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回転/リール視点

 悪夢。


「お願い起きて」


 その言葉で目が覚める。いつもの追放の夢ではないが、とても気持ちが搔き乱される夢だった。あの光はなんだったのだろう。


 ベッドから起き、朝食をすませる。今日は仕入のために朝の市場へ行く日だった。ランチで出す食材を探しに行く。


 太陽はいつもより眩しく感じる。体一杯に光を浴びるために、大きく背伸びをした。「喫茶店リール」の文字が目に入ってくる。

 開業してから12年。だいぶボロボロになってきている。そろそろ看板だけでも取り替えたい。


「よいしょ……っと」


おれは大きな木の籠を抱え市場に向かった。


*********


 朝の市場は平和そのものだ。商人達が競うように良質な商品を薦めてくる。あれはアンチョリか。癖のある魚ではあるが、ファンが多い魚だ。今日のおすすめはアンチョリのピザがいいかもしれない。


「ようリールさん! 今日はアンチョリかい!?」


 声をかけてきたのは、馴染みの店の髭おやじだ。

 

「ああ。3日分欲しい」


「あいよ! いつもお世話になってるから安くしとくぜ!」


「ありがとう。今日はいいのか?」


「ああ! 今日の売上は自分でやるさ! いつも頼ってたら悪いだろ?」


「残念。おまけを期待してたんだけどな」


「おまけ? 分かったよ! いつもの御礼だ!」


 たくさんのアンチョリと共に小さなリンゴが追加された。何もしてないのにありがたい。恩は売っておくべきだな。


「じゃあまた来るよ」


「毎度あり!!!」


 何も変わらない日常。いつものやりとり。そうか、開業してから12年も同じことを繰り返しているのか。


 仕入れた荷物を抱えながら来た道を戻る。


 広間には大きな銅像が立っている。相変わらず腹の立つ顔の国王だ。


「ん?」


 銅像の近くで、15、16歳位の少女が屈強な男達に囲まれているのが見えた。髪の毛は肩にかかる位の長さで、体格は華奢だ。

 気になって横目で見ていると、突然、一人の男が少女の胸倉を掴んだ。


反射リフレクト!!」


 俺は瞬間的に魔法を使った。流石にいきなり殴るような真似は出来ない。彼女の胸倉からリフレクトを使用して、無理やり男の手を引き離した。


「お前ら、女の子相手に何やってんだ」


 男達が驚いている隙に、俺は間に割って入った。

 

「あ? なんだてめえ。こいつがアクトス王の悪口を言ったからぶん殴ってやるところだったんだよ」


 アクトスなんか悪く言われて当然だ、という言葉をぐっと飲みこむ。

王国の民衆は、魔王を倒した英雄アクトスを信じているし尊敬している。そして、その心を利用して、民衆に自分を信じない者への私刑を推奨していた。


「失せろ」


 俺はギロリと睨みつける。こんなチンピラ戦うまでもない。目で威圧して終わりだ。


「な……なんだよ、その眼は! 分かったよ!! てめえが代わりに殴っとけよ!!」


 すごすごと子分を引き連れて退散していく。見掛け倒しとはこのことだ。あの筋肉は有効に使われる時がくるのだろうか。


 女の子はペタリと座り込んでいた。何やらじっと俺を見ている。目が透き通っており、その透明感から吸い込まれそうだ。この街では見たことがない美少女だった。


「大丈夫?」


 俺は手を差し伸べた。美少女相手だからではない。女の子相手には紳士であるべきだ。


「ええ……」


 手を取りながらも、女の子は俺から目を離そうとしなかった。


「失礼ですが……」


 女の子は何やら考えながら声をかけてきた。


「先ほどの魔法は、レア魔法の『リフレクト』では?」


「そうだけど」


 正直レア魔法という感覚はない。あくまで数ある魔法の内の一つだ。


「ということは……あなたは魔術師のリール様では……?」


 魔術師としての自分を訪ねてくるなんて珍しい。


「そうだ。Cランク魔術師のリールだ」


 それを伝えた瞬間、女の子は突如泣き崩れた。


「リール様……。本当にリール様なのですね……」


「え、おい……ちょっと……」


 なんだか自分が泣かしたような形なっており、遠目で見ている人が増えてきた。しょうがない、店に連れていくしかない。


「とりあえず場所を変えよう。立てるか」


「えぐっ……、えぐっ……」


女の子は鼻水を垂らしながら泣いている。美人が台無しだ。これは大変なことになったな。肩を貸し、なんとか立たせる。


「………」


 何やら話そうとしているようだが、何を言っているか分からない。


「どうした?」


「私は……私は……」


 ようやく声が聞こえるまでになった。


「私は? 私はなんだって?」


 俺は優しく問いかけた。


「私は……魔術師セリンの娘……プレミアです……」


 そう言うと彼女は再び泣き始めた。


ありがとうございます。

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