運命/リール視点
「なぜ合同演習を行わなかったのか。私達には全く理解ができない。本当にアクトス軍に勝つ気持ちがあるのか?」
静まり返っていた会議室に、ミシリ―正規軍のヒルチナカ副将軍の声が響いた。
合同演習が中止になってから3日が過ぎた日だった。突然、ミシリ―王の名義で招集がかかった。
『アクトス国への出陣に関する打ち合わせ』ということであったが、実際は合同演習を中止したことによる非難の場であった。
「何度もお話させていただいた通りです。現在の私達の軍の練度では早急と判断したためです。合同演習に関しては、後日改めて回答すると将軍にお話しております」
「後日? すでに3日が経っている。その判断の遅さは戦場では命取りだ」
「まだ時間はあります。私達の軍の練度をギリギリまで見極めて判断したい。反射的に結論を急ぐのも、また戦場では悪手ではないでしょうか?」
なんとか反論に意見を出す。「なるほどー」という賛同の声もあれば、「言い訳がましい」という否定的な声も聞こえる。
プレミアとセリンが顔を青白くさせ俯いている。プレミアも初めての経験なのかもしれない。一言も言葉を発せず、ただただ小さく震えている。
確かに屈強な男達の大声は威圧的で凄みがあり、こういう場に慣れない女の子では動けなくなってしまうのは当然だ。
かく言う俺も、喫茶店をやっている時に街の会合に参加していなかったら面食らっていたはずだ。
副将軍は一呼吸置くと、再び声を荒げた。
「リール君。練度、練度言っているが、それは君の力量不足ということではないのか?」
「ヒルチナカ副将軍! その言葉は王に対しても無礼にあたるぞ」
隣で聞いていたチュバー将軍が間に入って来た。俺を傭兵部隊長に強く推薦したのは王であり、俺の能力を疑う発言は、すなわち王の任命責任を追及する意見と同義だった。
「しかし! 彼はただの傭兵部隊の部隊長ではありません。正規軍の一部の預け、ミシリ―第二部隊の将軍という立ち位置です。私達の仲間の命を預けているのです。私には、その兵士達を守る義務がある」
「わかって……います。私は大事な命を預かっている。だからこそ、絶対に正しい選択をします」
ヒルチナカ副将軍の言葉はもっともだった。俺は軍を率いた経験なんてない。個人的な能力を認めてもらったのは確かだが、それとこれとは別の話だ。軍の動きについてはプレミアの経験に頼っている部分が多い。
「もうよい」
いままで黙っていたミシリ―王が口を開いた。
「リール君の能力については、魔術師ランクとガーディンから、そしてアクトス軍のバルドルの討伐、ラグナロクと対等に渡り合ったことから疑う余地はない」
その言葉に安堵する。王に信用してもらえることが、この戦いにおいて最も重要なことだった。
「―――しかしだ。軍を率いるというのは、セリン様の推薦があったとは言え、確かに早計な判断であった。もちろんリール君の力を疑っている訳ではない。リール君の助けになる人物を推薦したいと考えている」
推薦したい人物―――。その言葉に背筋が凍った。
「入れ」
王の言葉に促され、姿勢の良い整った顔立ちの、貴族のような男が入ってきた。
それは―――飲み会の夜に出会った男だった
プレミアが突然立ち上がった。明らかに様子がおかしい。間違いないあれは―――。
「レッド君だ。若くてあまり知られていないが、軍を率いた経歴もある。能力は天才的だ。どのような局面でも活躍できる。きっとリール君の力になるだろう。2週間後に合同演習、1か月後に出陣。これで決まりだ」
王のその一言により会議は終了した。
ミシリ―王としては、両方の顔を立てた判断だったのだろう。合同演習に関しては、俺も決めかねていいたこともあり、半ば強引に事が運んだことにホッとした気持ちもあった。やはり合同演習なしでアクトス軍と戦うのは不安でもあった。
「これからよろしくね」
爽やかな笑顔と共に差し出されたレッドの右手に、プレミアが反応できていない。これから起きる惨劇への恐怖心が蘇っているようにも見えた。
俺にはその時の記憶がない。
記憶がないからこそ、まだこの運命に抗えるのではないか、という考えを持つことができた。嫌な感覚を拭い去ることが出来た。
ただ、プレミアの気持ちに寄り添えないのは、なんだかとても寂しかった。
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