
「店員さーん!!ミルクをジョッキで持ってきてください!」
クリスも元気だなあ。
「おっと俺のミルクも飲んでもらおうじゃねえか!」
「はい! 下ネタ親父は出禁っ!!!」
女性陣に本気で怒られ、ランスは肩を落としている。レイダーと俺は顔を見合わせ、呆れたように笑った。これもいつも通りだ。
「ちょっとトイレに行ってくる」
「ああ。この場は俺に任せてくれ」
頼りになる男レイダー。
やはり酒を飲むとトイレが近くなる。少しだけしか飲んでないんだけどなあ。
喧騒が少しずつ遠くなる。この店はトイレがちょっと遠いのが難点だ。一度外に出る必要がある。
月は明るく、星が瞬いている。そんな空を見上げて感傷に浸る暇はない。
離れにトイレはある。扉を開け、用足しスタイル。
「ふう……」
体外に毒素が抜けていくのが分かる。
「こんばんは」
―――――――その声を聞いた瞬間、背筋が凍った。
「立派になって。昔はちっちゃい子供だったのに」
全身に絡みつくような女の声。忘れもしないその声。禍々しい魔力。なぜここにいる。なぜ近くにいる事に気が付かなかった。
顔を見る必要もない。
間違いない――――――ファクターが――――――今隣にいる。
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