地獄の光景/リール視点
瀕死の兵士と主力部隊をセリンに任せ、俺はプレミアと共にレッドが率いる中央部隊へ向かった。
演習地のため、距離は遠くない。馬を走らせればすぐに到着する。林を抜け、川を渡り、石畳の道を進む。プレミアは気落ちしているようで、一言も話かけてこない。暗い表情で俺に着いてきている。
当然だろう。この先で何かが起きているのは間違いない。軍の政治的内乱か、それともアクトス国からの攻撃か。考えられるのはこの二つしかなかった。
目的地である草原が近づくにつれ、不安定な魔力を感じようになってきた。
多くの死者がいる。
それは、瀕死の兵士と漂う魔力の気配から想像はついていた。覚悟はできていた。
しかし―――。
実際の景色は想像を絶するものだった。
「うっ……」
その光景から目をそらしながら、プレミアは吐きだした。
俺はプレミアを馬からおろし、背中をさすってなだめた。幸いにも攻撃的な気配は感じない。静かに泣いているプレミアをなだめながら、心が落ち着くのを待った。
戦場は俺も初めてだ。吐き気を催す気持ちはよく分かった。
本来なら美しい緑色に染まった草原が、真っ赤に染まっている。人間の欠片があちこちに飛び散り、血液が落ちる音が聞こえる。嘔吐を促す匂いが風で運ばれ、肉食動物たちが顔を突っ込んで漁っている。知っている顔もあるはずだが、区別なんてつきようもないくらい酷い損傷だった。
まさに地獄だった。
「……リ―ル様……もう大丈夫です……」
「気にするな。しょうがない」
落ち着いたプレミアを連れ、死体の海を渡り始めた。
「おーい!!! 生きてるやつがいたら返事しろーーー!!!!」
「誰かいませんかーーー!!!」
しかし返事はない。それでも根気強く声を出す。
レッドの中央部隊は約1,000人。対峙していたと思われる正規軍も1,000人だ。死体の数を見れば、正規軍の反乱なのか、それともレッド軍の反乱なのかは区別がつくかもしれないと思った。
だが、正常な形で残っている死体は少なく、数を数えるのすら困難だった。
「生存者が全くいない……」
「リール様!!! あそこ!!!!」
プレミアが指さし方向には、倒れずうなだれる人物の影が見えた。
「生存者か!!!」
急いで馬を走らせたが、実際には、地面に突き立てられた剣に寄り掛かった亡骸だった。珍しく五体満足で残っている亡骸だった。
そして死体の山も、この亡骸から先にはなくなっていた。先頭に立ち、最後まで皆を守っているように見えた。
緑色の草原が広がり、風も穏やかだ。今まで通って来た地獄が嘘のようだった。
「リール様……この方……レッド様ですよね……」
血塗れ顔だったために、すぐに分からなかった。その亡骸は確かにレッドだった。
「ああっ!!!」
再びプレミアは泣き出してしまった。知っている顔は、やはり辛い。
「…………」
何だろう。レッドの周りから、多くの魔力の欠片を感じる。強力な魔法の残滓だろうか? いや、それにしては規則性が保たれている。
「ひっく……ひっく……リール様……ごめんなさい……もう少しだけ……ひっく……」
泣いているプレミアを抱きかかえ、魔力の残滓をより注意深く観察した。
やはり動いている。何か形を作っている。解除する魔法があれば―――。一つのアイデアが浮かんだ。解除できなくとも、魔力の動きを止めれば変化があるのでは?
「時間停止……」
その瞬間、死体一つなかった緑色の草原が、血の色に染まった。おびただしい数の死体の山。しかし、そこには先ほどまでと違い損傷が少ない。
「くっ……」
思わず声が漏れてしまう。予想外の光景だった。なぜ、魔法でこの光景を隠す必要があったのか?
正規軍であることがすぐに分かった。ということは、今まで俺達が見てきたのはレッド軍か。
そして――――――レッドの亡骸が――――――この場から消えていることに気付いた。
分かっている。亡骸がなくなっていたのではない。魔力が、その形を保っていないだけだ。
間違いなく――――――俺達が見ていたのは――――魔力によって作られたニセモノのレッドの死体だった。
読んでいただきありがとうございます。またブックマーク、評価ありがとうございます。




