戦いの準備①/リール視点
「わきが甘い!!!」
ガーディンの剣が俺の首元で止まる。俺が押していると思っていたが、一瞬の隙があったようだ。
「もう少しだと思ったんだけどな」
「はっはっはっ! その油断がいかん。しかし、たった二か月でよくここまで成長したな」
剣を下ろし大きく笑う。大人と子供の差があった修業当初と比べれば、少しは成長したかもしれない。
魔力を介在しない、剣技や肉体のみの戦いではそのくらい力の差があった。
「戦士だ魔術師だ言ってられませんからね。純粋に戦える力が欲しかったです」
「それでもリール君は魔術師だ。ここまで上達するなんて、まったく想像がつかなかったぞ」
仲間を集める面接が終わってから、はや二ヶ月が経った。今は、アクトス国に攻め込むためミシリ―国の正規軍と合流し、訓練の日々が続いている。
傭兵部隊と一部正規軍の統括を任せられているのだが、最初に実感したことは、やはり自分の弱さだった。
言ってしまえば、俺は飲食店を経営していたどこにでもいるおっさんだからだ。
戦いに強い方がおかしい。ガーディンとの能力試験でも実感していたが、本格的に戦う技術が必要になった。
だからこそ、ガーディンと毎日空き時間に稽古を続けてきた。
「今日もやってるねっ」
赤髪を靡かせながらやってきたのはスパルナだった。娘のラサヤナも一緒のようで、ガーディンに元気よく挨拶している。
「ギルドに来るなんて珍しいな」
「ラサヤナが散歩したいっていうからね。ついでにリールの特訓を見に来たのさ」
「リールお兄ちゃんが戦って姿はやっぱりかっこいいね」
「おいおい! ワシもかっこいいだろう?」
「ガーディンおじさんはかっこいいより渋いだね」
「あはは! 何それっ! スパルナ、それは褒めてないよ」
「え、褒めてるよ」
笑顔の二人を見ていると少しホッとする。ラサヤナはガーディンの肩を軽く叩くと、怒ったふりをしたガーディンが、ラサヤナを追いかけ始めた。「キャーキャー」と二人がじゃれあっている。
「それでさ……リール。前にした話は覚えてる?」
「一緒に戦いたいって話か」
「うん。僕も連れて行って欲しい」
スパルナは迷いのない口調でそう言った。
五人の仲間と初めて訓練を行った日の夜のことだった。食事の席でスパルナは、突然そんなことを言い出したのだ。
「何かあったらラサヤナはどうなる?」
「分かってるよ。でも、もしこの戦いに失敗したら、僕達も無事ではすまないと思う。ミシリ―の力は弱まって、きっとまたアクトス達に連れ去られる。だから少しでも、リールの力になりたいんだ」
キングガルーダであるスパルナが加わることは、間違いなく強力な戦力になる。アクトス達に勝てる可能性は相当高まるはずだ。
でも―――。
その夜から、俺は答えを保留し続けていた。
「―――もう少しだけ時間が欲しい」
「うん。いい返事を期待してる」
二人を切り裂く可能性がある決断は、そうそう簡単には出来なかった。ただ、もし俺達がアクトス軍に負けた場合、二人の平和な生活が望めないのも容易に想像できた。
スパルナの『戦いたい』という気持ちは理解ができた。でも、ラサヤナの近くにいて欲しいという気持ちも強かった。
午後には正規軍との本格的な合同演習がある。
もし現在の戦力で勝てる見込みが高いようであれば、スパルナを危険な目に合わせる必要もない。
もう少しだけ自軍の戦力を見極めたいと思った。
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