再々始動②/リール視点
「レッドを仲間にしてはいけない。彼は裏切る」
というプレミアのその言葉で始まったファクター軍との戦いは、今まさに失敗を迎えようとしていた。
激しい雨粒の音だけがハッキリと聞こえる。
俺の時間跳躍の魔法で1.2分程度時間を戻してみても、セリンの死から逃れることが出来なかった。
レッドを仲間にすることなく、ファクターとの戦いに備えてきた。軍を鍛え、レッドの介入を阻止し、こちらから戦いに臨んだのだ。
「……残念だったな」
レッドが冷たく言い、ラグナロクはゆっくりと剣を納めた。
もう、こちら側に戦う術がないのは明らかだった。
セリンの胸には、魔力の刃が突き立てられていた。ファクターの得意魔法である即死魔法だ。
「ククク……全く、年は重ねたくないものね。このワタクシの即死魔法に気付けないなんて」
この土砂降りの雨の中、一切濡れることなく幽霊のように姿を現したのは、ファクターだった。
その姿は22年前と全く変わっていない。若い女性の生き血をすすり、術を施し、その容姿を永遠な物にしようと足掻く女の形をした化物だ。
比類なき美しさを持っているとも言えるし、嫌悪感を覚えるほど整い過ぎて気持ち悪くもあった。
「あらあら、こんなにお顔が汚れちゃって」
セリンを乱暴に抱き寄せると、溢れ出る血液を一口に含んだ。
「ククク……ババアの血ね」
乱暴に投げ捨てられるセリンの亡骸。あまりにも酷い仕打ちだった。ここにプレミアがいなかったことに安堵を覚えるほどだった。
「娘を逃がす意味はあるの?」
「あるから逃がした。バカなのか?」
「相変わらず反抗的ねえ」
「あんたのことは、22年間、一度たりとも忘れたことはない」
「あら、嬉しい。私はつい最近まで忘れていたわ」
嘘ではないはずだ。本当に他人に無関心な女だった。
「久しぶりの挨拶だ」
俺は『ウインド 剣』を放った。
「あら、随分手荒い挨拶ですこと」
ファクターは一瞬の内に俺の魔法を叩き落とした。一本の剣を覗いて。
剣は、ファクターのドレスにわずかながら切断した。ファクターの表情が見る見るうちに赤くなっていくのが分かった。
「レッド!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ファクターの怒鳴り声が響き渡る。ラグナロクが跪き、レッドはひどく慌ててファクターに駆け寄った。
「なんで一本見落としてるのよ!!!!!!!!!!!!」
レッドの頬に、ファクターの拳がとぶ。拘束と防御低下の魔法もセットだ。レッドの体が空に舞う。
「さっさとあの男を殺すわよ。下僕ども、支援してやるから、さっさと戦いなさい。ただでご褒美もらうつもり?」
「はっ!」
ラグナロクとレッドが前に出る。あれだけの力を持つ二人の男が、ファクターの言いなりになっている。不思議な光景だった。ファクターは一歩下がると、ニヤリと笑った。
昔から変わらない戦い方だ。強者を剣と盾にする。この二人にひらすらバフをかけつつ安全圏から攻撃魔法で狙ってくる。
前の二人は言わば人形だ。時には意図的にデバフを味方にかけこともあるし、体を壊しかねないバフをかけることもある。
「一瞬で終わらせなさい!!!」
狂人戦士化だ。大きな力と引き換えに、肉体や内臓に大きな障害を残す可能性がある魔法だ。今では禁忌になっている。
そんな魔法をためらいもなく、仲間の二人に使用する。やはり普通ではない。
プレミアの魔力が大きくなったのに気付いた。時間跳躍が発動する準備ができたようだ。この時間はなかったことになる
「またな」
俺はファクターに声をかけた。不思議そうな顔で俺を見ている。気が狂ったとでも思ったのだろう。
わざわざプレミアを逃がしたのには意味がある。少しでもファクター達の情報が欲しかった。この失敗を糧にするために。
俺は―――もうこの記憶を忘れることはない。記憶は地続きになっている。
合同演習を拒否したことによりレッドの介入を許した前回時間。
レッドの介入を防ぎ、ファクターまでは辿り着くことが出来た今回の時間。
その道程をハッキリと覚えている。
前の時間で―――時間跳躍の魔法を覚えたからこそ手に入れた能力だ。
プレミアの手によって、時間跳躍が発動するのが分かった。
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